10月14日、日本科学未来館にて"デザイン X テクノロジー"をテーマにした次世代のモノづくりについて体感する solidThinking Converge Japan が開催された。アスリート用義足をデザインする山中俊治氏や東京スカイツリーのデザインを監修した彫刻家の澄川喜一氏といったさまざまなスピーカーが登壇し、デザイン業界に与えるシミュレーション技術の可能性について考えた。
最先端のシミュレーション技術がもたらすもの
solidThinking Converge 2016 はアメリカ、ドイツ、中国ですでに開催されており、日本は4カ国目。今後は韓国、インドと続く世界的なイベントだ。主催するアルテアエンジニアリングは、コンピュータシミュレーションによる製品設計支援(CAE)の老舗であり、現在29カ国、60の異なる言語文化圏に対してサービスを展開している。構想→設計→解析→生産準備→製造という製品の誕生プロセスにおいて、主に設計・解析を得意としており、飛行機のエンジンからLED電球に至るあらゆるモノの最適設計技術を提供し続けている。
同社が培ってきたシミュレーション技術を活かしたデザイナー向けのツールがsolidThinking Inspireだ。Inspireでは、まず3Dモデルを作成し、固定する位置と荷重をかける位置、さらに金属や樹脂といった素材を決める。そして「剛性を最大化する」「質量を30%軽減する」といった条件を設定して計算すると、まるで自然界において進化を加速させたかのように「最適なかたち」を提示してくれる。またInspireは、その「かたち」が鋳造や射出成形などで実際に生産可能かについてのチェックも同時に行う。設計者や製品デザイナー、建築家にとっては「構造的な正しさ」を持ったコンセプトデザインを生み出すことが出来るツールだ。
新たなテクノロジーによって設計の現場にはどんな変化が起きているのだろうか。本イベントのために来日した、同社CEOのJames Scapa氏へのインタビューをお届けする。
直感と工学を融合させる
――講演の中で「新たなテクノロジーによってデザイナーの直感を超えるデザインを生み出すことが出来る」という言葉を繰り返されていましたが、具体的にどんなことが可能となるのでしょうか。
もちろん、「直感」が悪いものだと言っているわけではありません。しかし、複合的な機構や複雑なシステムを扱うとき、人間の直感は常に正しい選択をしてくれるわけではないです。私は、感性と技術を組み合わせることが重要だと考えています。それは、アーティストが生み出す「外観の美しさ」とテクノロジーが生み出す「工学的な正しさ」を融合させるということです。例えば、今我々が座っている椅子は少し変わったデザインをしていますが、座り心地があまりよくありませんよね。(*)取材時に座っていた椅子が、あまり気に入らなかった様子
美しい見た目を保ちながら人間工学的に快適なものを造り出すという難題に挑むとき、私たちのソフトウェアは、画家が絵筆を使いこなすかのように、数学的・工学的な正しさを自然に提供してくれるツールです。
――製造業向けにCAE技術を長らく提供されてこられた御社が、アート・デザインへの領域に参入するようになったきっかけを教えてください。
1970年代の製品開発は、紙と鉛筆を使って設計し、それから試作して検証する、というプロセスでした。しかし、製品がどんどん複雑になっていくとともに、コンピュータシミュレーションによる検証が行われるようになっていきました。現在ではテストの4分の3がシミュレーションに置き換わっています。その潮流は今や「設計してからシミュレーションする」のではなく、「シミュレーションによって設計する」という逆転現象を生みだしています。今後はシミュレーション主導型の開発が普及し、従来型の設計は、最終工程の手直しにのみ使われることとなるでしょう。
――アメリカで開催されたsolidThinking Convergeでは、映画の特殊効果に関する講演もあったと聞きました。
「アイアンマン(*)」のスーツは私たちのソフトウェアを使ってデザインされています。「AVATAR(アバター)」に登場したメカもそうですね。近年ヒットした映画では、工学的なデザインが活躍しています。これはまさにアートやエンジニアリング、デザインの"Convergence(集結、収束)"が起きている事例だと思います。かつてはアーティストが何かをデザインして、エンジニアがそれを製造するという分断がありましたが、これからのデザイナーはエンジニアリングのマインドや技術的・数学的な視点を持っていることが当たり前になると考えています。
(C)MARVEL
さらなる"Converge"を目指して
――御社はどのようにスタートしたのでしょうか。創業時のことについて教えてください。
私はニューヨークで育ち、大学卒業後はミシガンに引っ越して自動車メーカーに勤めました。コンピュータシミュレーションの部署に配属され、自動車開発についての多くをそこで学びました。退職後MBA取得の傍ら、シミュレーション支援を得意とする会社に勤めていた時に、「これはビジネスになるぞ」と感じて会社を興し、コンサルティングやソフトウェア開発をずっと続けています。最初はたった1,500ドルの資金で、スモールスタートした小さな会社でした。
――「アルテア」という社名の由来はなんでしょうか。
夜空で明るく輝く星のように、業界内に存在したいという思いからです。
――アルタイルは日本や中国において、七夕伝説の「彦星」とも呼ばれています。一年に一度、分断された恋人同士が「出会う」という意味をもつ星でもあります。
以前、そのことを日本オフィスのスタッフが教えてくれました。とても素敵な言伝えで、我々が目指す"Converge"を象徴している星だと感じました。
――小さく歩き出した結果、御社は世界中のデザイン・設計の現場に大きな影響を与えるまでになりました。今どのような未来が見えていますか?
私は今58才で、会社を設立したのは28才のときでした。この歳になってそんなにワクワクしていいのかと言う友人もいますが、非常に明るい未来が見えています。まだまだ会社も重要な役割を担っていけると思っています。
――直近ではInspireのクラウドサービスを始められますが、これはどのようなサービスを提供していくという考えからでしょうか。
クラウドによって新たなビジネスモデルへの挑戦ができると思っています。ハードウェアによる制限も小さくなりますし、ユーザーは必要なソフトを選んで即座に使うことができるようになります。また、設計情報の共有・管理がし易くなるデータマネジメントの機能を搭載したこともポイントです。クラウドによってこれまで我々の技術を提供出来なかった層に対しても、使っていただくことが可能になると考えています。このように"Converge"できる環境を提供することも重要な役割だと思っています。
(マイナビニュース広告企画:提供 アルテアエンジニアリング)