人材不足で長時間労働が常態化している建設業では、2024年問題(※)の解決に向け、IT活用による業務効率化で、労働環境を改善していくことが喫緊の課題となっています。国土交通省も、建設現場の生産性向上や業務、組織、プロセス、文化・風土や働き方の変革を目的として、i-Construction及びインフラ分野のDXを推進しています。しかし、建設業界のDXは、思うように進展していないこともまた事実です。

そこで、建設ITワールド 代表取締役で建設ITジャーナリストの家入龍太氏と、生成AI×IoTソリューションサービス「BizStack Assistant」を提供し、建設現場における業務効率化を支援しているMODE シニア事業開発マネージャー 道間健太郎氏に、建設DXの現状と課題、効果的なITの活用方法などについて語り合う、対談を行ってもらいました。

※2024年問題…2024年4月1日から施行された働き方改革関連法により、建設業界が直面している労働力不足の問題を指す。労働時間の上限規制が適用されるため、長時間労働の是正や人材の確保・育成が急務となっている。

  • (左)MODE シニア事業開発マネージャー 道間 健太郎氏
    (右)建設ITワールド 代表取締役 建設ITジャーナリスト 家入 龍太氏

建設業界のDXの現状

家入氏:建設業の2024年問題の根底にあるのは人手不足で、この状況は22世紀まで厳しくなる一方だといわれています。しかし、建設業の現場を見ると、たくさんの人が集まって、鉄筋を1本1本置いて結んだり、型枠を付けたり外したりするなど、多くの工程を手作業で行っています。一方、自動車工場では、以前はベルトコンベアの両側に人がいて作業していたものを、今は全部溶接ロボットがやっています。このように他業種と比べても、建設業は「人に頼ったものづくり」に頼っている傾向があり、このままでは建設業は立ち行かなくなるでしょう。今は、その過渡期に差し掛かっています。すなわち、AIやIT、ロボットの力を借りて、人間の代わりに仕事をしてもらうことが必須になりつつあるのです。これは一般の事務員から現場の作業員に至るまで、全員がITを何らかの形で使って効率を上げていく、全員参加型のDXを推進していく必要があるということです。

道間氏:建設DXがなかなか進まない理由の1つとして、推進する側と現場に認識の差が生まれていることが挙げられると思います。いわゆる事務方の人が発案しても、現場の人は、それが本当に効率化につながるかどうか分からないため、新しいものを取り入れることは、ハードルが高いと感じてしまいがちです。そのため、現場の改革を推進しようとしている人が、現場と同じ目線で仕事をすることが大事だと思います。

家入氏:建設業では、まだ、お困りごとを感じていない企業が結構あります。3次元BIMが登場して10年以上経ちますが、従来の2次元CADで十分やっていけるという会社もまだ多く、そうした会社では「新しいことをあえてやる必要はない」と考える人も多いようです。ただ、ITを活用している会社と、従来の手作業が多く残る会社では、効率化で大きく差が付きます。社員がみんな高齢化し、新しい人を入れなければいけないということになったときに、それが原因で人が採用できない可能性もあります。再び2024年問題のような制限が出てきた際には、従来のやり方では仕事ができないという課題が、急に顕在化するでしょう。

15歳から64歳の生産年齢人口がこれからも減っていくことは、ほぼ確実な流れだと言えます。今は困っていなくても、いずれ人がいなくて本当に困るときがやって来ます。それを想定して、今から効率化していかないといけないことに気がついているかどうかが、今後大きな差になっていきます。

  • 建設ITワールド 代表取締役 建設ITジャーナリスト 家入 龍太氏

建設業は、どこからDXに取り組めばいいのか?

家入氏:あるスーパーゼネコンのICT推進担当の人に聞いた話ですが、「こういうシステムがありますが、どうですか」といったら、各現場からまったく受け入れてもらえなかったそうです。しかし改めて「現場での困りごとは何ですか」と聞いたところ、残業が多い、移動が多いといった話が結構出てきました。そこで「リモートで会議するとみんな早く帰れますよ」などと、困りごとを起点としてITを提案したところ、すんなりと受け入れてもらえたといいます。

「今の仕事が当たり前だ」と思っている人も多いと思いますが、実はいろいろな無駄があり、時間の割には成果が上がっていないことに気が付いている人も多くいます。それを「なぜだろう」と考えて、それに対する解決策としてITを導入する。そういう形で進めると、みんなすんなり受け入れてくれるようです。

道間氏:たしかに、現場の人の多くは、「本当はもっと業務が楽になるのではないか」と感じていますね。現場に行って直接困りごとを聞いて、コンシェルジュ的な形でお手伝いすることを、われわれもすごく大事にしています。

家入氏:DXは、まずは効果を実感しやすいところから始めるべきだと思います。例えば、建設業では移動の無駄がすごく多い。家から現場に行くような通勤的な移動もありますし、現場の事務所から作業しているところまで、何キロも離れているケースもあります。これまで行ったり来たりしていたところを、すべての書類や図面をクラウドで見られるようにすると、圧倒的に労力や時間を短縮できます。

またテレワークを導入すれば、通勤の移動も現場での移動もなくなります。これは簡単なシステムで実現できる割に効果が高いと感じています。クラウド型の施工管理システムはたくさんありますので、その中から自社に合ったものを一つ選んで導入するといいでしょう。

最初は単純な書類をクラウドで見るというところから始めて、だんだん高度化していくと、デジタルで効率化した建設業になっていくと思います。

道間氏:当社では、スモールスタートを推奨しています。その際のポイントは、「現場で使われているものを尊重しながら進めること」です。現場の機器はそのまま使いながらクラウド化、見える化、効率化していくことを勧めています。そのひとつとして、普段みなさんが使っているチャットアプリに生成AIを搭載し、少し賢くなったチャットツールという形で「BizStack Assistant」というツールを提供しています。

一気に改革することは大変なので、現在使っている機能をアップデートするようなイメージでDXを進めていくのが、スモールスタートとして大事だと思っています。そのために、現場で1つ監視対象を見つけて、スモールスタートできるプランも用意しています。大きな予算をかけて何か新しいものを導入するというのはハードルが高いので、SaaSのような形で月額費用を抑えながら始めて、一般社員が導入しやすい形で進めていくことがすごく大事だと思います。

  • MODE シニア事業開発マネージャー 道間 健太郎氏

DXの効果を実感しやすい「BizStack Assistant」とは

家入氏:建設業は近接目視といって、現場に行って肉眼で見ることが、つい数年前までは当たり前でした。しかし最近はデータ化したものを見ることができるようになり、望遠カメラで撮った写真を見るとか、ドローンで撮影するといったことも可能になってきました。近接目視の代わりにデータ化やAIを使うことでグッと生産性が上がりますし、安全性も担保することができます。

道間氏:われわれは、現場の情報をIoTによってセンサーやカメラで見えるようにしていますが、それをずっと見ている時間ももったいないと感じていました。ここを改革するためにリリースしたのが、「BizStack Assistant」です。重要なのは、みなさんが使っているDirect、Teams、Slackというスマートフォンのチャットツールで実現している点です。

生成AIを入れているため、自然言語で話しかけると答えが返ってきます。さらに、その日に起こったことやその日やらなければいけないことまで情報をサマライズして出してくれるという点では、部長や課長など管理者の仕事が削減できる効果が見込めます。

BizStack Assistantでは、生成AIを活用していますが、生成AIの強みは、事務的に持っている情報を掛け合わせて使えることです。例えば、ポンプに異常があって警告が出た場合、どのポンプのことなのか、初めて作業する人はわかりません。「BizStack Assistant」では、ポンプの情報をチャットで指示して表示させることで、どのポンプのことなのかがわかります。

家入氏:ポンプの図面は、あらかじめ教え込んでいるのですか?

道間氏:はい。何百枚もの学習データではなく、配置図を1枚入れるだけです。それで、「異常があるポンプはこれです」と答えてくれます。異常があることが生成AIから通知され、「それってどこなの?」と聞いたら「これです」と回答が来ます。そして、どう対応すればいいのかを聞くと、マニュアルを検索して表示してくれます。

「BizStack Assistant」デモ画面

家入氏:自分で検索するのではなく、チャットに聞いて教えてもらうということですね。これは大きな教育効果があると思います。現場の先輩は忙しいので、基本的なことを聞いたら怒られたりしますが、ChatGPTなら聞き放題ですから(笑)。

道間氏:実際にお客さまからも、新人教員やメンターの時間がすごく削減できたという話を聞いています。

また音声変換も可能ですので、現在はインカムアプリのメーカーとも提携を進めています。最近、DXが進んでいる会社では、スマホは見ずに、耳にイヤホンをつけてトランシーバーの代わりにやり取りをするケースが増えています。そうするとグループで会話ができ、情報共有もできます。またリモートで朝礼も行えますね。現場にわざわざみんなが集まらなくてもよくなりますから、その時間に移動している人も自動車を運転しながら朝礼に参加することができます。現場で使いやすいツールを目指すのであれば、声への対応というのは必須だと思います。

  • 「BizStack Assistant」を体験

今後の建設DXの進め方

家入氏:今後、クラウドや点群データ、デジタルツインなどによってかなりの効率化が進むでしょう。しかしこれを全員でやろうとすると、昭和の時代から染み付いた価値観を180度変える必要があり、現場の意識改革も必要になってくると思います。これまでは、会社で長時間働いていたほうが熱心だと思われたり、定時に帰ると白い目で見られたりする雰囲気がありました。それを、早く帰ることが良しとされるような文化に戦略的に変えていかなければなりません。経営者が繰り返し「早く帰れ」というような方法もあるでしょうし、業務時間が減っても仕事量が一緒であれば給料が減らない仕組みや、早く帰る人が出世するといった文化を作る必要もあるでしょう。そのときにAIやロボット、クラウドを導入するだけでなく、システムを入れた結果、時短につながっているのかどうかを確認することも必要です。

道間氏:「紙をなくしましょう」というデジタル庁のアナログ規制など、国から指針を出してもらうことはありがたいです。それによって、今まで3年かかって浸透させていたものが、もう少し短い期間で浸透できるかもしれないという期待がもてます。

われわれは、最先端の新しいことに取り組む「モデル現場」で新しいソリューションを試して、その結果を横展開していくことがセオリーだと思っています。スーパーゼネコンなどのモデル現場から結果を出して、ROIである削減効果をしっかり出し、他企業に展開していくことが大切だと思っています。

家入氏:スーパーゼネコンの中でも、先進的な現場は、社内から注目されていて、見学に訪れる方も多いようです。そこから、ノウハウが広がっていきます。建設業の人は横並び志向が強いので、一箇所でも効果的なところを作って見学してもらうのがいいでしょう。それが無言のPR効果を生んで自然に広がっていきます。

道間氏:最先端なことに取り組んで効率化を図っているというのは、企業のアピールにもなりますね。

今後の建設ソリューションに期待される機能

家入氏:これまでベテランの人が生き字引として、技術伝承や社内の特別なノウハウの伝達を行っていたように、技術や技能、知識を後世に伝えていくために、生き字引的なAI活用を私としては期待したいと思います。

道間氏:今日の対談では、若い人でもベテランでも、現場でも事務所の人でも使える「誰でも使える」が、キーワードとして挙がりました。そのためには、標準化という形で、みんなが使えるようなプラットフォームを用意していく必要があると思います。どの現場でも同じようなソリューションを使って効率化が図れることが、今後の建設業界では大事になってくるでしょう。われわれも「BizStack」や「BizStack Assistant」をそういう形で提供できるようにしていきたいですね。


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