世の中のデジタル化が進む中で、デジタル技術を利用するためのアナログ技術の重要性が高まっている。そしてその流れはコロナ禍で加速している。アナログ半導体大手のアナログ・デバイセズ(以下、ADI)は、2021年8月にマキシム・インテグレーテッド・プロダクツ(以下、マキシム)を統合し、ソリューションの強化・拡充を進めている。今回は、アナログ・デバイセズ株式会社代表取締役社長の中村勝史氏にアナログ半導体を取り巻く環境と同社の事業の展望について伺った。

  • アナログ・デバイセズ株式会社 中村勝史社長 写真

    アナログ・デバイセズ株式会社
    代表取締役社長
    中村 勝史 氏

■アナログ・デバイセズ株式会社>>詳しくはこちら

重要性が増すアナログ半導体

── まずは中村社長のご経歴について教えて下さい。

父親が商社勤務で海外生活が長く、米国の高校、大学に進学し、1994年に米Analog Devicesに入社しました。長年、研究開発に従事し、開発リーダーとしてコア技術から製品開発まで幅広い範囲の技術開発に携わりました。2019年秋に日本法人の営業部門に移り、シニアディレクターとして産業・医療・通信セールスを統括した後、2020年11月に代表取締役社長に就任しました。

── アナログ・デバイセズは社名が示すようにアナログ半導体を手掛けていますが、アナログ半導体の市場はどうなっていますか。

半導体の業界団体SEMIによると、全世界で半導体の消費額は約5,600億ドルで、アナログ半導体はそのうち2割の1,000億ドル超の市場です。あらゆるもののデジタル化が進んでいますが、われわれが普段接しているのはアナログの世界で、デジタル技術を使うにはアナログに変換する必要があります。アナログあってのデジタルであり、アナログ半導体は非常に重要な技術になります。デジタル化が進むほど、アンプやフィルタ、ADコンバータ、電源といったアナログ半導体の需要は増えていきます。

── アナログ半導体市場においてADIはどのようなポジションにいますか。

アナログ半導体の約1,000億ドルの市場のうちADIも多くの部分にフォーカスしていますが、2021年10月期の売上高は73億ドルで、マキシムを買収した効果を1年で換算すると約100億ドルが実力値になります。

製品・サポート・品質の3つの強み

── 競合企業と比べてADIの強みは何ですか。

まずは製品力で、技術レベルが高いことです。私自身、学生の頃にアナログ・デジタル変換技術の研究をしており、当時からADIはこの分野で圧倒的な存在だったため、高い技術力に魅力を感じたのが入社の動機でした。また、アナログ半導体は個々の製品で見ると非常にニッチな仕様への対応を求められているため、幅広い製品ポートフォリオを持っていないとなかなかビジネス展開できず、新規参入は難しいです。ADIは創業57年目を迎えますが、製品ラインナップは7万5,000点を超えており、過去からの積み上げが強みになっています。

次はサポート力です。アナログ半導体はただ製品を組み込むだけでは稼働しません。お客様側にも熟練した技術者がいて、一緒になって製品を作り上げていきます。ADIではお客様への技術サポートを強化しており、高い評価をいただいています。

最後は製品の品質力です。ADI製品の品質はトップクラスの評価を受けており、毎年さまざまな賞をいただいています。この製品、サポート、品質の3つの強みが、高い競争力になっています。

  • アナログ・デバイセズ株式会社 中村勝史社長 インタビュー中の写真

── 2021年8月にマキシムを買収しましたが、2017年にはリニアテクノロジーを買収しています。大型買収が続いていますが、ADIはどのような方針でM&Aを進めていますか。

ADIは基本的には今持っていない技術や製品をM&Aで取り入れることで、ケイパビリティーを高め長期的な成長につなげていく戦略をとっています。

大きなM&Aとしては、初めに2014年に米国のヒッタイトを買収しました。同社は無線関係の専業メーカーで、RFからマイクロ波、ミリ波まで幅広い周波数帯域に対応できる無線技術を持っていました。ADIにも無線技術はありましたが限られた領域だったため、ヒッタイトを買収することで、幅広い無線技術をカバーできるようになり、大きく成長できました。

次に買収したリニアテクノロジーからは電源技術を取り入れました。それまでのADIの電源技術は限られた製品ポートフォリオだったため、リニアテクノロジーを買収することで、今までにない領域まで電源技術を広げることができました。

── 今回マキシムを買収した狙いは何ですか。

マキシムもリニアテクノロジーと同様に電源が強いメーカーですが、リニアテクノロジーとは製品ポートフォリオが異なります。リニアテクノロジーの電源は産業向けなど高出力の領域が中心ですが、マキシムはもっと低消費電力のアプリケーションで、民生用製品や医療関係、自動車、データセンターなどに強みを持っています。

さまざまなデバイスは電気が通じないと動かないため、電源は非常に重要な技術です。電源の市場はアナログ半導体の約半分の500億ドルの規模になります。ADIはこれまでその半分もフォーカスできていませんでしたが、リニアテクノロジー、さらに今回マキシムを統合することで、リーチできる市場をかなり広げることができました。

── マキシムが加わることで、日本のビジネスで大きく変わることはありますか。

まず大きいのは自動車市場です。マキシムは自動車向けにもさまざまなビジネスを展開しており、日本のビジネスの約半分が自動車市場向けです。日本には世界を代表する自動車メーカーが存在するため、ビジネス規模としては非常に大きな基盤があります。日本の営業活動もさらに自動車市場向けが大きくなります。

また、日本は産業市場のビジネスも大きいです。ここはマキシムがあまり展開していなかった領域ですが、マキシムでも産業向け製品はあり、ADIとしてはマキシムの産業向け製品ポートフォリオを加えて、営業を活発化していきます。

コロナ禍が長期トレンドを加速

── 昨年からコロナ禍で半導体が不足する事態となりましたが、現在の状況をどのように見ていますか。

コロナ禍になってから、半導体はかつてないほど需要の増加がありました。半導体需要は2020年、2021年と対前年比で増加し、2022年もさらに増加する見込みです。産業分野では自動化が進み、リモートワークや遠隔医療が導入されるようになると通信インフラを増強する動きが加速しました。また、巣ごもりで在宅時間が長くなり家電製品が売れるなど、自動車以外の最終製品の市場は、コロナ禍で成長し、半導体の需要は大きく伸びています。

しかしその中で、自動車関係は他の市場と異なる動きでした。新型コロナウイルスの感染拡大により、世界中の自動車工場が止まり、製造台数が2020年4月~6月は前年比半分以下に減少し、2020年全体では約30%低下しました。自動車向けの半導体の消費が大きく減った分が医療向けや産業向けなど、需要が増えている分野に回り、自動車向けは元の状態に戻るまでに時間を要している面はあります。

  • アナログ・デバイセズ株式会社 中村勝史社長 インタビュー中の写真

── 一方で、半導体の供給不足が言われていますが、増えている需要に対応できていますか。

残念ながら需要に対して供給はまだ満たせていない状況です。業界ではこの状態は2023年まで持ち越すのではないかという見解もあります。供給難の中で、ADIとしては、まず人の命にかかわる領域を最優先としています。具体的には医療関係で、人工呼吸器や画像診断関係の電源など必要とされるところはすぐに供給・サポートしています。その次が通信など社会インフラの増強、そして産業向けの製造インフラなどで、段階的な優先度を設けて供給しています。

── 今後の見通しをお聞かせください。

短期的にはまず供給不足について、お客様の需要をいち早く満たすように取り組んでいきます。中長期的には、半導体の長期的なトレンドのサポートを進めていきます。長期的なトレンドとは、ESG、SDGs、そして日本政府が進めるSociety5.0などがすべて関連していますが、具体的には産業のオートメーション化、高齢化による遠隔医療や新しい移動手段の提供、その基盤となる5G通信、カーボンニュートラル実現に向けた自動車の電動化やパワーデバイスの進化の流れです。このトレンドを実現するためにはアナログ技術が重要となりますし、日本にはこれらの各分野で世界をリードするお客様が多くいらっしゃいます。われわれが持っている技術でお客様の活動をサポートすることで、長期的にも大きく貢献できると考えています。

こうしたトレンドは数年前から見えていましたが、リモートワークの普及など、コロナ禍がこのトレンドの実現を加速したと言えます。それに対する半導体需要の増大も加速しているため、どうやって対応していくかが今後の課題だと思います。

── 最後に、今後に向けた抱負をお願いします。

日本には世界に誇れる技術を持ち、長期的な取り組みを進めているお客様が多くいらっしゃいます。そのお客様の課題をわれわれの持っている技術やサポート力で解決していくことがADIのミッションです。日本法人は今年創業52年目となりますが、お客様の課題解決を行うことで、お客様のみならず、日本社会への貢献も含めた活動に邁進して参ります。

── ありがとうございました。

  • アナログ・デバイセズ株式会社 中村勝史社長  写真

企業プロフィール

アナログ・デバイセズ株式会社

アナログ・デバイセズは、ほぼあらゆる種類の電子機器で使用されている高性能なアナログ集積回路(IC)、ミックスド・シグナルIC、デジタル・シグナル・プロセッシング(DSP)ICの設計、製造、販売を行っている世界トップの企業。同社は、1965年の設立以来、電子機器の信号処理に関する技術的課題の解決に注力。現在はデータ・コンバータ、アンプ/リニア製品、無線周波数(RF)IC、パワーマネジメント製品、マイクロ電子機械システム(MEMS)技術を利用したセンサーなどの各種センサー、プロセッシング製品(DSPなどのプロセッサ)など、幅広い顧客のニーズを満たすように設計された広範な革新的製品を生産している。

[PR]提供:アナログ・デバイセズ