ソフトバンクは2021年11月10日、エヌビディアと共同で「AI-on-5G Lab.」を設立すると発表しました。これはエヌビディアの「AI-on-5G」プラットフォームを用いたプライベート5G向けソリューションの開発を推し進める取り組みですが、vRAN(仮想化無線アクセスネットワーク)とMECを同時に実現するエヌビディアの「AI-on-5G」プラットフォームを採用することに、どのようなメリットがあるのでしょうか。→過去の回はこちらを参照。

GTCでアピールされたAI-on-5Gの新たな取り組み

エヌビディアは2021年11月9日より、同社のカンファレンスイベント「GTC 2021」を実施。その中では同社の技術を活用したAIなどに関する新しい取り組みについて説明がなされていましたが、中には5Gに関連する取り組みの発表もありました。

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同社は5Gを機として通信の領域にも積極的な参入を打ち出しており、強みを持つGPU技術を生かしてvRANを実現。さらには仮想化されたRAN(無線アクセスネットワーク)をMEC(マルチアクセス・エッジコンピューティング)用のサーバとしても活用し、AI処理も同時にこなすことでさまざまな産業用途に役立てる、「AI-on-5G」プラットフォームの実現に力を入れています(第49回参照)

今回のGTCにおいても、エヌビディアはそのAI-on-5Gを活用した事例をいくつか打ち出しています。その1つが、ネットワーク仮想化ソフトウェアなどを提供するMavenir(マベニア)が発表した統合型インテリジェントビデオ解析ソリューション「MAVedge-AI」で、エヌビディアのAIを活用したビデオ解析システム「NVIDIA Metropolis」と、AI-on-5Gのプラットフォームを採用することで、5GとAIによるビデオ解析を導入しやすくなるのが特徴だとしています。

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    マベニアが発表した統合型インテリジェントビデオ解析ソリューション「MAVedge-AI」。AI-on-5Gなどの活用により、5GとAIを活用したビデオ解析を短期間で導入できるという

そしてもう1つ、挙げられていたのがソフトバンクとの取り組みです。ソフトバンクはエヌビディアと共同で、AI-on-5Gを活用したさまざまな実証やビジネスへの応用研究を実施する「AI-on-5G Lab.」を立ち上げることを発表しています。

ソフトバンクは2019年にエヌビディアのGPUをvRANに採用することを表明、その後GPUを活用したvRANの導入に向けた検証を進めていました(第29回参照)。それゆえエヌビディアと共同でAI-on-5G活用を推し進めるのは自然な流れではありますが、具体的にAI-on-5Gで何を実現しようとしているのかは気になる所です。

vRANに同居することで広がるMECのメリット

2021年11月10日にソフトバンクが実施した説明会では、AI-on-5G Lab.の開設に至った経緯と、より具体的な取り組みについて説明がなされました。ソフトバンクがAI-on-5G、ひいてはGPUを活用したvRANに期待を寄せるのは、やはりvRANとMECを1つのサーバで動作させられる効率の高さが大きな理由であるようです。

1つのサーバにvRANとMECが同居していれば、通信量が多い昼間はvRANとしての作業やミッションクリティカルな低遅延の用途にリソースを割き、通信量が大幅に減る夜中はAIの学習に活用したりすることも可能。リソースを柔軟に割り当ててサーバを効率的に動作させられることが、大きなメリットになるとソフトバンク側では考えているようです。

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    vRANとMECが同居することで、時間帯によってサーバのリソースを双方が必要とする分だけ動的に割り当てられ、効率的な運用が可能になるという

すでに、エヌビディアがAI-on-5GでvRANとMECを共存させる取り組み自体は進めていることから、それを具体的なビジネスにつなげることを検討するべく、AI-on-5G Lab.を立ち上げるに至ったとのこと。AI-on-5Gの設備を実際に活用して実証をすることで、エンド・ツー・エンドでの5Gソリューション開発を進めていくことが、主な目的となるようです。

MECは5Gの低遅延を実現する技術の1つとして注目されていますが、ソフトバンクは低遅延以外にも、より幅広いMECの活用が期待できるとしています。

その一例として、医療機関の患者の情報など外部に出したくないデータをMECに収集し、データを外部に出すことなくAI学習モデルを作成、その学習モデルだけを1箇所に集めて高度なAIの学習モデルを作成する「フェデレーテッドラーニング」などが挙げられており、MECをより有効活用する手段の検討も、このラボでは重要なテーマになってくるかもしれません。

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    ソフトバンクとエヌビディアが開設した「AI-on-5G Lab.」の概要。AI-on-5Gが利用できる環境を用意し、プライベート5G向けのソリューションを開発するのが狙いだという

ただGPUベースのvRANは、現状専用のハードを活用したRANと比べ性能が劣り、ソフトバンクがパブリックの5G網に導入するのはまだ難しい状況です。

そこでソフトバンクは今回のラボでの取り組みが「プライベート5G」、要はソフトバンクが免許を持つ周波数帯を使って構築する、ローカル5Gのような企業向け自営型のネットワークで活用することを前提としており、まずは専用ハードほど高い性能が必要ない場面での利活用を進めていくものと考えられます。

ちなみにAI-on-5G Lab.のネットワークには、vRANにはマべニアのソフトウェア、無線通信部分にはフォックスコンの機器と、いずれも今回のGTCでエヌビディアとの協業が打ち出された企業のものを採用しているようです。ただいずれもO-RANに準拠していることから、ソフトバンクとしては他のベンダーの機器を組み合わせることも考えられるとしています。

5Gを活用したソリューションは、スタンドアローン運用で先行するローカル5Gでさえ実証実験レベルにとどまるものが多く、具体性のある取り組みがなかなか出てきていないのが現状です。ソフトバンクはプライベート5Gを2022年より提供開始するとしていますが、AI-on-5G Lab.で5Gを活用した有効なソリューションの開拓が進み、サービス開始時には多くのソリューションが出揃うことを期待したいところです。