ノキアは2022年7月20日、同社の最新技術や戦略などを紹介するイベント「Nokia Connected Future 2022」を日本で開催しました。→過去の回はこちらを参照。
5Gの4つの周波数帯を束ねたキャリアアグリゲーション、そして昨今注目を集めているエネルギーに関連する取り組みなど、ノキアが5Gの拡大に向け力を入れている技術などについて確認してみましょう。
ローバンドとのCAでミッドバンドのエリアを拡大
ノキアは自社の製品や戦略を紹介する「Nokia Connected Future」というイベントを定期的に実施していますが、2022年は行動制限などの影響から、スペイン・バルセロナで実施された「MWC Barcelona 2022」に日本から渡航できない人が多かったこともあり、MWC Barcelona 2022で展示した新製品などを中心に紹介していました。
今回、力を入れて紹介がなされていたのが5Gのキャリアアグリゲーション(CA)に関する取り組みです。
5Gの周波数帯は主に、4Gから転用したローバンド(0.6~2.6GHz)と、日本でも5G用として割り当てがなされているミッドバンド(いわゆる「サブ6」、2.5~4.9GHz)、そして24~39GHzのミリ波の3つに分けられます。
そのなかでも、ミリ波は電波伝搬に問題がある、要は電波が遠くに飛びにくいことからエンタープライズ向けなど用途を限定したスポットでのカバーに用いられるとする一方、ミッドバンドはMassive MIMOやビームフォーミングなどの技術を用いてエリアカバーを広げられることから、5Gの主力になると同社では見ているようです。
米国のTモバイルUSの事例では、買収した同業のスプリントが保有していた2.6GHz帯を5Gに活用、Massive MIMOなどの技術を用いてエリア構築することで、データ通信速度が従来の2倍に向上し競合他社を上回る成績を残したようです。
ただ、ミッドバンドはローバンドと比べ、エリアカバーの面で弱みがあることから、ノキアが提唱しているのがミッドバンドとローバンドのCAです。ローバンドは帯域幅が狭いことから、ミッドバンドとCAで束ねても通信容量が大幅に増える訳ではありません。
しかし、広範囲をカバーできるローバンドを束ね、上りの通信にローバンドを活用することにより、通信できるエリア自体を広げられるとのこと。実際、TモバイルUSの事例では2.6GHz帯と、ローバンドの600MHz帯のCAでカバーエリアを30%拡大できたとのことです。
さらにノキアでは、5GのCAに関する取り組みを強化。2022年2月には世界で初めて4つの周波数帯を束ねた5Gでの「4CC CA」の実証を実施したとのこと。
ノキアとクアルコム、そしてフィンランドの通信会社であるエリサと共同で実施した実証実験では、2Gbpsを超える上りの通信速度を実現したとしています。
会場ではその4CC CAのデモも披露されていました。こちらのデモでは5Gのバンドn77(3.7GHz帯)を2波(帯域幅は100MHzと40MHz)、そしてバンドn3(1.7GHz帯、帯域幅15MHz)とバンドn28(700MHz帯、帯域幅10MHz)を1波ずつ束ねて通信し、その速度を測定するというもの。
使用している周波数帯が国内の事業者が持つものと共通していることから、国内での導入を想定していることが分かります。
あくまでデモということもあって端末と基地局との通信は無線ではなくケーブルを通す形が取られていましたが、測定結果を見るとおよそ2.4Gbpsの通信速度を実現していました。
エネルギー効率化に向け液冷基地局を開発
もう1つ、ノキアが現在力を入れているのがエネルギー効率化に関する取り組みです。携帯電話のネットワーク設備は非常に多くの電力を消費することから、ノキアでも現在、ハード・ソフトさまざまな側面でその電力消費を削減する取り組みを進めているとのこと。
その代表的な取り組みの1つが、世界初となる液体冷却基地局の開発です。
従来の基地局はファンなどを用いた空気冷却で基地局の冷却をしていましたが、これを液体による冷却に買えることで、冷却にかかるエネルギー消費を9割、基地局のCO2排出量を8割削減できたとのこと。
すでに、いくつかの携帯電話事業者と導入に向けたトライアルを実施しており、日本ではKDDIとトライアルを進めているそうです。
世界的なサステナビリティに関する注目の高まりに加え、昨今の世界情勢の影響や円安の急加速などによるエネルギーの高騰などを受け、国内でもエネルギーに関する動向が大きな注目を集めるようになってきました。
そうした情勢を意識してか、基地局ベンダーもここ最近、エネルギー消費を抑えた製品の開発に力を入れるようになってきており、今回のノキアの取り組みもその一環といえるでしょう。
とりわけ5G時代に入り、ミリ波の活用が進めば設置される基地局の数も飛躍的に拡大することが考えられるだけに、とりわけベンダー側にはエネルギーを抑えながらもより高速で快適な通信を実現する取り組みが求められているのは確かです。
通信性能の強化だけでなく、エネルギー効率化に関する取り組みも今後は大きな注目を集めることになるのではないでしょうか。