NTTとスカパーJSATは2022年4月26日に両社が進める 宇宙統合コンピューティング・ネットワーク事業を担う合弁会社「Space Compass」の設立を発表しました。そのSpace Compassが担う業務の1つに「宇宙RAN」が挙げられていますが、6Gで空や宇宙でのエリア展開が見込まれる中、両社はどのような形で上空からのモバイルネットワーク整備を進めようとしているのでしょうか。→過去の回はこちらを参照。
合弁会社「Space Compass」が進める2つの事業
2021年5月に新たな宇宙事業創出のため、業務提携を締結したNTTとスカパーJSAT。その具体的な取り組みの1つとして、2022年4月26日に両社は新たな動きを見せています。
それが合弁会社の設立です。両社は同日に90億円ずつを出資し、合弁会社のSpace Compassを設立することで合意したと発表、両社が目指す宇宙統合コンピューティング・ネットワーク事業の実現に向けた具体的な取り組みになるとしており、将来的には1000億円規模の事業創出を目指すとしています。
そのSpace Compassが展開を予定している事業は大きく2つあり、1つは宇宙データセンター事業。これは静止軌道衛星と光伝送技術を用いることにより、衛星の観測データなどの伝送を既存のサービスより10倍速く、任意のタイミングで伝送できる準リアルタイム高速伝送を実現するというもの。従来90分程度かかっていた伝送時間を、10~20分程度にまで縮めることができるといいます。
そしてもう1つ、モバイル通信に大きく関連してくるのが「宇宙RAN」事業です。RANは基地局などの無線アクセスネットワークのことを指し、宇宙RANは宇宙空間、および成層圏からの無線通信を実現する取り組みとなるのですが、その最初の取り組みとなるのはHAPS(High Altitude Platform Station:高高度プラットフォーム)となるようです。
HAPSは基地局を搭載した無人の飛行機を成層圏に飛ばし、直接地上にモバイル通信の電波を飛ばして広範囲でスマートフォンなどを利用可能にする仕組み。Space CompassではそのHAPSによる国内での事業を2025年度に開始する予定だとしています。
HAPSはバックボーンは有線が主体となる地上のモバイル通信ネットワークとは異なり、上空からのエリアカバーが可能なことから、離島や山間部などのエリアカバーや災害時の活用、さらには従来の通信ではカバーが難しかった飛行機やドローンなどを直接カバーすることなども想定されているようです。
NTTとスカパーJSATは、NTTドコモ、そしてエアバスとHAPSの早期実用化に向けた研究開発推進の覚書を締結しており、その枠組みを生かしてサービス化を進めるものと見られます。
HAPSと低軌道衛星のメリットとデメリットとは
しかし、Space CompassではHAPSのさらに先も見据えた取り組みも検討されているようで、具体的には高度が2000km以下の低い軌道を回る低軌道衛星の活用です。
低軌道衛星による通信といえば、実業家のイーロン・マスク氏が設立したSpaceX社が、1500もの低軌道衛星を活用して衛星ブロードバンド通信「Starlink」を提供、最近ではウクライナでもStarlinkを用いたサービス提供がなされたことでも知られています。
そこでSpace Compassの宇宙RAN事業では低軌道衛星、HAPS、そして地上のネットワークを組み合わせてより広域での通信を提供することを見込んでいるようです。
HAPSを飛行させるには、上空を通過する国の許可が必要となるため飛行させられるエリアには限界が出てきますが、領海などそれでもカバーしきれない場所の通信をカバーするのに、領空を超えて地球を周回できる低軌道衛星による通信の活用を考えているようです。
一方でHAPSは、一度打ち上げたら飛び続ける衛星とは違い、飛行機なので地上に降ろして再び飛ばすことができるので、機材を変更できより新しい通信方式に対応しやすいなどのメリットもあります。
そうした双方のメリットを生かし、従来より一層広域で快適に利用できるネットワークを整備することが宇宙RANの目指すところとなるようです。
ただSpace Compassは当初、SpaceXのように数千規模の低軌道衛星を打ち上げることは考えておらず、需要を見極めながら打ち上げる基数を増やしていく考えとのこと。
さらに言えば低軌道衛星通信の卸や相互接続なども検討しており、他の事業者と連携してエリアカバーすることも考えられているようで、すべてを自社で賄うSpaceXとは違った事業展開を目指す可能性もありそうです。
そして、低軌道衛星とHAPSのハイブリッドによる通信環境の提供は、6Gに向けた技術開発にもつながっている部分が少なからずあります。
6Gでは空や海、宇宙まで幅広いエリアのカバーが求められていることから、とりわけNTTにとっては、現在力を入れている「IOWN」と連携し、6Gの技術開発をリードしたい狙いも大きいといえそうです。
ただ現在のところ、HAPSで地上に電波を射出するための法整備や、周波数帯の整備などに関する議論はまだ途上とのこと。同社では2025年の大阪万博で技術を披露することを見込んでいるといいますが、その時までに行政側が制度整備できるかどうかという点も、Space Compassの事業の今後を見極める上で重要なポイントになってくるといえそうです。