2022年には携帯各社が5Gの運用を、現在の4Gと一体で運用するノンスタンドアローン(NSA)運用から、5Gのみで運用するスタンドアローン(SA)運用へと移行を本格化させる予定です。ですがSA運用の仕組み上、移行に伴いNSA運用より通信速度が遅くなるという問題が浮上することになりそうです。→過去の回はこちらを参照。

夏にはコンシューマー向けSA運用も開始

2022年、国内の5Gを取り巻く環境にはさまざまな変化が起きると見られていますが、中でも技術的に大きな変化となるのは、やはりNSA運用からSA運用への移行でしょう。

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携帯各社の5Gネットワークは現在、4Gのネットワーク設備の中に5Gの基地局を設置し、高速大容量通信のみを実現するNSAでの運用となっていますが、純粋な5Gのみのネットワークで運用されるSA運用に移行すれば、低遅延など他の5Gの性能も実現できるようになります。

携帯各社は当初、5Gのネットワークをいち早く展開するためNSA運用での環境整備を進めてきましたが、5Gの実力をフルに発揮する上ではSA運用への移行が必須となります。そこで携帯各社は、2021年からSA運用への移行を開始しているのです。

実際、KDDIは2021年9月に商用環境におけるSA構成での通信試験を開始ソフトバンクでも2021年10月よりSA運用による商用サービスの提供を開始したほか、NTTドコモも2021年12月からSA運用でのサービス提供を開始しています。

各社がSA運用への移行で狙っているのは、企業の5G活用を推し進めるためです。5Gを活用したいという企業のニーズは高速大容量通信よりむしろ低遅延・高信頼性や、ネットワークを仮想的に分割して用途に応じたネットワークのカスタマイズができる「ネットワークスライシング」などの方が大きく、その活用を本格化させるにはSA運用への移行が不可欠なことから、先の3社は現在の所、SA運用によるサービスを法人向けに限定して提供しているのです。

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    ソフトバンクのプレスリリースより。5G専用の機器で構成されたSA運用に移行すれば、低遅延や多数同時接続など、高速大容量以外の特徴をフルに発揮できるようになる

しかし、今後5Gを本格活用していく上ではコンシューマー向けのネットワークもSA運用に移行していく必要があるでしょう。そうしたことからNTTドコモは、2022年夏ごろにはコンシューマー向けにもSA運用によるサービスを提供予定としており、同時期にはSA運用に対応したスマートフォンを提供するとしています。

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    NTTドコモは企業向けだけでなく、コンシューマー向けのSA運用によるサービス提供も、2022年夏頃に開始予定としており、同時期にはSA対応スマートフォンも提供予定とのこと

“5Gだけ”ゆえにSA運用時の通信速度は落ちる

現状の5Gにおいて、コンシューマー向けにSA運用によるサービスを提供する上では1つ大きな問題も存在しており、それは通信速度が低下してしまうということです。

NTTドコモの事例を挙げますと、現在NSA運用で提供されているコンシューマー向け5Gの通信速度は受信時最大4.2Gbpsですが、法人向けに提供しているSA運用のサービスにおける通信速度は受信時最大1.7Gbps。高速大容量通信が期待されるコンシューマー向け用途を見据えた場合、現状のままですとSA運用に移行するとかえって通信速度が遅くなってしまうというデメリットが発生してしまうわけです。

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    NTTドコモのSA運用によるサービスでは、現在の所通信速度が受信時最大1.7Gbps。受信時最大4.2GbpsのNSA運用によるサービスと比べ通信速度は大きく落ちる

なぜ、このような事態が起きてしまうのかといいますと、理由は4Gにあります。NSA運用下では4Gと5Gを一体で運用する必要があることから、5Gに4Gのネットワークも束ねて通信速度を高速化できるのですが、SA運用では5Gのネットワークしか使えないので、4Gを束ねて高速化することができないのです。

もちろん、5Gで使用する周波数帯を増やせばそうした問題は解決できるでしょうが、5G向けの新たな周波数帯の割り当てがそう頻繁に実施されるわけではありません。

2022年には新たに2.3GHz帯の割り当てが予定されていますが、すでに放送や公共事業などで使われている帯域なので「ダイナミック周波数共用」で既存事業者に配慮した運用が求められる制約がありますし、帯域幅も40MHzと5G向けとしては広いとは言えず、割り当てられる事業者は1社に限られています。

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    総務省の2.3GHz帯免許割り当て指針案より。2022年割り当て予定の2.3GHz帯は帯域幅が40MHz幅に限られる上、すでにこの帯域を使っている事業者に影響を与えないよう「ダイナミック周波数共用」による運用も求められている

ただ、4G向け帯域を5Gに転用することで割り当てを増やす手もあり、実際総務省が2021年12月に28日に発表した資料からは、NTTドコモが4G向けに割り当てられた周波数帯の一部を5G向けに転用することが明らかにされています。

しかし、現在は5Gよりも4Gの利用者の方が明らかに多い状況で、多くの周波数帯を5Gに転用してしまうと4G利用者のパフォーマンスが大幅に落ちてしまうことから、携帯各社もそう簡単に4Gへと転用することはできない状況にあるのです。

それだけにこの問題の解決には現状、有効な手立てがないというのが正直なところです。NTTドコモがコンシューマー向けSA運用のサービス提供を明らかにしているだけに、KDDIやソフトバンクもそう遠くないうちに同様のサービス提供を進めることが予想されますが、各社がSA運用時の通信速度の問題に、どのような対処を示すのかが注目されます。