手続き自体は簡単だが、社内対応に関しては余裕を持った準備期間が必要

法人のみなさまは、すでに課税事業者(一定期間の課税売上高が1,000万円を超える事業者)になられている方も多いと思います。

そのため、インボイス制度に対応するための会社の手続き自体は「適格請求書発行事業者」への登録を税務署に申請し、「適格請求書発行事業者番号」を取得していただければ完了となります(免税事業者は同時に課税事業者になることが必要です)。

法人の場合は、インボイス制度についての社内への事前の啓蒙、周知がより重要になります。

まず、自社の売上請求書発行に携わる担当者に対しては、インボイス制度の実施が近づくにつれて、取引先からインボイス制度に関しての対応状況の問い合わせや確認の書面などが来ることが予想されます。そのため、担当者へ事前にインボイス制度の概要説明と、問い合わせの連絡や書面が届いた場合の対応フローを今から準備しておくとよいでしょう。

また、購買担当など、取引先から支払請求書を受領する担当者に対しては、インボイス制度の概要説明とともに、取引先へ事前にインボイス制度に関しての対応状況を確認しておくことが必要と思われます。

とりわけ既存の取引先に個人事業主などの免税事業者(一定期間の課税売上高が1,000万円以下の事業者)が多く存在している場合、相手方がまだインボイス制度そのものについての情報を収集、認識されていない場合もあります。

インボイス制度は、インボイス未対応の取引先がどれくらいの数あるかに比例して、対応作業の負荷がかかる側面もありますので、事前にインボイス未対応に該当しそうな取引先の概算数を把握しておき、それに合わせて準備をしておくとよいと思います。

  • 「インボイス制度とは?効率よく対応する方法」 第3回

    社内作業の時系列スケジュール例

取引先へのインボイス対応状況の正式な確認時期は、2023年4月がおすすめ

取引先へのインボイス制度対応の正式な確認時期に関しては、2023年10月1日からインボイスを発行するには、原則として2023年3月31日までに登録申請を行う必要があります。

一例として2023年4月ごろに各既存取引先へ「適格請求書発行事業者番号」の取得状況の調査依頼をする、ないしは先行して2023年4月分から請求書に適格請求書発行事業者番号を記載してもらうなど、なんらかの方法で適格請求書発行事業者番号を取得し、取引先マスタに入力してインボイス制度開始に備えておくとよいでしょう。

新規取引先に関しては、社内の新規取引先申請書のフォーマットを2023年4月1日の時点でインボイス制度対応仕様に変更しておくことで、その後の取引先に追加していくとよいでしょう。

【インボイス制度対応調査依頼メール例】

株式会社〇〇御中
拝啓…(事項の挨拶)
さて、2023年10月よりインボイス制度が実施されます。インボイス制度とは…(説明)
つきましては、現状の御社のインボイス制度への対応状況をお知らせください。
1.インボイス制度対応済(適格請求書発行事業者番号:〇〇〇〇)
2.インボイス制度対応予定(〇月までに)
*お手数ですが、適格請求書発行事業者番号を取得次第、弊社にお知らせください。ご連絡先:
3.現状インボイス制度への対応予定なし
お手数ですが〇月〇日までに…(返信依頼)
2023年4月〇日 株式会社〇〇

このような制度対応に関して「皆がやりだしてからうちの会社もやればいい」という考えの経営陣の方もいらっしゃると思いますが、インボイス制度に関しては対応をしないと損をする制度です。

その点を経営陣には明確に伝え、他社の状況を待つのではなく、自発的に対応をしたほうがよいことを推奨してください。会社全体がインボイス制度対応の作業を協力的に進めるためにも、経営陣から全社員への協力依頼の通達は後押しになります。

インボイス制度で影響を受ける金額の事前シミュレーションと会計ソフトの対応

経理部門に関しては、現時点でインボイス未対応の可能性のある取引先をピックアップし、過去の取引実績を会計データから抽出するなどして、インボイス制度の施行後、どれくらい影響額が出そうか事前のシミュレーションをしておくとよいと思います。

インボイス制度実施後の6年間は仕入税額控除の経過措置がありますので、それらの資料とともに、経営陣にシミュレーションの報告をして、情報を共有しておくことも必要と思われます。

また、会計ソフトをインボイス制度対応のものにバージョンアップする準備や手続き、そして社内で消費税計算を行っている会社は、同様に消費税計算ソフトのバージョンアップをする準備や手続きも必要になります。

  • 「インボイス制度とは?効率よく対応する方法」 第3回

    インボイス制度における仕入税額控除の経過卒の流れ

インボイス制度後の経費精算時の注意点

社内の経費精算においても、インボイス制度実施後に気を付ける点があります。インボイス制度の適用を受けるには「適格請求書発行事業者番号」が記載された請求書や領収書の会社での保管が原則になります。

例えば、社内のコーポレートカードを使用してAmazonなどのECサイトから商品を購入した場合、これまではコーポレートカードの契約会社からの利用明細とECサイトからの納品書を経理で保管することで内部統制を図っていた会社もあると思います。

インボイス制度施行後は、納品書ではなく、ECサイトから「適格請求書発行事業者番号」が記載されたインボイスを都度ダウンロードするなどして経理に提出してもらい、それを経理部門が保管しておくことが必要になります。

このような全社員に影響する細かい実務的な注意点も出てきますので、インボイス制度施行に向けた社内研修を行う時間なども、あらかじめ確保しておくとよいでしょう。

管理部門の人員が少ない会社は制度を機にデジタル化に舵を切るのも一手

ここまでお読みいただいてわかるように、インボイス制度へ向けて細かな社内対応作業が施行前後に数多くあります。

総務・経理・システムなどの管理系の社員が数多くいる会社であれば、これらの作業を分担し、営業や購買などの現場の社員の方々と連携して、スケジュール通り行うことも可能だと思います。

しかし、管理部門の社員がそもそも1人か2人しかおらず、請求書や新規取引先申請書、仕訳入力などがすべてアナログ、あるいは一部デジタル化されてはいるけれどデータで連動することなどはできない、といった状況の場合には従来以上に社員に負荷がかかることが予想されます。

この課題の解決策として、今回のインボイス制度を機に、バックオフィス業務全般をデジタル化するのも1つの方法だと思います。

例えば、新規取引先申請書のフォーマットや承認決裁の仕組みも備えた取引先管理マスタのソフトウェアを現時点から導入しておくことで、インボイス制度に備えたフォーマットなどの変更も、アナログ作業ではなくソフトウェアのバージョンアップで自動的に対応ができます。

また、取引先マスタのデータが会計ソフトのマスタとデータ連動できるものであれば、会計ソフト側の取引先マスタに、インボイス対応済か否かの情報が連動できるため効率的です。

請求書や新規取引先申請書などの「上流」の情報をデジタル化し、それを活かして「下流」の会計ソフトにデータを連動して流しこむことで、各社員の手作業を軽減することができ、少数精鋭の会社でも業務を滞りなく行うことが可能になると思います。

では、具体的にどのような手順で自社に見合うソフトウェアを選択して、どのように導入をするのが良いでしょうか。次回は、「インボイス制度に合わせたSaaSサービスの選択」をテーマにお伝えします。