あなたは自分を「どんなことができるか」で判断します。しかし、他人はあなたを「実際に何をした人か」で判断するのです。

これはトルストイの格言である。そして、コンサルタントとして評価される際に忘れてはならない言葉でもある。

コンサルタントとは

コンサルタントとはどんな存在といえば適切だろうか?

コンサルタントはクライアント企業、特に経営トップに対して、付加価値を与えることができる存在である。経営トップに付加価値を与えられなければ、コンサルタントとは呼べないともいえる。

コンサルタントはクライアントの潜在的な課題を明らかにする作業からスタートする。

「自社の業務なんだから、自分たちが一番知っている。当然、課題も熟知している」というクライアントも多いことは筆者もよく知るところだ。こういったクライアントにはどう対応すればよいだろうか。自ら思考することを止め、「ああ、そうですか。では、その課題を教えてください」と受身に廻るのが正しい対応だろうか。

クライアントがいう課題は、充分に明確化されているのであろうか。多くの場合、ファクトファインディングや因果関係の把握が十分ではない。本当の課題は、往々にして別のところにある。現在は顕わになっていないが、将来問題となりそうな課題はないだろうか。決してクライアントのいう課題をドキュメントに落とし込むだけの作業に終始してはいけない。それは思考を停止することに繋がる。自らの脳に汗をかくこと - これはコンサルタントである限り基本の姿勢である。

次は、クライアントの潜在的なソリューションを形で表す作業が待っている。

漫然とした想いや漠然とした打ち手を持つクライアントに接した経験はないだろうか。そのようなクライアントほど「自分の認識こそ正しく、自分の考える打ち手が唯一のソリューションである」と自信を抱きがちだ。

ソリューションとは、論理と数字によって表現されるべきである。もちろん、クライアントが持つ打ち手は尊重すべきである。しかし、コンサルタントは大局観を持って現場に臨む必要がある。いわゆる"全体の中の部分"という視点だ。

「在庫削減を実現したい」というクライアントを想定してみよう。多くのクライアントは組織の中で持ち場が決まっており、その範囲内で物事を考える。生産管理部門の人間の場合、受注には柔軟に対応しながら手持ち在庫は削減したい、と考えるだろう。しかし、経営者トップに付加価値を提供するコンサルタントは、それでは不十分だろう。各業務部門の悩みとは別に、経営トップは物事をより広範囲に、異なった視点で捉えているからだ。 この場合、単に在庫管理として製品在庫や半製品/原材料の在庫の持ち方を考えるだけではなく、財務諸表としてのキャッシュフローやバランスシートにおいてどんな意味をなすのか、という発想を持つことが欠かせない。

SAPシステム導入プロジェクトとは

SAPシステム導入に携わるコンサルタントは、SE(システムエンジニア)と何が違うのだろうか?

このことを考えるためにもSAPシステム導入を考えてみたい。クライアント企業の視点においてインプリメンテーション(ITシステムの構築)フェーズだけがSAP導入プロジェクトではない。SAPシステムのインプリメンテーションフェーズの前にも、稼動した後にもそれぞれのフェーズがある事を認識しておくべきである(それだけSAP製品はクライアント企業においてインパクトがあるともいえるが、それはまたの機会に譲る)。

SAPシステムのインプリメンテーションフェーズは、

  • 要件を定義し、ツールとのFit&Gapを行う
  • パラメータ設定と必要に応じたAddOnプログラムを開発する
  • 構築したITシステムのテストを実施する
  • 本稼動前の移行準備とトレーニングをした後、新システムの稼動を迎える

という流れで進む。

クライアント企業は、数千万円から億単位のコストを投じてSAPシステムを導入する。しかし、SAP製品の導入ありきで進むケースはない。クライアントとしてまず解決したい課題があり、その解決策がSAPシステムである場合に、SAPシステムのインプリメンテーションフェーズが始まるのだ。もちろん、導入と運用のコストに見合う効果が得られるかを冷静に見極めているし、稼動後にいかにSAPシステムを成長させていくかも計画されている。

コンサルタントとして何をするか

冒頭にトルストイの格言を紹介し、あなたは"何をした人か"で評価される、と書いた。また、コンサルタントは"クライアント企業に付加価値を与える存在"と書いたが、これだけでは不十分だ。

"業務改革"であれ"課題解決"であれ、コンサルタント経験の積み重ねを証明する必要がある。"何かを成し遂げてきたコンサルタント"は、根拠をもった発言を行い、ブレることはない。クライアント企業に安心感と信頼感を持ってもらうコンサルタントとは、このようなコンサルタントをいうのであろう。

SAP認定コンサルタントは、SAP製品を通じてクライアント企業へ付加価値をもたらす。加えて、あなたはクライアント企業に何をしてきたのであろうか? また何をしてあげられるのであろうか?

執筆者紹介

泓秀昭(Fuchi Hideaki)

日立コンサルティング ディレクター。日本の大手情報機器製造・SI企業を経験後、SAPジャパンにて、プロジェクトマネージャーとして複数の大規模プロジェクトを手掛ける。コンサルティング部門の部長に就任後、主に製造業のお客様に対し、SAPジャパン主導によるプロジェクトを複数統括する。その後、日立コンサルティングに入社、現職に至る。