いま、製造現場においてもデジタルトランスフォーメーション(DX)の波が押し寄せている。人材不足の解消やコストの削減を図るため、AIやIoTを活用して製造工程の自動化・効率化に取り組む企業が増加傾向にあるのだ。そのなかで、官能検査など人の五感を活かして、良品・不良品を判定するケースも多くある外観検査の領域に、AIを活用する流れが加速してきている。だが、AIを外観検査に活用するにはAIモデルの作成や現場の環境構築など、やるべきことは多く、導入のハードルは高い。

本稿では、コア技術である画像処理技術を用いたソフトウェアとハードウェアを提供するFAST(ファースト)がリリースしたAIプラットフォームに注目。インテル® Core™ プロセッサー・ファミリーを用いた従来のルールベースの画像処理と、インテル® OpenVINO™ ツールキットを活用したAIを組み合わせ、それぞれの“良いとこ取り”をコンセプトに開発された、オールインワン型AIソリューションの実力と導入効果を確認していく。

AI外観検査の導入ハードルを下げるプラットフォームが登場

1982年に設立され、“いかに人間に近づけるか”“いかに人間を超越するか”をスローガンに、独自の画像処理技術を用いて製造現場の作業効率化を支援し続けてきた株式会社ファースト。画像処理ライブラリや汎用画像処理装置を販売するほか、半導体・電子業界、フラットパネルディスプレイ業界、印刷業界、自動車業界など、幅広い分野の課題解決を支援するソリューションを提供している。

同社では、昨今のビジネストレンドといえるAIへの関心が高まっていることを受け、AI開発からインライン展開までをワンストップで支援する「AIプラットフォーム」を開発し、提供を開始している。株式会社ファースト 営業本部 プロダクトR&Dグループの宇津木 裕貴 氏は、開発の経緯を次のように語る。

「スマートファクトリー化が進み、画像処理技術を用いた検査の自動化が当たり前となった製造現場においても、ベテランの経験に依存する傾向が強い目視検査など、自動化の難易度が高い工程については、取り残されているケースはめずらしくありません。こうした状況のなか、近年の技術トレンドといえるAIを用いて取り残された領域の自動化を図れないかという相談が増えてきました。このようなニーズに応えるため、弊社ではこれまで培ってきた画像処理技術を活かしたAIプラットフォームの開発に着手しました。当初は案件ごとに特注の装置をオーダーメイドで開発していたのですが、要望が多くなってきたこともあり、開発したものをブラッシュアップしてまとめることで標準製品として製品化しました」(宇津木氏)

  • 株式会社ファースト 営業本部 プロダクトR&Dグループ宇津木 裕貴 氏

    株式会社ファースト営業本部
    プロダクトR&Dグループ
    宇津木 裕貴 氏

画像処理のスペシャリストである同社が開発したAIプラットフォームでは、AIを手段のひとつとして捉えており、従来から使われてきたルールベースの画像処理の代替ではなく、効果を発揮する領域にAI技術を活用するというコンセプトで開発されている。

「“AIは何でもできる”というスタンスで導入を図る企業では、期待していた効果が得られていないケースも少なくありません。AIであろうとなかろうと、課題を解決できればよいという考えのもと、目的ありきの効果的なAI活用を進めていくことが重要となります」と宇津木氏は、従来からのルールベースの画像処理と、AI技術を適材適所で共存させられるAIプラットフォームを目指したと説明する。

AIを効果的に活用し、数値では判定しづらい領域の検査を自動化・高速化

ファーストのAIプラットフォームは、「AI開発ツール FV-AID」と「WIL推論ライブラリ WIL-PDL」のふたつで構成されている。AI開発ツールは、学習モデルの開発と精度評価から、現場への投入(インライン展開)まで、環境構築とデータ管理を1つのツール上で完結できることが特徴。さらに学習用ワークステーションにはソフトウェアがセットアップ済みで、開梱したその日から利用を開始することができるようになっている。

「AI技術を用いた外観検査では、まず画像データを収集、整理して学習を行うための環境を構築する必要があり、これがAI導入における障壁となっています。弊社のAI開発ツールは学習用・評価用画像の分類・管理や、学習パラメータの試行錯誤、交差検証によるモデルの精度評価・比較などをサポートするための機能が網羅されています。そのため、環境構築にかかる時間や人的リソースを削減でき、AI導入のハードルを下げることに成功しています」(宇津木氏)

構築したAIモデルはAI開発ツール上で変換され、WIL推論ライブラリに組み込まれる。WIL推論ライブラリは、同社が提供する標準の画像処理ライブラリ「WIL」のオプションライブラリという位置付けだ。このため、同社の標準画像処理装置であるFV1410やFV2340にアドオンとして導入することができ、ルールベースとAIのシームレスな連携が可能となる。宇津木氏は「ルールベースの画像処理とAI技術を用いた画像処理にはそれぞれ得意・不得意な分野があります。そのどちらかを選ぶのではなく、“良いとこ取り”で活用できるようにしています」と開発コンセプトを説明する。

  • AI検査システムの運用モデル

    AI検査システムの運用モデル

AIプラットフォームはさまざまな現場に投入され、検査工程の自動化・効率化に寄与している。開発のきっかけとなったフィギュア検査(瞳のカスレなどの官能検査)を皮切りに、リサイクル洗濯機の分類やフライのコロモ検査、鋳物の表面検査など、数値で判定しづらい(=従来のルールベースが苦手とする)検査で成果が現れている。

  • フライのコロモ検査の例

    フライのコロモ検査の例

また同社のAIプラットフォームは、MVCNNの手法を用いた「複数枚画像の画像分類/アノマリー検出」機能が搭載されており、製品の全周検査を行いたいといったニーズにも対応している。

「1つの製品を8方向から撮影した画像1枚1枚で良品・不良品を判定した場合、正答率は良品86.1%、不良が91.6%となりました。良品なのに不良と判定されたのは324個中の45個で、14%程度の過検出となりました。これを8枚分判定し、1枚でもNGであれば弾いてしまうようにすると、良品判定が極めて少なくなってしまいます。そこで弊社のAIプラットフォームでは、複数枚の画像をトータルで判定する機能を実装。歩留まりロスの軽減と、人的作業の負荷軽減を実現しています。実際、この機能を使った評価では、正答率が100%になった例もあります」(宇津木氏)

  • 全周検査の例

    全周検査の例

「インテル® OpenVINO™ ツールキット」を採用し、CPUによる高速推論を実現

ファーストの標準画像処理装置に組み込み、推論を行うWIL推論ライブラリには、インテルが無償提供する「インテル® OpenVINO™ ツールキット」が採用され、インテル製CPUを使った高速推論を可能としている。宇津木氏は、GPUを活用するケースが多いなかで、OpenVINO™を選んだ理由をこのように説明する。

「弊社では産業用の画像処理装置について、長期安定供給と販売終了後数年間の修理対応を保証しています。ですがGPUは世代交代が激しいため、同じ製品を調達するのが難しいという問題がありました。加えて現場で稼働している既存の画像処理装置にAI機能をアドオンするというコンセプトなので、現状の装置にGPUを追加してもらうのは現実的なアプローチではありません。そこでCPUで高速に推論できる方法を模索し、インテルのOpenVINO™を試してみたところ、実用に十分な速度を出せることが確認でき、採用を決定しました」(宇津木氏)

同社の汎用画像処理装置であるFV1410やFV2340 に、インテル® Core™ プロセッサが採用されていたこともOpenVINO™の採用に踏み切る要因になったと宇津木氏。「ルールベースの画像処理においてもインテル CPU向けのコンパイラで高速化を図ってきた経緯があり、FV1410に第7世代、FV2340に第6世代と、OpenVINO™がサポートするインテル® Core™ プロセッサ(6世代以降に対応)が使われていたことも決め手となりました」と語る。

さらに同社では、次世代の汎用画像処理装置を開発しており、2023年12月25日からの受注を予定している。この次世代機には第12世代のインテル® Core™ プロセッサが採用されており、従来機と比較し約2倍の高速化を実現しているという。

  • FV1410

    FV1410
    外形寸法:297(横幅)×210(奥行き)×45(高さ) mm ※A4版程度

  • FV2340

    FV2340
    外形寸法:145(横幅)×311.5(奥行き)×275(高さ)mm

プログラミング不要で、誰でも簡単に使えるAIプラットフォームを目指す

ここまで述べてきたとおり、ファーストのAIプラットフォームには、AI導入のハードルを下げるための仕組みが満載されている。AI開発ツールは、AIモデル作成と精度向上における課題を解消する機能を備え、さらにCPU高速推論用にモデルのデータを変換する機能や追加学習の機能も実装。短期間での導入や人的リソースと導入コストの削減を可能としている。一方のWIL推論ライブラリは、OpenVINO™を活用したCPU高速推論により、追加のGPUコストなしでの運用を可能としたほか、既存環境に簡単に導入できることも見逃せない強みといえる。「極端な話、インストーラーをクリックするだけで環境を構築できるようになっています」と宇津木氏は力を込める。

同社では、今後もAIプラットフォームのアップデートを続け、多様な製造現場のニーズに応える製品にブラッシュアップしていく予定だという。前述した次世代画像処理装置への対応をはじめ、より高速な推論が必要な案件に対しては、GPUを用いた高速推論も選択肢として用意していきたいと宇津木氏は話し、「もちろんインテル製GPUも評価していきたいと考えています」と今後の展望も口にした。

「最近ではプログラムを書かずに簡単にAI外観検査を開始したいというニーズも高まっており、プログラミング不要で、マウスを使ってノードとノードをつなぐような操作で簡単な検査ソフトが作れる開発ツールの提供も予定しています。AI導入のハードルをできる限り低くして、そのうえで既存のルールベースと連携して活用できるプラットフォームを目指していきたいと考えています」(宇津木氏)

AI×ルールベースというコンセプトで生み出されたAIプラットフォームで、外観検査の自動化・効率化を支援するファーストの取り組みには、今後も注視していく必要がありそうだ。

関連リンク

第12世代のインテル® Core™ プロセッサ搭載 汎用画像処理装置

製品の簡単な概要はこちら

[PR]提供:インテル