楽天モバイルのプラチナバンド再割り当てや、衛星通信に関する話題が注目を集めた2022年。しかし、その一方で、5Gに関する取り組みは盛り上がりを欠き、関心は低下の一途をたどっています。→過去の次世代移動通信システム「5G」とはの回はこちらを参照。
2022年の5Gを振り返りつつ、その原因がどこにあるのかを確認してみましょう。
関心がほぼ高まらなかった5G SA
2022年も終わりを迎えようとしていますが、改めてこの1年、5Gに関する動向を振り返りますと“停滞”という言葉で表せるのではないかと感じています。
2022年、5Gで関心が高まると見られていたのは、5Gの実力をフルに発揮できるスタンドアローン(SA)運用への移行が本格化することでした。
2021年の段階で、すでにいくつかの携帯電話会社が法人向けに5GのSA運用によるサービスを提供していましたが、2022年はその利用エリアが拡大するのに加え、コンシューマ向けにもSA対応のサービスが提供されるとして注目されたのです。
そして確かに、2022年はNTTドコモが8月24日よりコンシューマー向けのSA運用によるサービスを提供開始するなど、SA運用によるサービスは着実に拡大していました。
また、法人向けの取り組みに関しても、KDDIがSA運用でネットワークスライシングを活用したサービスの提供を本格化、映像配信サービス「ABEMA」でそれを活用した映像配信などを実施しています。
さらに、12月にはKDDIとソニーが、そのネットワークスライシングを用い、1つのアプリで複数のネットワークスライスを割り当てて同時に利用し、安定したプレイ環境を構築する技術実証に成功したと発表しています。
これはネットワークの中に、映像配信用のスライスとコントローラーの操作信号を送る2つのスライスを設け、個別に動作させることで外出先でも安定したゲームのリモートプレイができるというもの。用途に応じた複数のスライスを活用するという、ネットワークスライシングらしい活用に一歩前進した取り組みとなったことは確かでしょう。
-
KDDIはソニーと、5G SAによるネットワークスライシングを活用したゲームストリーミングの技術検証を実施。当初は同じスライスで映像と操作をこなしていたが、2022年12月にはそれらを別々のスライスでこなすことにも成功したという
しかし、そうしたSA運用への取り組みが、大きな関心を呼んだかと言えば決してそうとは言えませんし、とりわけコンシューマ市場では、SA運用対応端末に積極的に乗り換える動きも起きていません。
その理由はやはり、5Gを有効活用するキラーサービスやハードが出てきていないことでしょう。
そもそもSA運用に移行しても、コンシューマでニーズの大きい高速大容量通信の性能が大きく向上する訳ではありませんし、スマートフォンでフル活用するのにも限界があります。
政府によるスマートフォンの値引き規制に加え、急速に進んだ円安の影響で高性能なスマートフォンが購入しづらくなかっているだけに、一層5G SA対応スマートフォンに乗り換えるモチベーションが湧かなかったというのが正直なところではないでしょうか。
また、5G SAの本命と見られている法人向けの取り組みに関しても、2022年はアピール機会があまり見られませんでした。もちろん取り組み自体は進められているのですが、その多くはやはり実証実験のフェーズから抜け出せておらず、現場への本格的な導入はまだあまり進んでいない印象です。
-
NTTドコモがFEエンジニアリングと、実際のプラントで5Gの技術実証をする「5G Innovation Plant」を2022年3月に立ち上げるなど、5G活用ソリューションの実証に関する動きは依然多いが、現場での具体的な活用に至るものはあまり出てきていない
5Gより注目される4G、理由はエリアカバー
2022年に注目されたのはむしろ、5Gより4Gではないかとさえ感じています。なかでも、そのことを象徴したのが楽天モバイルのプラチナバンド再割り当てに関する議論でしょう。
プラチナバンドは5Gでも最近、700MHz帯がエリアカバーを広げるのに用いられるようになってきていますが、主として3G、4Gで広範囲をカバーするのに用いられています。
そして、楽天モバイルはプラチナバンドを保有していないことから、2022年10月の電波法改正を機として4Gのエリア拡大のためプラチナバンドの再割り当てを要求、その議論が白熱して大きな注目を集めることとなりました。
ただ、その結果、総務省が楽天モバイルに有利な結果を出したことで、もし再割り当てがなされるとなれば、プラチナバンドを奪われる側となる大手3社は1000億円前後の費用負担をしなければならなくなる可能性が出てきました。
それが3社のインフラ投資コスト削減、ひいては5Gのエリア整備にマイナスの影響が出る可能性があるのが気になるところです。
そしてもう1つ、関心を呼んだのが衛星通信です。実業家のイーロン・マスク氏らが率いるスペースXの衛星群「Starlink」を活用した通信サービスが2022年10月に日本でも提供開始され、同社と提携するKDDIが2022年12月より、それを離島や山間部などの基地局整備に活用しています。
しかし、こちらも従来の衛星通信より高速とはいえ通信容量に限界がある、遅延が大きいなどの理由から、当面の利用は4Gが主体になると見られています。衛星通信が6Gへと通じる新しいものであることは確かですが、高い性能を要求する5Gを盛り上げる存在にはなりにくいというのが正直なところです。
法人向けという目線で見ても、5Gより4Gの方が有効活用されている様子をいくつか見ることができました。例えば2022年12月に有人地帯での目視外飛行ができる「レベル4」が解禁されたドローンに関して、その制御をするために用いられる通信には広範囲をカバーできる4Gが用いられているようです。
-
KDDIスマートドローンが2022年2月15日に発表した「4G LTEパッケージ」。ドローン向けの通信サービスと運行管理サービスなどをセットにしたものだが、名前の通り通信にはエリアが広い4Gが用いられている
そうしたことを考えると、現状は5Gの性能の高さよりもエリアカバーの広さに関心が集まりやすい傾向にあると見ることもできそうです。
総務省が2022年3月に「デジタル田園都市国家構想」に基づき5Gのエリア拡大の前倒しを打ち出したというのも、性能よりエリアの広さ重視した結果といえるでしょうし、それに伴いNTTドコモが4G周波数帯の5Gへの転用を進めるなど、5Gでも性能よりエリア重視という動きが強まっています。
その背景には、日本で元々4Gや固定ブロードバンドのインフラが充実していることもあるでしょうが、政府主導の料金引き下げで携帯各社が業績悪化に苦しみ、高性能の5Gネットワークを積極的に広げられないことも大きく響いているでしょう。
2023年も残念ながら5Gの高い性能を生かすサービスやデバイスはあまり広まらず、低空飛行が続くものと筆者は予想していますが、それを覆す大きな動きが出てくれることにも期待したいところです。