2021年、5Gの利用が進むとともに問題視されるようになった「パケ止まり」。これは5Gのアンテナは立っているのに通信ができないという事象ですが、なぜパケ止まりが発生するのでしょうか。その解決策として、携帯各社はどのような取り組みを進めているのでしょうか。→過去の回はこちらを参照。
「パケ止まり」はなぜ起きるのか
2021年も12月に入り間もなく終わろうとしていますが、今年は5Gが急拡大した1年でもありました。実際、携帯大手3社の5G基地局整備は2021年のうちに急速に進み、2020年には“点”だったエリアが“面”となってきましたし、5G対応スマートフォンもハイエンドモデルだけでなくミドルクラス、さらには2万円台のローエンドモデルにまで急拡大したことから、5Gが急速に身近なものとなったのも確かです。
その一方で、2021年に5Gに関連した問題として注目されたのが「パケ止まり」です。これは5Gのアンテナが立っているにもかかわらず通信ができなくなってしまう事象で、SNSなどで報告が相次ぎ問題視されるようになったもの。主に5Gのエリアの端、つまり5Gの電波が入るか入らないかというギリギリの場所にいると発生しやすいようです。
なぜパケ止まりが発生するのかと言いますと、原因の1つは現在の5Gが、4Gのコアネットワークと基地局の中に、5Gの基地局を追加して併用するノンスタンドアローン(NSA)での運用であること。そしてもう1つは、5Gのエリア整備が途上だということです。
NSA運用では4Gでの通信がベースとなるため、端末はまず4Gの基地局と接続し、近くに5Gの基地局があった場合はそちらと接続して高速通信する仕組みになります。ですがその際5Gの基地局から届く電波が弱いと、うまく通信ができなくなりパケ止まりの状態が発生してしまうのです。
そして、5Gのサービス開始当初、携帯各社のネットワークは5Gの高速通信をなるべく生かすよう、5Gに最優先で接続するよう設計されていたようです。ですが5Gは従来より高い周波数帯を用いるため、エリア整備途上で面的カバーが進んでいない状態ではエリアの境界線上でユーザーが通信してしまうケースも多く、それがパケ止まりの多発へとつながった訳です。
しかも先に触れた通り、2021年に発売されたスマートフォンは、低・中価格帯のものまで非常に多くの端末が5G対応となっていたことから、最新機種に買い換えた人達のほとんどは5Gを利用することとなります。エリア整備が途上の状態で5Gが使えるユーザーが急増してしまったことも、パケ止まりが問題視された大きな要因といえそうです。
エリア整備途上ゆえの問題、チューニングで解決が進む
パケ止まりは5Gのエリア整備が途上だからこそ起きやすい現象なので、エリアを拡大して4G並みの人口カバー率を実現し、5Gのエリア境界線上にいるユーザーを減らせば解決が進むと考えられます。ですが5Gには従来より高い周波数帯を用いることが多く、エリア整備にはどうしても時間がかかってしまいます。
そこで携帯各社が現在、パケ止まり対策として力を入れているのがネットワークのチューニングです。先にも触れた通り、NSA環境下で5Gの基地局への接続を優先してしまうことがパケ止まり発生の大きな要因となっていることから、5Gの優先度合いを下げ、電波環境が厳しい場合は4Gに優先して接続するようチューニングすることで、パケ止まりは起きにくくなるのです。
実際、 5Gのエリア拡大を推し進めている携帯3社は2021年後半ごろから、パケ止まり対策のためのチューニングにかなり力を入れているようです。例えば2021年12月13日に5Gに関する説明会を実施したNTTドコモは、通信開始時に5Gの電波品質が悪いときは4Gの電波を活用するだけでなく、5Gの通信中に4Gの電波にもデータを流しやすくする、端末に割り当てる周波数帯の幅を最適化して上りの通信速度を届きやすくするなど、パケ止まり対策のため複数のチューニングを施したとしています。
その結果、同社のトラフィックデータからは、5Gの接続性効率が約10%改善したほか、5Gのデータ流量が約30%増加するなど、パケ止まりの解消につながっていることを示す様子が見えてきたとのこと。今後もさらに、電波の効率化効率化を図って上り通信速度を向上させるチューニングを実施することにより、通信品質改善を進めていくとしています。
無論、パケ止まりの本質的な解決にはNSA環境下での5Gエリア拡大、さらにはSA運用への移行が必須となるため、それまではパケ止まりを完全になくすことは難しいでしょう。ですが各社が取り組む一連の対策によって改善が進められていることもまた確かですので、2022年はより場所を選ぶことなく、5Gによる快適な通信ができるようになるのではないでしょうか。