Infineonといえばパワー半導体のベンダーで、産業向けや自動車向けなどの製品が多い、と思われる方も少なくないかと思う。もちろんこの認識は間違っておらず、幅広いパワー半導体のソリューションを提供していることも、産業向けや自動車向けに多くの製品を展開していることも事実だが、それだけではなくセンサーの分野でも多くの製品ポートフォリオを提供していることをご存知だろうか(詳細はこちら)。今回ご紹介したいのはXENSIVと呼ばれるセンサー製品の中で、民生向けのCO2センサーと60GHzレーダーである。ユニークな組み合わせだが、この2種類のセンサーについてインフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社の浦川辰也氏と近藤和彦氏に話を聞いた。
高精度でリアルタイムな計測を実現するPAS CO2センサー
最初に紹介したいのは同社の中で環境センサーに分類されるCO2センサーである。そもそも室内での快適かつ健康な環境の維持のためには、CO2濃度を1000ppm以下に抑えるのが重要というのは広く知られている(図1)。加えて、特にCOVID-19の流行に伴いCO2濃度は注目されることになった。というのは、COVID-19の感染拡大防止のためには積極的な換気対策が必要であり、厚生労働省はその際の目安(一人当たり換気量30m^3/時)を満たす確認の方法として、CO2濃度を1000ppm以下に維持することを挙げている(詳細はこちら)。
また、海外では法令の形でCO2の測定精度が制定されていることが少なくない(図2)。そのため、全世界対応の製品には正確なCO2濃度測定は欠かせないし、日本においても当面は高精度なCO2の測定機能は差別化要因になるだろう。そう遠くない時期にCO2の測定機能が必須になることも予想できる。
実際の応用事例が図3だ。HVAC(エアコン)や空気清浄機は当然、今後はスマート家電やスマートホーム/スマートオフィスにもCO2センサーの搭載は欠かせないことになる。
こうしたCO2検知に向けてInfineonが提供するのがXENSIV PASCO2V01である(図4)。最大の特徴はPAS(Photo Acoustic Spectroscopy:光音響式)を採用する事だ。これは検知チャンバー内で赤外線を発光させOptical Filterを挟み、CO2の吸収スペクトルの一つである4.2μmのみをチャンバー内に照射する。するとCO2は赤外光を吸収して膨張することになり、この膨張に伴い振動が発生する。この振動をチャンバー内のMEMSマイクロフォンで捉えることでCO2の濃度を測定するという仕組みである。
これは既存のCO2測定器に多く利用されているNDIR方式とは異なる仕組みであるが、メリットとして以下のような点が挙げられる。
- 検出精度が赤外線の路長に依存しないので小型化できる
- NDIR方式では定期的に必要となる校正作業が必要ない
- 外部からの衝撃に強い
PAS方式の場合はマイクの感度が精度の決め手になりやすいが、InfineonはMEMSマイクを提供する大手ベンダーでもある。加えて、このPAS CO2センサーに使われるほとんどのコンポーネント(赤外線ダイオードやOptical Filterも含む)はInfineonが自社で提供しており、供給に不安が起きにくいというメリットもある。また、センサー基板の上にMCUも搭載されており、結果はデジタルの形で出力されるので、アプリケーションへの搭載も容易である点もメリットと言えよう。以下の評価/開発用キットが既に提供中であり、用途に応じたものを選んですぐに評価/開発が可能となっている。
設計や実装の手間を大幅に節約する60GHzレーダー
次は60GHzレーダーを紹介する。図5はInfineonの提供するレーダー製品一覧である。以前は24GHz/77GHz帯が民生、車載向けとして使用されていた。新たな周波数帯として60GHz帯も利用可能になった事で、こちらの製品が増加している感がある。ちなみに、周波数帯が違うこともあり、用途はずいぶんと異なってくる。24GHz帯は相対的に長距離測距に有利で、その反面距離の解像度が粗く数10センチ単位である。60GHz帯はその逆で、長距離測距には不向きであるが、距離の解像度が細かく数センチ単位で有利となっている。
さて、レーダーと言えば以前は車載の、それも車々間測距などに使われることが多かったが、60GHzは車内の乗員検知などに応用が始まっており、これはそのまま民生向けにも利用が可能となっている。同社は既に自動車向けには数多くのレーダーを出荷しており、民生向けについても本格的に展開を行っている(図6)。
そんなInfineonのレーダー製品の中で今回ご紹介するのは1T1R(1送信アンテナ・1受信アンテナ)のBGT60LRT11AIPと、1T3R(1送信アンテナ・3受信アンテナ)のBGT60TR13Cである。この2製品の特長はAntenna-in-Package、つまりアンテナ部までパッケージに収められていることである。レーダーの場合、アンテナの設計が全体の性能を左右するだけに、これがパッケージに統合されているのは設計や実装の手間を大幅に節約することに繋がる。特に1T1RのBGT60LRT11AIPはともかく1T3RのBGT60TR13Cでは、送り出された信号を3つのアンテナで受信した際の位相差を利用して3次元で細かく対象物の情報を取得するだけに、そのアンテナの構成や物理的な位置関係が非常に重要になってくる。BGT60TR13Cではこれがパッケージとして実装されているので、かなりの労力を要する最適化の手間が丸ごと省ける訳だ。
話を戻すと1T1RのBGT60LRT11AIPの場合、検知機能は人の検出に特化している。具体的に言えば「動いたか否か」「居るか居ないか」「近づいたか離れたか」といった検知である。ただ、こうした用途は民生用途では非常に多い。たとえば人物検知式のダウンライト(人が居る時だけ照明を点灯する)や音量調整(人が居る時には音量を上げる)、OLEDパネルの焼きつき防止(人が見ていない時は消灯する)などである。こうした用途はこれまでだと赤外線を利用したセンサーを使うことが多かったが、BGT60LRT11AIPはこうしたセンサーの置き換えを狙った製品となる。
このため、BGT60LRT11AIPはこうした低価格センサーに対しても競争力のある価格で提供可能*1な上、制御にMCUなどを必ずしも必要としない。つまり単純にOn/Offの認識だけであれば、そのまま上位アプリケーション(たとえば照明ならLEDの制御回路そのもの)に接続して使うことが可能である。この徹底した低コスト向けソリューションがBGT60LRT11AIPの特徴となる。
*1組み込み機器の常として、発注数量次第ではある。
一方BGT60TR13Cの方は1T3Rの特徴を生かしてジェスチャー認識や生体検知(人間などは静止しているように見えても、呼吸を行っている以上ほんのわずかに動いている。このわずかな動きを検知する事で、生体が存在するかどうかを判断できる)、位置測定などが可能になる。たとえばエアコンの場合、室内に存在する人間の位置を測定し、そこに風の向きを合わせることで効率的な冷暖房を行うといったことが可能になる。
もちろんこうした処理を行うためには、レーダー単体ではなくバックエンド側で後処理を行うプロセッサが必要ではあるのだが、Cortex-M4クラスのMCUで概ね処理可能である。Infineonからは、いくつかの用途に向けたサンプルアプリケーションも提供されるので、こちらも評価キットを利用してすぐに実験やPoCを始めることが可能だ。
ちなみにBGT60TR13Cに関しては、日清紡マイクロデバイス株式会社より、BGT60TR13Cにバックエンド用のMCUを搭載したモジュールも提供されている(図8)。こちらは既に日本の技術基準適合認定を取得しているので、改めて技術基準適合認定を取得する手間が不要というのも大きなメリットである。アプリケーションも用意されているので、これを利用する事で製品投入までの時間を更に短縮する事も可能だ。
その他にも多彩なセンサーをラインナップ
今回はCO2センサー及び60GHzレーダーについて解説したが、冒頭でも紹介したとおり、Infineonは磁気センサー/電流センサー/圧力センサー/環境センサーとレーダー/3D Imagingレーダー、更にMEMSマイクロフォンと様々なセンサーをラインナップしている。新しい製品企画が持ち上がり、今までにないようなセンサーが必要となった時は、一度Infineonに相談してみると、製品化に繋がる解決策が得られるかもしれない。
[PR]提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン