去る9月5日、静岡県牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」の通園バスの中に3歳の女児が5時間以上置き去りにされ、重度の熱中症で死亡するという痛ましい事件が起きた。女児が車内に残っていることに運転手が気づかずに車から離れてしまったことが原因とされている。こうした事故を未然に防ぐためには、車室内を監視するIn-cabin monitoring systems(ICMS)が有効であり、欧米の自動車メーカーでは導入が進みつつある。そして、Infineon Technologiesは、そのための半導体ソリューションを提供している。このソリューションについて、インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社の浦川辰也氏と夏目雅弘氏に話を聞いた。

  • パワー&センサーシステムズ事業本部 センサーシステムズ&IoT 部長 浦川 辰也 氏、オートモーティブ事業本部 AD/ADAS担当 アプリケーション マーケティング マネージャー 夏目 雅弘 氏

高まる幼児放置監視のニーズ

In-cabin Monitoring System(ICMS:車室内監視システム)には、まず2Dもしくは3Dのカメラでドライバーの様子を監視し居眠り運転などを防ぐDriver Monitoring System(DMS:ドライバー監視システム)がある。またレーダーを用いた技術としては、後部座席にいる幼児などを監視するChild Presence Detection (CPD)、後部座席の乗員を監視するRear Occupant Alert (ROA)、Occupant Status Monitoring (OSM)などがある。さらに日本でも導入済みとなっているシートベルト非装着を警告するSeat Belt Reminder (SBR)がある。このうち、Infineonが注力しているのがCPD向けの監視システムである。

静岡の幼児置き去り事件の以前にこれまでも同様の事件は起こってきたが、日本は対策が遅れていた。一方で、欧米では車内への幼児置き去りの対策としてCPDを法制化する動きが進んでいる。特に米国では毎年約50人の幼児が車内置き去りで死亡し社会問題となっており、CPD機能搭載の法制化が2019年から進められている。また欧州ではEURO NCAP(新車アセスメントプログラム:安全性評価プログラム)の項目にCPDが2023年から加えられるほか、ASEANのNCAPでもCPDは評価対象になっている。

なお、CPDで幼児の置き去りを検知した場合の対応は、自動車メーカーがどのような機能を自動車に搭載するかで変わってくる。たとえば、幼児が置き去りにされて危険な状態と判断したらクラクションを鳴らす機能や、ドライバーのスマートフォンと連動して警告メッセージを送る機能を搭載することが考えらえる。また、EURO NCAPの評価項目では、人の置き去りを検知して10分経過したら自動車のロックを解除する、エアコンを作動させるなど緊急動作をする機能が挙げられている。

こうした動きを受けて、ICMSの市場も拡大する。Yole Developpementの調査にInfineonの推計を加えた市場予測では、ICMSは2022年現在、全世界で約300万台の搭載に限られるが、今後飛躍的に成長し、25年には1830万台、30年には5500万台に搭載されるとみられている。拡大する市場に対して、Infineonとしては最適なICMSのソリューションを提供していく構えだ。

  • ICMS市場は2030年まで年平均成長率50%超で成長 法規制、OEMのコミットメント、政府の取り組みが要因

CPDに最適な60GHzレーダー

InfineonのICMSソリューションでは、CPD向けに60GHzレーダーセンサーを採用している。Infineonが扱うレーダーの周波数には主に24GHz、60GHz、77GHzがあるが、77GHzは自動車の外部環境のセンシングを中心に使われており、国や地域によっては車室内のセンシングに使えない場合がある。また、24GHzは狭い帯域しか使えないため、分解能を上げることが難しい。一方、60GHz帯は最大で7GHzの帯域幅が使え、Infineonでは現在4GHz帯域まで使えるソリューションを提供しており、3.75cmの距離分解能を実現できる。さらに数m以内の近距離の検出に適していることから、Infineonは、比較的狭い空間である車室内のセンシング用レーダーとして60GHzレーダーを採用している。

Infineonの60GHzレーダーの強みは低消費電力にある。CPDは自動車を運転しているときに作動することはもちろん、停車時に幼児が放置されていないかを検出することも重要になるため、エンジンを切った際にもセンサーが機能するように低消費電力で動作することが重要となる。Infineonの60GHzレーダーはもともとスマホ向けの技術がベースとなっており、バッテリー駆動の消費電力の要求が厳しいアプリケーション向けに開発されてきた技術を自動車用に応用した。そのため、競合製品と比べて低消費電力を実現できている。 そして消費電力が低いため放熱を低く抑えることができ、システム全体の放熱設計も容易となっている。

次にCPDでは人を認識し、なおかつ大人と子供を見分けることが必要となる。Infineonの60GHzレーダーは高いSN比と信号処理でそれを実現している。大人と子供の見分け方については、対象の大きさを検知する手法や、大人と子供で異なる呼吸数を検出し見分ける手法がある。 また、半導体の集積度を高めて、システムのトータルのコストを抑えることも強みとなっている。なお、米国での使用を想定しているため、FCC(米連邦通信委員会)の規格に合致する仕様となっている。

  • 60GHz レーダー センサーのバリュー プロポジション

具体的な使用例としては、5人乗りの自動車の場合は、車内中央にセンサーを配置し、運転席と助手席、後部座席3席、計5席を1つのセンサーで監視する。この際に座席の上だけでなく、座席の足元も1つのセンサーでカバーできるため、幼児が座席から床に落ちている場合でも検知が可能となっている。 また、3列シートの7人乗りの自動車の場合は、センサーを2つ配置し、車体の前方のセンサーで運転席と助手席、後方のセンサー中部座席と後部座席をカバーすることを想定している。 なお、Infineonでは、大人が自動車から突然離れて子供が車内に置き去りになるなど、さまざまな使用環境を想定したシナリオテストを行っている。

  • 60GHz レーダー センサー: 子供置き去り検知 (CPD)

ICMSの構成デバイスを一括して提供

Infineonの60GHzレーダーシステムは、60GHzレーダーICに加え、電源、マイコン、PMIC、フラッシュメモリーなどで構成される。Infineonはこれらのデバイスを一括して提供できる。

  • インフィニオンの60GHzレーダーセンサーによるICMSへの提案

まず電源に関しては、電圧レギュレータとCANトランシーバーなどをワンチップ上に統合したシステム・ベーシス・チップ(SBC)がシステムに電源を供給する。ワンチップ化したことで実装面積を削減しトータルコストを低減できるメリットがある。 60GHzレーダーセンサーは車室内の状況を読み取りデータ化するが、そのデータをAURIXマイコンで処理する。AURIXは幅広いポートフォリオを有し、特に安全性に優れるマイコンとして既に自動車向けのさまざまな用途で使用実績がある。レーダー専用アクセラレーターを搭載し、レーダーに必須なFFT処理を高速に実行できる。いろいろなレーダーと組み合わせてさまざまなセンサーシステムを構築できるスケーラビリティもある。このAURIXの採用もInfineonのICMSの強みとなっている。 また、自動車向けの電源管理ICであるOPTIREGがAURIXに最適な電源を供給する。AURIXと組み合わせて、安全面で非常に信頼性の高いチップセットとして提供できる。さらに60GHzレーダーのコンフィギュレーションなど向けにSEMPERシリーズのNOR型フラッシュメモリーを採用。機能安全およびセキュリティーに対応したメモリーとなっている。 Infineonでは、それぞれの機能に対して、豊富なラインナップを揃えており、ユーザーのニーズに応じて最適なソリューションを提供できる。

なお、InfineonではICMSの開発環境も整えている。評価用にAURIXのベースボードと、複数のアンテナ構成の60GHzのRFのボードを提供。ユーザーはこれらを組み合わせて、さまざまなアンテナ構成の評価や開発を行うことができる。

  • ワン プラットフォーム アプローチ

静岡の事件を受けて、日本では政府が通園バスの安全装置設置を義務化する動きを始めている。また、通園バスに独自の安全装置を設置するこども園も出てきている。事故を教訓に日本でも幼児放置を深刻な社会問題ととらえ、問題解決に向けた取り組みが進むことが期待される。今後は日本でも乗用車のCPD機能の搭載が進むだろう。その際にInfineonのICMSおよびレーダーシステムは有効な解決策となる。

  • 浦川 辰也 氏、夏目 雅弘 氏

In-cabin monitoring systems(ICMS)

システムの詳細情報はこちら
60GHzレーダーセンサー製品情報はこちら
リニア電圧レギュレーター製品情報はこちら
車載用CANトランシーバー製品情報はこちら
システム ベーシス チップ製品情報はこちら
OPTIREG™ 車載用電源IC製品情報はこちら
車載用マイクロコントローラー製品情報はこちら
NORフラッシュ メモリ製品情報はこちら

[PR]提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン