ソフトバンクらが「AI-RANアライアンス」を立ち上げるなど、ここ最近モバイルのネットワーク上でAIの計算や処理をすることで、AI関連機能の活用をより積極化しようという動きが広がりつつあります。ですがその実現にはさまざまな壁をクリアする必要がありそうです。→過去の「次世代移動通信システム『5G』とは」の回はこちらを参照。
RANへのAI導入を目指す「AI-RANアライアンス」
昨今のAIブームはモバイル通信の世界にも大きな影響を与えており、2024年8月に発表されたGoogleの「Pixel 9」シリーズや、9月に発表されたAppleの「iPhone 16」シリーズなどのスマートフォンにおいても、AI関連機能のアピールが全面的になされていました。
しかし、モバイル通信のAIに関する取り組みはそれだけではなく、ネットワークの中に側にAI技術を導入し、端末に近いエッジ部分でのAI活用を進めようという動きがいくつか出てきています。その1つが、ソフトバンクと米NVIDIAが主軸となって立ち上げた「AI-RANアライアンス」です。
これは文字通り、RANへのAI技術導入・活用を推進する取り組みを推進するために設立されたもの。実際両社は以前にも「AI-on-5G Lab.」を設立し、遅延の実現に貢献するとされるMEC(Multi-access Edge Computing)とRANを融合、それをAIの推論などに活用するなどの取り組みを進めていました。
その取り組みを本格化するべく、通信やコンピューティングに関連する企業や団体の参画を募って設立したのが、AI-RANアライアンスとなっています。
AI-RANアライアンスでは、RANにAIを活用することでRAN自体の運用効率を上げ性能向上を図るだけでなく、RANにMECの機能を持たせてAIの処理をこなしたり、あるいはRANがあまり使われない深夜などに、そのリソースをAIの学習に活用したりするなどして、携帯電話会社の新たな収益源にすることなどが検討されています。
そしてAI-RANアライアンスには先の2社に加え、ARMやT-Mobile USAなどソフトバンクに近い企業のほか、AWS(Amazon Web Service)やエリクソン、ノキア、サムスン電子など通信やITに関連する大手企業が参加。かなり規模の大きな取り組みとなっている様子がうかがえます。
そうした参加企業の中から、よりAI-RANの実現に向けた取り組みを積極化する様子も見られるようになってきました。実際、ソフトバンクとノキアは2024年9月10日にAI-RAN、そして6Gの実現に向けた共同研究開発の覚書を締結しており、ノキアの仮想化RAN(vRAN)プラットフォームを用いたARI-RANの開発などを共同で実施するとしています。
クラウドとデバイスの中間で強みを発揮
もう1つ、方向性に違いがあるものの、やはりネットワークを活用してよりユーザーのデバイスに近い、エッジ側でAI処理をこなすことを検討しているのがKDDIです。同社は現在主流となっているクラウドベースのAI基盤となるデータセンターの強化を推し進めていますが、それに加えて5GのMECをAIの計算リソースに活用することも検討しているといいます。
実際、KDDI 代表取締役社長の高橋誠氏は、2024年9月2日に実施された「KDDI SUMMIT 2024」で、全国8つの拠点にMECを設置することを検討していることを明らかにしています。
その上で、よりクラウドより型、かつ特定の用途に特化したLLM(Large Language Models:大規模言語モデル)を動作させ、処理をこなすことによって、低消費電力かつ低遅延のAI環境を実現することを狙っているようです。
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2024年9月2日の「KDDI SUMMIT 2024」では、KDDIの高橋氏が全国に設置予定のMECをAIに活用し、より顧客のデバイスに近い位置で用途に特化した低遅延のAIを動作させることを検討しているとのこと
クラウド上のAIは、大規模な計算リソースを活用した高度な機能が実現できる一方、一度クラウドを経由するため遅延などには課題があります。
一方でスマートフォンなどデバイス上のAIは遅延なく処理でき、バッテリーで動作するほど省電力であることがメリットとなりますが、性能が限られるため実現できる処理には限界があります。
そこで両者の中間となるRANやMECを活用することにより、デバイス上よりも高度な機能を実現しながらも、クラウドよりも低遅延かつ低消費電力で処理できる。それがAIの活用用途を広げることにつながると見ているからこそ、各社がこうした取り組みを進めているのではないでしょうか。
しかし、その実現のためには当然のことながら環境整備、具体的にはMECサーバーを設置する必要があります。MECはデバイスとの距離が近いほど遅延を抑えやすくなることから数を多く設置することが求められるだけに、どれだけのコストをかけてMECを設置するかは通信各社に取って大きな課題となってくるでしょう。
とりわけAI-RANアライアンスが目指すような、RANにMECの機能を持たせるためには、そもそもRANをvRANに置き換えていく必要があり一層大きな労力とコストがかかってしまいます。しかもvRANはRAN専用の機器と比べまだ性能が低く、消費電力が大きいことが課題となっているだけに、現時点でそのリソースをMEC、ひいてはAIに活用するのは難しいようにも感じてしまいます。
そうしたことから、ネットワークのエッジ上でのAIは、可能性は大きいもののすぐ実現できる訳ではない、というのも正直な所ではないでしょうか。今後vRANなどの進化が進み、よりMEC、ひいてはエッジAIの導入がしやすい環境が整うことに期待したい所です。