携帯大手3社は2021年度決算で、5Gのネットワーク整備状況と今後の投資について説明しています。一連の内容から、現時点における各社の5Gネットワーク整備状況と今後の戦略を確認してみましょう。→過去の回はこちらを参照。
整備が遅れ気味のKDDI、NTTドコモは方針を転換
携帯各社は現在、5Gのネットワーク整備を積極的に進めており、新規参入で4Gのネットワーク整備に重点を置いている楽天モバイルを除く3社は、5Gのエリア拡大に向け積極的な投資を続けています。そして2022年5月にその3社が実施した2021年度の通期決算説明会では、各社の5Gネットワーク整備の進展状況と、2022年以降の戦略について説明がなされていました。
では現在のところ、各社の5Gネットワーク整備はどこまで進んでいるのでしょうか。純粋なエリアという意味で言えば、最も進んでいるのはソフトバンクではないかと考えられます。
ソフトバンクは5G向けに割り当てられた3.7GHz帯などだけでなく、4G向けに割り当てられている700MHz帯や1.7GHz帯などを5G向けに転用してエリア整備を急ぐ方針を示しており、2022年3月には5Gの人口カバー率が90%を達成したことを発表しています。
一方で、遅れが目立っているのがKDDIです。KDDIもソフトバンクと同じく、4G向けの周波数帯を転用してエリア拡大を進めており、2022年3月には人口カバー率90%を達成する計画を打ち出していました。
しかし、同社の代表取締役社長である高橋誠氏によると、「工事に若干苦しんでいる」とのことで、まだ人口カバー率90%の達成には至っていないようです。
高橋氏は以前にも、コロナ禍や半導体不足などの影響を一部受けて工期が遅れている旨の発言をしていたことから、整備にやや苦しんでいる様子を見て取ることができます。
ただKDDIは以前より、住宅地などに面展開するより先に、鉄道路線や商業地域など生活動線上の5Gネットワーク整備を重点的に進めていたことから、そうした整備方針が工期に影響している部分もあるのかもしれません。
そしてNTTドコモは、これまで2社とは違って、3.7GHz帯や4.5GHz帯といった5G向けの周波数帯を用い、5Gらしい高速大容量通信ができる「瞬速5G」のエリア整備にこだわってきました。そうしたことから、5Gの基地局整備自体は2万局を突破し順調な進展を見せる一方、人口カバー率での進展でいえば他社より大きく遅れているのが現状です。
ですがNTTドコモは2022年春から、一転して4Gの周波数帯を転用して5Gのエリア整備を進める方針を打ち出しています。
その理由について、同社の代表取締役社長である井伊基之氏は、岸田文雄首相が打ち出す「デジタル田園都市国家構想」の達成に向け、2023年度までに人口カバー率95%の達成を求める要請が来ていることから、4Gの周波数帯を転用しなければ「間に合わない」ためだと説明。5Gのエリア整備を急ぐ政府の方針によって戦略を変える必要が出てきたようです。
今後も続く積極投資、エリア以外の環境整備も重要に
では、2022年度、3社はどのような方針でエリア整備を進めていくのでしょうか。
NTTドコモは先にも触れた通り、700MHz帯や3.4GHz帯といった4G向け周波数帯を5G向けに転用し、エリア整備を本格化する予定。設備投資額も「5500億円の半分くらい」、つまり2750億円程度と井伊氏は説明しています。
それゆえ従来と同じ水準での高速通信という意味ではやや期待外れな部分も出てくるかもしれませんが、5Gが利用できるエリア自体は今後急速に広がるものと考えられます。
KDDIは短期的に見れば工期の遅れを取り戻すことが重要ですが、今後3年間の中期経営計画を打ち出しており、5Gを軸に法人事業や金融、電力など、さまざまな注力事業を広げていく「サテライトグロース戦略」を打ち出しています。
そこで、中期経営計画の向こう3年間で7000億円、1年当たり約2300億円を5Gに投資して強化を図る方針のようで、3年後の2024年度には5G契約浸透率80%を目指すとしています。
そして、ソフトバンクは2022年度も5Gには積極投資し、面展開に集中する方針を打ち出しています。実際、同社は2022年度、モバイル通信を主体としたコンシューマ事業と法人事業との合計で、4300億円の投資をするとしています。
一方で2023年度以降は面展開が落ち着き、5G基地局整備もトラフィック対策が主になってくることから、同社の代表取締役社長執行役員兼CEOである宮川潤一氏は「2022年度と2023年度を比較すると、1000億円程度削減できる」とも話しています。
今後は各社ともに、5Gの人口カバー率を現在の4Gと同じくらいの割合に近づけるべく整備に力を入れていくものと考えられます。
ただ宮川氏が「5Gと4Gとで、スマートフォンでやれることは何が違うかというと、そんなに変わらない」と話すように、エリアだけを整備しても5Gの利用用途がスマートフォン以上に広がらなければ、あまりメリットがないというのも正直なところです。
真に5Gを普及させる上では、エリアの拡大に加え5Gを生かせるデバイスやサービスの開発・提供も重要になってくるでしょう。そこで注目されるのが、5Gの実力をフルに発揮できるスタンドアローン(SA)運用への移行です。
すでに、3社は法人向けのSA運用によるサービスを一部で始めていますが、2022年夏ごろにはNTTドコモとKDDIがコンシューマ向けにもSA運用によるサービスを始めるとしています。
エリアだけでなく、法人・個人それぞれに向けて5Gを真に生かせるソリューションを提供できるかどうかという点も、5Gの普及に向け各社に大きく問われているところではないでしょうか。