2022年12月に公開され、現在も大ヒットを記録しているアニメ映画『THE FIRST SLAM DUNK』をはじめ、さまざまなアニメやゲーム作品の3DCG・デジタル作画を手掛ける株式会社ダンデライオンアニメーションスタジオ(以下、ダンデライオン)。映像制作以外にも、その技術を活かしたゲームの演出や制作協力、さらには地域・企業・サービスのブランディングや作品のライセンス事業も行う。同社は制作現場にリモートデスクトップ「Splashtop」を導入し、クリエイターの新たな働き方の実現に積極的に取り組んでいる。今回は代表取締役の西川 和宏 氏に、経営者の視点からみるクリエイターのリモートワークについて、取り組みの背景とその成果、そしてこれからについて伺った。
クリエイターが持続的、かつより良い仕事ができる環境を追求
2007年に設立されたダンデライオン。なんといっても映画『THE FIRST SLAM DUNK』が注目されるが、同社は人物キャラクターの制作に強みを持っており、ファンの多いゲームタイトル『あんさんぶるスターズ!!』をはじめ、さまざまな作品で魅力的なキャラクターの数々を生み出している。現在では短編アニメーションの制作も始まっており、これまで手掛けてきたCGアニメーションよりもさらに実写に近い映像制作を、従来とは全く異なるアプローチで実現する作品にもチャレンジしていると西川氏は語る。
その西川氏は大学時代、映画業界に興味を覚え、卒業後は大阪のCG・映像・デザイン専門学校に入学。1年間、CG制作の技術を学んだ。その後は東京でCG制作会社に就職し、CGアニメーター/ディレクターとしてキャリアを重ねて独立、同社の設立に至る。その過程で早い時期から、クリエイティブな世界におけるテクノロジーの活用にも関心を抱いてきた。
「CG制作では普段からコンピュータを使っていたわけですが、当時は今と比べるとマシンスペックが驚くほど低かったうえに、CGといえども手作業ですから、時間がいくらあってもなかなかつくり上げることができませんでした。その中で、どうすればCG作りをもっと効率化できるのか。また、チームで制作に取り組む際、どうすればより適正な時間でより良いものができるのかと、常々考えていました」(西川氏)
CGアニメーション制作に取り組んでいるまさにその瞬間は、クリエイターとして集中し、没頭しているので決して苦しさは感じないものの、プロジェクトが一段落すると体力的に限界を感じ、継続的なモノづくりに不安を覚えていたと西川氏。その状況を改善する手段を日々模索していたという。
その過程で2020年、新型コロナウイルス感染症が発生し、同社でもすぐに全社リモートワークへ切り替えた。つまり当初はコロナ禍対応だったわけだが、パンデミックが落ち着きを見せてきた現在でも出社は必要のあるときに限られ、全社リモートワークの状況が継続されている。
「アニメ制作では一つのモニターを何人かで見ながらチェックしたり、顔を突き合わせて重要な打ち合わせを行ったり、“対面”を必要とする機会がどうしてもあります。そういったときは会社に集まることもあるのですが、基本的には映像制作も含めて在宅ワークになっています」(西川氏)
設立時は5人でスタートしたダンデライオンだが、現在スタッフは約80人。しかし上記のような特別なシーンや仕事が佳境に入った時期でない限り、出社するのは数人程度で、それもその時々の仕事の状況を個々人が判断し、リモートと出社を使い分けている。それでも社内にいるスタッフは常時10人いないほどであり、それも出社が必要なタイミングのみ出社しているそう。リモートワークはかなり浸透しているといえるだろう。
そもそも、クリエイターが働く環境の改善を試行する中で、2016年頃から外部とのWeb会議も取り入れてきた同社。全社リモートワークの導入自体はコロナ禍が契機となったものの、スタッフがより柔軟に働ける環境を実現したいとの思いは、それ以前から西川氏の中にあった。
「無理」と考えていたリモートワークをSplashtop導入で実現
「打ち合わせをするにしても、会社に出てくるだけで移動時間がかかり、制作に充てられる時間はその分失われてしまいます。まずはそこをどうにかできないかと考え、チャットでのコミュニケーションもコロナ禍以前から取り入れてきました。やってみなければできるかどうかわからないので、できるところから少しずつ始めてきた感じです」(西川氏)
全社リモートワークについても、もちろん「できるかどうかわからない」状況ではあったが、コロナ禍の緊急性が有無を言わせなかった。「必要に迫られ、(リモートワークを)もうやってみようということでスタートしたんです」と西川氏。いざ始めてみると、リモートワークは円滑に実施できた。「通信環境さえ安定していれば案外スムーズにできるものなんだな、今まで何をしていたんだろうと思いました」と西川氏は振り返る。その感覚は西川氏だけでなく、スタッフ一人ひとりが多かれ少なかれ体感したものであったようだ。
とはいえ、テクノロジーの活用に深い関心を持っていた西川氏でさえ、当初はリモートでの制作には懐疑的だったという。
「CG・アニメ制作では扱うファイルのデータ容量が膨大で、社内の環境で作業していても重いと感じます。他社や外部クリエイターとFTPを介してファイルをやり取りするとそれだけで相当な時間がかかり、やり取りを管理するマネジメント側の時間と労力も要します。それをリモートワークで全社に広げるのは、まず無理だろうと考えていました」(西川氏)
その状況を変えたのが、リモートデスクトップツールだ。同社では現在、スプラッシュトップのリモートデスクトップソリューション「Splashtop」を導入している。SplashtopはPC画面を高速・高品質に転送し、離れた場所にある端末から転送元PCの操作を可能とするツール。ファイルではなく表示画面のみを転送するので、大容量ファイルをアップロード/ダウンロードする負荷はかからず、スムーズな作業が可能となる。同社でもファイル自体を社内のPCに置いたまま、各クリエイターが自宅PCから会社PC上の作業を行うことで、円滑なリモートワークを実現している。加えて、公開前の作品データを扱うことからセキュリティも極めて重要となるが、リモートデスクトップなら転送先端末にファイルが保存されない仕組みであり、その点のリスクは低いといえる。
ちなみに、リモートワークのためのツール選定として、複数のツールも比較した。短時間テストする程度ではわからない部分も多いため、実際にしばらくの間はSplashtopとほかのツールを併用していた。そのうえで、最終的にスタッフがよりストレスなく快適に、会社にいるときと同様の感覚で作業できるかどうかを評価し、現場の意見を重視した結果、Splashtopに統合していったという。
また、CG制作中にチャットなどでテキストを入力したいとき、ほかのツールではソフト切り替えに日本語ショートカットが利かず、作業が一手間増えてしまったが、同製品はそうした操作性が良く、加えて西川氏は代表という立場から、ほかのツールと比べてコストメリットの高さも評価したと語る。
リモートワークの良さをさらに活かすには
西川氏自身は今、会社の経営や企画、プロデュースなどの仕事が中心だ。そのため、Splashtopを介して会社PCの表示画面にアクセスするシーンは制作作業ではなく、クリエイターが作った制作物のチェックが主な用途となっている。
この数年、クリエイターも含めた全社のリモートワーク化を進めてきた結果、移動時間を削減し、個々のクリエイターが集中しやすく快適に打ち込めていることが、やはり最大のメリットだと西川氏。それに加えて「かつては仕事時間が長くなると体力的な問題のほか、家庭生活やプライベートの時間が少なくなる部分もありましたが、自宅で仕事ができれば勤務時間内でもちょっと休憩したり、家事を行ったりする時間ができます。その意味では一日の中でバランスが取りやすくなり、個々が抱えていたストレスも軽減したのではないかと考えています」と語る。
今後については、リモートワークの利点を確認できたことを前提とし、次の段階に入っていくという。
従来であれば社内の席数がスタッフ数の制限につながり、席を用意できない部分は外部クリエイターに依頼することも多かった。それでも制作はできるが、制作を通じて習得するノウハウを自社に残せないという課題もあった。しかしリモートワークの導入で、同日に出社する社員数が少なくなり、席数の制約も取り払われたことから、今後はスタッフの人数をさらに増やしていけるフェーズに入ったと西川氏。リモート環境によって地方に居住するクリエイターを雇用したり、他社で仕事をするクリエイターに副業として同社の仕事を依頼したり、柔軟なスタッフィングが可能になる。
さらにクリエイターの副業については、他社からの受け入れはもちろん、自社のスタッフにも認めており、「当社だけで仕事をしていると、当社の作品にしか携われません。可能であればさまざまな作品に関わることでスキルをより高められますし、いろいろな人たちと仕事をすることで得られるものもあります。結果的にそのクリエイターの腕が向上し、当社として良い作品を生み出すことにつながれば、それに勝ることはありません」と、育成面にもメリットがあると期待を込める。
今後はクリエイターのリモートワークを推し進めつつ、一方では会社への出社も増やして、双方の利点を活かすハイブリッドワークへのシフトを模索している。実際にこの4月からは、週2日程度の出社を組み合わせていく予定となっており、クリエイターにとっての「より良い働き方」はこれからも追求されていく。
「CG・アニメ制作の打ち合わせはWeb会議で済むケースもありますが、企画を話し合うときや、作品チェックをするときなど、対面でコミュニケーションするメリットが活きる場面はやはりあります。リモートの恩恵を受けつつ、対面とのバランスを取り、クリエイターにとってより働きやすい環境づくりを進めていきたいですね」(西川氏)
関連情報
株式会社ダンデライオンアニメーションスタジオに関する最新情報は、同社HPよりご確認ください。
https://www.dlas.jp/
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