業界・業種を問わず、世界中で加速しているIoT化の波。さまざまな場所にセンサーやデバイスが設置され、そこから得られるデータの活用に向けて積極的な取り組みが増えている。しかし、ここで使用されるデバイスの動作には安定したエネルギー供給という問題があることはあまり知られていない。そこで今回は、株式会社NTTデータ経営研究所 社会基盤事業本部 社会・環境戦略コンサルティングユニット シニアマネージャーの竹内 敬治氏にインタビューを実施。デバイスへの安定した電力供給を実現する「エネルギーハーベスティング」を中心に、IoTのエネルギー問題とその解決策について話を伺った。

IoT分野の電力供給に最適なエネルギーハーベスティング

IoTデバイスは、実にさまざまな場所に設置される。商業施設や工場はもちろん、普段は人がまったく訪れないような僻地、高温・低温や高所といった過酷な環境に置かれることも多い。また、限られた設置スペースではコンパクトさも必須となる。しかし、その一方で、IoTに用いられるデバイスは、その特性上どうしてもインターネット接続用の電波を発信するため、通常よりも多くのエネルギーを確保しなければならないのが難点だ。ときには10年単位の期間をメンテナンスフリーで動作させるケースもあり、従来の電池やバッテリーでは役不足になりがちといえるのである。

こうした背景から、IoT分野で注目を集めつつあるのが「エネルギーハーベスティング」だ。エネルギーハーベスティングとは、光や風をはじめとした自然エネルギー、環境から生まれる振動や電波などを「収穫(ハーベスト)」し、電力へと変換するもので、別名「環境発電技術」とも呼ばれている。これを活用すれば、たとえ僻地や過酷な環境などでも、デバイスやセンサーの長期的な自立稼働が可能になる。

  • エネルギーハーベスティング

    エネルギーハーベスティングの概念図

出典:エネルギーハーベスティングコンソーシアムウェブサイト
「エネルギーハーベスティングとは」

エネルギーハーベスティングの歴史は意外にも長い

エネルギーハーベスティングを用いた製品自体は、意外にも古くから存在している。NTTデータ経営研究所 社会基盤事業本部 社会・環境戦略コンサルティングユニット シニアマネージャーの竹内 敬治氏は「鉱石ラジオや自転車の前照灯に用いられているダイナモなど、実は約100年前からエネルギーハーベスティングを用いた製品が存在していました。しかし当時は低消費電力で動く機器が少なく、用途も限られていたのです。それが1970年代に入り、電子機器の低消費電力化が進んだことで、太陽光で動く電卓や腕時計、マイクロ水力発電により蛇口に手をかざすだけで水が出る自動水栓など、より多くの製品に使われるようになりました。こうしたエネルギーハーベスティングの技術が、スタンドアロン製品からIoTの分野へと活用の幅を広げようとしているのです」と語る。

  • NTTデータ研究所 竹内 啓治氏

    株式会社NTTデータ経営研究所 社会基盤事業本部
    社会・環境戦略コンサルティングユニット
    シニアマネージャー 竹内 敬治氏

エネルギーハーベスティング技術の加速を促すEHC

こうしたエネルギーハーベスティングに関し、日本での取り組みを加速させる役割を担っているのが「エネルギーハーベスティングコンソーシアム(EHC)」だ。EHCは、日本国内の企業の力を結集し、国際的に競争力のあるビジネスとしてエネルギーハーベスティング技術の早期的な実現化を目指している。

EHCの設立者であり、事務局として活動全般の取りまとめも行っている竹内氏は「日本の企業は、エネルギーハーベスティングの個別要素技術については高いポテンシャルを有しているものの、技術の組み合わせによる製品化では欧米企業が先行している状況でした。原因としては、エネルギーハーベスティングが単独で価値を生むものではなく、蓄電デバイスや電源回路、低消費電力のセンサー、マイコン、無線技術などと組み合わせ、システム化・サービス化して初めて価値を生むものになるため、たとえ優れた要素技術を持っていても、単独の企業ではビジネス化しづらいという点が挙げられます。そこでEHCは、欧米における最先端情報の収集・分析、コンソーシアムメンバー間の連携によるパイロットプロジェクトの創出、市場創造に向けた政策提言や情報発信、国内外の優れた技術を有する企業との連携、標準化の検討などを通じて、日本におけるエネルギーハーベスティング技術の加速を促すべく誕生しました」と語る。

2010年5月の設立当時は13社だった会員企業数も、現在ではNTTデータ経営研究所を含めて48社にまで増加。BtoBやBtoG向けを中心に実用例も増えてきているそうだ。

さまざまな場所で活躍するエネルギーハーベスティング

それではここで、実際にどのような場所でエネルギーハーベスティングが活躍しているのか、その一例を紹介していこう。

●リモート環境での活用

エネルギーハーベスティングは、普段人が訪れない僻地や広大な土地をはじめとした、リモート環境でのセンシングに大きな効果を発揮する。たとえば石油・ガス事業では、遠隔監視に熱電発電を利用した無線センシング技術を活用。農場では栽培管理や食害・盗難防止、環境測定。災害監視などにフィールドサーバーが活躍しているほか、作物と雑草を見分けて除草するAIロボット、バイタルセンサ/GPS/通信機能を備えた首輪による牧場での家畜管理、野生動物の追跡といった、実に幅広い用途に使われている。

●スマートファクトリーでの活用

「スマートファクトリー」とは、工場内のさまざまな機器がインターネットに接続し、そのデータから製品の品質や状態、工作機械の故障予測までを可視化できる、近未来的な工場の在り方だ。このスマートファクトリーを実現するにあたり、工場内の無線センサーネットを構築する電力として振動発電や熱電発電デバイスが用いられている。また、ベアリング内に熱電発熱デバイスを搭載することで故障予測を行う、設備の保守コスト軽減ソリューションとしても活用されている。

●スマートシティでの活用

IoTで生活インフラを効率的に管理し、省資源化や生活の質を向上させる「スマートシティ」でも、さまざまなシーンでエネルギーハーベスティングが活躍している。たとえば、自動圧縮機能や通信機能を備えた街頭のスマートゴミ箱は、ゴミ回収業務の大幅な効率化を実現するほか、将来的には公衆Wi-Fiスポットとしての価値も提供。また、列車の走行時の振動で発電する車軸モニタリングシステム、太陽電池や圧縮素子を内蔵した鉄道用の枕木で故障予測を行ったり、欧州では貨車の振動で管理用デバイスに給電し、輸送貨物の配送ミスを防ぐ取り組みも実施されている。また、自動車の車重で発電する駐車センサーソリューションや在庫検知システム、漏れ磁場で発電する送配電網のモニタリング、電波で発電してCO濃度を測定する大気汚染センサー、マンホールの鉄蓋と蓄熱材との温度差で発電する下水道氾濫検知ソリューションなど、各種インフラの効率的な管理に役立っているのだ。

●スマートライフでの活用

エネルギーハーベスティングは、省エネルギー化と生活の質の向上を両立させる「スマートライフ」分野でも活用されている。人間が押すことで発電するバッテリーレス無線スイッチは、多機能トイレのボタンなどにも採用されているので、身近に感じる方も多いのではないだろうか。また、水流発電によって光り方で適正温度を見分けられるシャワーヘッド、流量を見える化してシャワーを節水するエコ製品、体温で発電するスマートウォッチなども市販されている。そのほか、胃酸を電池の電解質として利用し、無線でIDを送信する服薬測定ツールなどもユニークな取り組みだ。

“つながり”が生む課題にも目を

このようにエネルギーハーベスティングは、意外にも私たちにとって身近な存在となってきており、IoTとの結び付きによって、その需要は今後さらに拡大していく兆しをみせている。そうしたなか、あらためて考えてもらいたいのが”つながる”ことの重要性だ。IoTは”モノ”が”インターネット”につながることを意味するが、これが実現することで、”つながり”から生まれる新たな課題に直面する可能性があることも忘れてはならない。IoTに従事する際はその”つながり”から生み出される恩恵と同様、そこから生じうる課題にもしっかりと目を向け、実装への歩みを進めてもらいたい。

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