2017年7月16日、IT人材教育に取り組むアフレルは、「Robotics Education Day 2017~ ロボティクスが拓くエンジニアリングの実践・教育~」をテーマに、エンジニアリングに携わる教育者や開発者に向けたイベントを初開催した。イベントでは10本以上の講演や産業界・教育界でのロボットを活用した教育事例の発表、ワークショップやデモ展示での体験機会が提供され、週末にも関わらず、150名以上の熱心な参加者が様々な分野での情報交換を行い学び合う場となった。
この日の基調講演は、月面レース「Google Lunar XPRIZE」で世界一の座を目指すHAKUTOプロジェクトよりエレクトロニクスエンジニアの河本新氏が登壇。そして特別講演は、大学時代にETロボコンで技術力を磨き、アーキテクトとなった今も「Amazon Picking Challenge」といったロボコンに挑み続けているPreferred Networksの奥田遼介氏が登壇するなど、一日を通してコンテストに関するトピックがいくつも飛び出した。
実は、日本は世界的にみてもロボコンが多く開催されるロボコン大国と言っても過言ではない。AIやIoT、ロボット技術の発展に伴い、今後の課題となっているのがエンジニアの人材育成だ。2020年に小学校におけるプログラミング教育が必修化となり国をあげた動きも始動する中で、ロボコン(ロボットコンテスト)やプロコン(プログラミングコンテスト)が盛り上がってきている。
これらコンテストの役割とは何か。そして、ロボコン・プロコンを通じて、どんな教育効果が期待できるのだろうか。同イベントのパネルディスカッションには各種コンテストを代表する4名が集結。「ロボコン・プロコンによる人材育成の未来」と題して、ここでしか聞けないコンテストのオモテウラを含めたディスカッションを繰り広げた。
まずは、モデレーターである小林氏からゲストの3名に対して「どうしてロボコンに取り組まれているのか」という質問が投げかけられた。
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)アドバイザー |
これに岡田氏は「研究成果を発表する場として有用だからです」とコメント。研究成果の発表というと論文が一般的だが、それでは内容を発表者がコントロールできるため、良いことばかりを書いてしまいがちで客観的な評価を得ることができない。それに対してロボコンは公の場でごまかしようのない結果が出るため、研究成果をフェアに評価される場として最適というわけだ。
教員と学生、双方の立場におけるメリットを強調するのは山下氏だ。教員にとっては「教育をリードする先生方から新たな学生指導のヒントを得られる場」であり、学生にとっては「知的好奇心とモチベーションの源泉になると同時に、社会や企業に対する高専そのもののアピールにつながる」という。教員と学生が一緒に成長できる場がプロコンなのだ。
日立産業制御ソリューションズ |
続いて松尾氏は「開発の予行演習に最適」とロボコンを次のように評価する。「ロボコンはエンジニアの開発現場で起こりそうなことがすべて起こる。知識と経験がパッケージングされた最良の教育機会だと思う」また、「コンテストを通じて社内ヒーローが生まれる」ことも見逃せない。ヒーローの存在がチームワークを育み、さらに社外の人と競うことで外の世界を見る良い機会にもなっているという。
ロボコンに取り組む目的は三者三様。教員、学生、社会人、どの立場であっても何らかの成長の機会を得られるのがロボコンの大きな魅力といえる。ではロボコン・プロコンを通じて養われる力とは、具体的になんだろうか。
小林氏が列挙したのは、「分析力」や「課題発見力」「問題解決力」などの21世紀型スキルに加えて、「協働」「協調」「リーダーシップ」「マネジメント力」といったスキルである。
これに対し岡田氏は「第一の目的はプログラミングのスキルアップですが、コンテストを通して、先ほど小林さんが列挙したような各種スキルを身につけていくことも重要です。今の子はあまり勝ち負けの経験がないので、結果が出るロボコン・プロコンで勝ち負けの経験ができることも貴重な体験だと思います」とコンテストの効果を語った。
独立行政法人国立高等専門学校機構 |
この意見には山下氏も同意する。
「ロボコン・プロコンはルールのもとで他のチームと比較される。教員からではなく、公の場で評価が下ることは、学生の胸にも刺さる。ここ一番でシステムを動かすのは入念な準備が必要なので、それも含めていい経験になっています」(山下氏)
さらに、学生だけでなく企業のエンジニアにとっても貴重な経験になっていると述べるのは松尾氏だ。
「企業の場合はビジネスですので成功失敗がもっとあからさまに出ます。ロボコンのいいところは失敗しても会社がつぶれないこと(笑)。社内の先輩に設計モデルのレビュアーやプロジェクトマネージャーがいて、先輩が後輩の結果を評価してくれるので、一石四鳥くらいの美味しい教育になっています」(松尾氏)
では、参加した学生やエンジニアはどう感じているのだろうか。ETロボコン参加チームへのアンケート結果によると、学生の多くはプロジェクト演習、ソフトウェア開発演習、システム制御演習などのスキルアップを目的に参加したようだ。
その結果、「自分たちが学んでいる技術が社会でも通用すると感じた」「ロボットの制御やモデリングについてスキルアップすることができた」という声が挙がった他、「社会人と交流することで今後のキャリア形成の参考になった」「プログラミングだけでなくチーム開発など様々な経験をすることができた」など副次的効果も実感しているようである。
企業エンジニアに関しては、新人教育や技術教育、自身の技術向上などを目的に参加した結果、「若手に開発の成功体験やチームマネジメントの実践体験を積ませることができた」といった声が挙がっており、しっかりと当初の目的を達成していることが見て取れる。また、教育への取り組みを社外で表現することにもなるため学生向けの採用活動や企業広報の場としても機能しているという。
こうしたロボコン・プロコンでの人材育成で重要なのは、「上」と「下」の双方に環境をしっかり作っていくことだと岡田氏は指摘。
「玉川大学には幼稚園から大学まであって、一貫教育をうたっています。そのため大学では、常に一流の環境や人材を下の世代に見せるよう研究に取り組んでいます」(岡田氏)
岡田氏の意見には山下氏も賛同し、「トップレベルの学生が飽きずに上を目指せる環境をどう作れるかも重要ですね」と強調する。コンテストで活躍した学生がクラスにいると、勉強やプログラミングを教えてくれて、結果的にクラス全体が優秀になる傾向があるそう。学生がチャレンジして自分の役割に気づく場としてもコンテストは有効のようだ。
エンジニアリングの経験を積む、「競い学び合う環境」が重要であることが繰り返し語られたことからも分かるように、環境=ロボコン・プロコンを整備していくことが、今後の日本における人材育成のカギになりそうだ。
最後のコメントに、岡田氏は「それぞれの学生がもつアイデアは千差万別であることを前提に設計された“チャレンジができる場”が必要です。場があれば学生はどんどんチャレンジができます」と回答。続いて山下氏は「東京工業高等専門学校では、技術を学べる環境はそろえているので、あとは自分がどういう時に楽しさを感じられるかという“場”を用意したい」と述べる。最後に松尾氏は「ヒューマンスキルやコミュニケーションスキルも含めてチーム全体を強くしていけるような技術者を育てたい」とそれぞれに意気込みを語った。
アフレル代表取締役 |
最後にモデレーターの小林氏はパネルディスカッションを振り返り、「ロボコン・プロコンは学ぶ人々が自らどんどん競い合う非日常の場です。学ぶ人々が活躍するロボコン・プロコンが多く開催されることでブレークスルーが起き、それがイノベーションにつながると思っています」と語りパネルディスカッションを締めくくった。
今回の記事で触れた各種ロボコン・プロコンは、全国各地にて開催される。企業エンジニアやエンジニアのタマゴである学生たちの熱い戦いを生で観戦すれば、ロボコンの有効性を直接肌で感じられるはず。これを機に、ぜひロボコンに挑戦してみてはいかがだろうか。
【パネルディスカッションで触れた各種コンテスト 2017年の開催情報】
■ロボカップ ※本年度の開催は終了
ロボカップ2017名古屋大会
日程:7/27(木) - 30日(日)
場所:名古屋市国際展示場
http://www.robocup.or.jp
■全国高等専門学校プログラミングコンテスト
本選
日程:10/8(日) - 9日(月・祝)
場所:周南市文化会館(山口県)
http://www.procon.gr.jp/
■ETロボコン
地区大会
日程:9/2(土) –10/1(日)
会場:全国12地区で開催
http://www.etrobo.jp/2017/taikai/chiku.php
チャンピオンシップ大会
日程:11/15(水) - 16(木)
場所:パシフィコ横浜(神奈川県)
http://www.etrobo.jp/2017/taikai/championsip.php
■WRO (World Robot Olympiad)
第14回WRO Japan決勝大会
日程:9/17(日)
会場:BumB東京スポーツ文化館(東京都)
http://www.wroj.org/2017/
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