2024年1月16日、ソニーネットワークコミュニケーションズは「NURO」ブランドの通信サービスに関するカンファレンスイベント「NURO EXPERIENCE - 新たな可能性のそばにNUROがいる」を開催。

その中ではMVNOとして展開する「NUROモバイル」のほか、ローカル5G事業の「NURO 5G」やIoT向け通信サービス「ELTRES IoTネットワークサービス」など、企業に向けた無線通信への取り組みもいくつか披露されています。同社の無線通信ビジネス戦略を確認してみましょう。→過去の「次世代移動通信システム『5G』とは」の回はこちらを参照。

ローカル5Gをエンタテインメント事業に活用

都市部を中心に展開する光ブロードバンドサービス「NURO光」を手掛けているソニーネットワークコミュニケーションズ。イベントの中心はもちろんNURO光に関する取り組みの発表であり、2024年には10Gbpsの光回線サービスを拡大し世帯カバー率を80%以上に高めることを目指しています。

契約拡大に向け俳優の戸田恵梨香さんを起用したテレビCMの開始もアピールしていました。ですがNUROブランドの通信サービスは今や光だけでなく無線通信にも広がっており、その代表的なサービスとなるのが「NUROモバイル」です。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第113回

    ソニーネットワークコミュニケーションズの「NURO EXPERIENCE」には、新たに「NURO光」のCMに出演する戸田恵梨香さんも登場した

NUROモバイルはソニーネットワークコミュニケーションズがMVNOとなり、主としてコンシューマに向けて提供されているモバイル通信サービス。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3つの回線を選べる仕組みや、MVNOながら高品質の通信を実現するなど独自色の強いサービス展開で人気を高めています。

今回のイベントに合わせては番号ポータビリティ(MNP)で乗り換える際に予約番号の発行が不要になる「MNPワンストップ」を2024年6月に導入することを明らかにしています。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第113回

    MVNOとして展開している「NUROモバイル」では、新たに2024年6月からワンストップMNPへの対応が明らかにされた

同イベントでは他にも、主として企業に向けた無線通信サービスに関する取り組みもいくつかアピールされていました。その1つが、ソニーワイヤレスコミュニケーションズが提供している「NURO 5G」です。

NURO 5Gは同社が提供しているローカル5Gを活用した無線通信サービスの総称であり、すでに光ブロードバンドを敷設するのが難しい集合住宅に向け、ローカル5Gを光回線のラストワンマイルとして活用する「NURO Wireless 5G」の提供がなされています。

しかし、今回のイベントで重点を置いて説明がなされていたのは、ローカル5Gを活用した法人向けプラットフォーム「MOREVE」(モアビ)の取り組みに関してです。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第113回

    ローカル5Gの事業を手掛けるソニーワイヤレスコミュニケーションズは、集合住宅向けの「NURO Wireless 5G」に加え、新たに法人向けの「MOREVE」の提供を開始

モアビは2023年11月に提供を開始したばかりのサービスで、主としてイベントやスタジアムなど、エンタテインメント関連の事業者をターゲットにしたもの。

最近ではエンタテインメント関連のイベントにもネットワークが多く用いられていますが、有線のネットワークではケーブルによる移動の制約が発生してしまいイベントに支障を来してしまいますし、Wi-Fiでは電波干渉により安定した通信を実現できないという課題を抱えています。

そこで、無線で高い品質を求めるエンタテインメント関連事業者に対し、自営網で安定した通信環境を実現できるローカル5Gを用いたネットワークを提供するとうのが、モアビの主な狙いとなっているようです。

現在、モアビでは利用シーンに応じた2つのプランを提供しています。1つはイベント会場やスタジアムなどの施設管理者に向けて、ローカル5Gの基地局設置から回線サービスの提供までをワンストップで用意するプラン。

そしてもう1つは、そうした施設を利用するイベント主催者・出店者に対し、設置した基地局を用いてローカル5Gの通信サービスを提供するプランとなります。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第113回

    モアビはイベント会場の設備管理者に向けてローカル5Gのネットワークを構築するプランと、イベントを実施する企業らに向け、整備したネットワークによる通信サービスを提供するプランの2種類を用意している

モアビが現在提供しているのはネットワークのみですが、将来的にはソニーグループや他のパートナーと連携し、エンタテインメントやクリエイターをサポートするサービスなどを回線とセットで提供していくことも考えているとのこと。ローカル5Gで実現できるサービスを広げ、新しい価値創出を進めるのがNURO 5G全体での狙いとなるようです。

高速・長距離通信が可能なLPWA「ELTRES」

ちなみに今回のイベントでは、無線通信を用いた法人向けサービスとしてもう1つ、「ELTRES」(エルトレス)に関する取り組みのアピールもなされていました。こちらはソニーネットワークコミュニケーションズが提供する、ソニー独自のLPWA(Low Power Wide Area)通信規格によるIoT向けの通信サービスとなります。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第113回

    「ELTRES」は低速ながら、長距離通信が可能で高速環境下での通信にも強い、独自規格のLPWAを用いたIoT向け通信サービスだ

エルトレスは送信可能な通信量が1秒当たり128bitと非常に少量ながら、100km以上の距離で通信することが可能。なおかつ新幹線のトラッキングも可能であるなど高速通信に強く、GNSS(Global Navigation Satellite System、全地球広報衛星システム)に対応し位置情報の取得ができることなどが大きな特徴となっています。

そうした他の無線ネットワークにはない特性を生かし、エルトレスは見守りデバイスや災害対策、スマート農業などへの利活用が進められているとのこと。

具体的な事例の1つとして、AUTHENTIC JAPANの遭難対策サービス「COCOHELI GPS+/COCOHELI SUMMIT」や、マリンスポーツ向け捜索支援サービス「ココヘリマリン」のGPS情報送信用ネットワークとして採用されたことが明らかにされています。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第113回

    エルトレスは位置情報の取得にも対応していることから、AUTHENTIC JAPANはその特徴を生かして遭難対策サービス「COCOHELI GPS+/COCOHELI SUMMIT」への採用を発表。イベントでも同社の代表取締役である久我一総氏が対応デバイスを披露していた

そのエルトレスが現在、力を注いでいるのが物流関連事業へのネットワーク提供です。2024年には物流事業者の労働環境改善が進められることで、物流ネットワーク全体に大きな影響が及ぶ「2024年問題」が大きな社会課題となっていることから、物流事業者の労働環境改善に向けたソリューションなどにエルトレスの導入が進められているのだそうです。

こうしてみると、ソニーグループのビジネス向け無線通信事業は、ローカル5GやLPWAの活用により非常に強い独自性を打ち出すことで、ニッチを狙いながらも着実な市場開拓を進めている様子を見て取ることができます。

それだけに、携帯電話会社や通信機器ベンダーとは異なるソニーグループらしさを生かした取り組みで、従来にない無線通信のビジネス活用を推し進めてくれることに期待したい所です。