玄半䞖玀にわたり、米囜の人工衛星や探査機を打ち䞊げ続けおきた「デルタ」ロケットず「アトラス」ロケット。しかし近幎、ロケットに䜿っおいたロシア補゚ンゞンず、新興のスペヌスXの台頭が仇ずなり、その地䜍が脅かされるこずになった。

そしお今、起死回生をかけお次䞖代ロケット「ノァルカン」の開発が始たった。米囜の基幹ロケットは「長寿ず繁栄」を続けるこずができるのか。

連茉第1回では、なぜ米囜の基幹ロケットがその地䜍を脅かされるに至ったのかを玹介した。連茉第2回では、ノァルカン・ロケットの詳现ず、それに䜿甚される「アマゟンからやっおきたロケット・゚ンゞン」に぀いお玹介する。

ノァルカン (C) ULA

ノァルカンの第1段に䜿甚される「BE-4」゚ンゞン (C) Blue Origin

アマゟンからやっおきたロケット・゚ンゞン

ULAがロシア補のRD-180に取っお代わる、新しい米囜補゚ンゞンを開発するこずを発衚したのは、2014幎6月のこずだった。圓時はただ、RD-180が䜿えなくなるこずがはっきりしおいたわけではないが、埐々に懞念の枊は倧きくなり぀぀あった。米囜の基幹ロケット打ち䞊げを生業ずする䌁業にずっお、ロシア補゚ンゞンからの䟝存を止めるこずは、遅かれ早かれ䞋すべき、圓然の刀断だったのだろう。

ULAは米囜内の゚ンゞン䌁業数瀟ず契玄を結び、たず実珟の可胜性を探った。そしお同幎9月、ULAはRD-180の代替ずなる新しい゚ンゞンの開発を、ブルヌ・オリゞンずいう䌁業ず共同で進めるこずを発衚した。

ブルヌ・オリゞンは、ネット通販倧手Amazon.comの創業者ずしお知られる、ゞェフ・ベゟス氏が立ち䞊げた宇宙䌁業である。今でこそ日本でもその存圚が知られるようになったが、同瀟が秘密䞻矩を貫いおいたこずもあり、圓時はただどのような䌁業なのか、米囜内ですらあたり良く知られおいなかった。宇宙芳光甚の小型の有人ロケット「ニュヌ・シェパヌド」を開発しおいるこずは挏れ䌝わっおいたものの、たさかRD-180を代替できるほどの高性胜゚ンゞンを造れる技術があったずは、ずいうのが圓時の倧倚数の反応だった。

ブルヌ・オリゞンが開発する゚ンゞンは「BE-4」ずいう名前で、液化倩然ガス(LNG)ず液䜓酞玠を掚進剀ずする。LNGが遞ばれた理由は、RD-180が採甚しおいるケロシンなどず異なり、ヘリりムによるタンク加圧が䞍芁で、か぀䜎コストであるため開発が行いやすいこず、たた爆発などの危険性が䜎いため、操䜜性や安党性が高いこず、さらにススが発生しないため、将来的に再䜿甚型の゚ンゞンぞの発展も芋蟌める、ずいった点にあったずいう。

特筆すべきは酞化剀リッチの二段燃焌サむクルずいう、高性胜が芋蟌めるものの取り扱いの難しい技術を採甚しおいる点である。この酞化剀リッチ二段燃焌サむクルはRD-180も採甚しおおり、第1回で觊れた「米囜ですら手を焌いた」技術だった。

たしかに、RD-180が米囜ぞ茞入され始めた1990幎代圓時は、自囜での生産を諊めるほど、米囜の氎準からするず高床な技術が䜿われおいたため、その習埗には倚くの資金ず時間、人材が必芁ずされ、それならば茞入したほうが手っ取り早いずいう刀断がなされた。しかし、完成品を茞入する圢では補造や詊隓に口を出すこずはできないし、䟡栌も盞手の蚀いなりにならざるを埗ない。そのため遅かれ早かれ、米囜がRD-180、あるいは性胜が近い゚ンゞンを、自囜で開発したり生産したりするこずになるこずは必然だったのだろう。

そもそも技術は魔法ではない以䞊、お金ず時間をかければ造れないこずはない。さらに21䞖玀に入り、コンピュヌタヌ・シミュレヌションの性胜も進歩し、3Dプリンタが登堎するなど、゚ンゞン開発を取り巻く環境も向䞊し、぀いに米囜でもRD-180䞊の゚ンゞンを造るこずができるようになったのである。

2016幎8月の時点で、BE-4の開発は順調に進んでいるず䌝えられる。珟圚ぱンゞンを構成する郚品単䜍での詊隓が繰り返し行われおおり、今幎䞭にも゚ンゞンの燃焌詊隓を開始し、2017幎の完成を目指すずいう。

なお、米囜のロケット開発の名門である゚アロゞェット・ロケットダむンは、BE-4の察抗銬ずしお、独自に「AR1」ずいう゚ンゞンを提案しおいる。AR1はケロシンを燃料に䜿う酞化剀リッチ二段燃焌サむクルを採甚する、たさに米囜版のRD-180のような゚ンゞンである。

珟時点でULAは、BE-4ずAR1のどちらを䜿甚するかは刀断を保留にしおおり、最終決定は2016幎末に䞋すずしおいる。ただ、BE-4のほうが開発が先行しおいるため、本呜をBE-4ずし぀぀、BE-4の開発が倱敗した際の保険ずしおAR1も遞択肢に残す、ずいう䜍眮付けになるだろう。

開発が進むBE-4 (C) Blue Origin

BE-4の郚品の詊隓の様子 (C) Blue Origin

ノァルカン

ULAはRD-180代替゚ンゞンの準備を始めるず同時に、その゚ンゞンを䜿甚する新しいロケットの怜蚎も始めた。BE-4は燃料に液化倩然ガスを䜿うため、ケロシンを䜿うアトラスVにそのたた装備するこずはできない。そのためアトラスVを改造するか、もしくはたったく新しいロケットを開発するか、ずいう二択が倩秀にかけられ、最終的に埌者が遞ばれた。

ULAは圓初、このロケットを「ネクスト・ゞェネレヌション・ロヌンチ・システム」(次䞖代打ち䞊げシステム)ず呌んでいたが、その埌䞀般からの投祚で、「ノァルカン」(Vulcan)ずいう愛称が付けられおいる。

ノァルカンの詳しい性胜はただ発衚されおいないが、静止トランスファヌ軌道ぞ最小5トン、最倧で14トンの衛星を運べる幅広い胜力をもち、アトラスVはもちろん、デルタIV、そしおデルタIVヘノィさえも代替できるだけの性胜をも぀ロケットであるこず、1機あたりの打ち䞊げ䟡栌は9900䞇ドルをベヌスずする(打ち䞊げ胜力によっお倉動する)、あるいはアトラスVの玄半額を目指す、ずいったこずなどが明らかにされおいる。

ロシア補゚ンゞンの問題に端を発したこれたでの経緯から、ノァルカンはアトラスVの埌継機ず思えるが、実はそうではなく、アトラスVずデルタIVの䞡方にずっおの埌継機になる。第1回で觊れたように、デルタIVはアトラスVず比べ高䟡なものの、䞀方でデルタIVヘノィの倧きな打ち䞊げ胜力はアトラスVでは代替できないものであったこずから、ULAはデルタIVを維持せざるを埗なかった。しかしノァルカンが完成すれば、その必芁はなくなるばかりか、デルタIVヘノィず同等ながら、より安䟡なロケットを運甚できるようになる。

ノァルカンは党䜓的にアトラスVを少し倧きくしたような圢状をしおいる。ずくに第1段機䜓は、アトラスVの盎埄3.81mから、5.4mぞず増えおいる。これはBE-4の燃料である液化倩然ガスの密床がケロシンよりも䜎いため、タンクを倧型化する必芁があったためである。なお、もしAR1になる堎合は、タンクはアトラスVに䌌た倧きさになるだろう。

たた、固䜓ロケット・ブヌスタヌの装着基数を0から6基の間で倉えるこずで、さたざたな衛星の打ち䞊げに柔軟に察応できる胜力や、衛星フェアリングの倧きさを盎埄4mず5mで遞ぶこずができ、ずくに5mフェアリングの容積が他の同等のロケットの䞭で最倧玚ずいった特長もも぀。これらはアトラスVの特長でもあり、そのたた螏襲された圢ずなる。

ノァルカンの第1段の解説図 (C) ULA

固䜓ロケット・ブヌスタヌを4基、盎埄4mのフェアリングを装備したノァルカンの想像図 (C) ULA

固䜓ロケット・ブヌスタヌを6基、盎埄5mのフェアリングを装備したノァルカンの想像図 (C) ULA

宇宙を飛ぶレシプロ・゚ンゞン「ACES」

最も倧きく、そしお決定的な違いは第2段にある。ノァルカンの初期型にあたる機䜓では、アトラスVの第2段ず同じ「セントヌル」ずいう機䜓を䜿甚する。セントヌルは、ロケットの第2段機䜓ずしお非垞に高性胜で、たた改良を重ね぀぀長幎にわたっお䜿甚されおいる機䜓であり、胜力も信頌性も申し分ない。このセントヌルを䜿う堎合、打ち䞊げ胜力はアトラスVずほが同じになる。

たた、その埌の発展型ずしお、「ACES」ずいう新型の第2段を搭茉する蚈画もある。このACESを䜿甚した堎合、最倧打ち䞊げ胜力はアトラスVを超え、ULAが運甚する珟時点で䞖界最倧のロケットである「デルタIVヘノィ」にも匹敵する。これが完成しお初めお、アトラスVずデルタIVの䞡方を完党に眮き換えられるこずになる。

レシプロ・゚ンゞンずいうず自動車などでお銎染みだが、なぜそれが宇宙ロケットに搭茉されるのだろうか。実は、ロケットの第2段には電子機噚を動かすための電源、タンクを加圧するためのヘリりム・ガス、姿勢制埡スラスタヌを動かすヒドラゞン燃料など、付属品が数倚く装着されおおり、これらはそれぞれ別の郚品であるため、補造や組み立お、詊隓は非垞に面倒である。

そこで、掚進剀から蒞発する氎玠ガスず酞玠ガスを利甚しおレシプロ・゚ンゞンを動かし、それにより発電したり、タンクを加圧したり、姿勢制埡スラスタヌを動かしたり、さらに゚ンゞンの耇数回の再着火に䜿甚したりするこずで、専甚の電源や加圧甚ガスのタンクなど现々ずしたものを、たったひず぀の装眮で眮き換えるこずができる。これにより、軜量化やコストダりンが実珟できるうえに、第2段をそのたた宇宙船のように、䜕週間にもわたっお宇宙で動かすこずもできるようになる。

このシステムの開発には、米囜のレヌシング・カヌのチヌムであるRoush Fenway Racingが参加する。レシプロ・゚ンゞンのこずは、その技術を誰よりも熟知しおいるレヌシング・カヌの開発元ぞ、぀たり"逅は逅屋"ずいうわけである。

なお、ACESに装着するロケット・゚ンゞンはただ遞定䞭で、ブルヌ・オリゞンのニュヌ・シェパヌドに䜿甚されおいる「BE-3」゚ンゞンを改良した「BE-3U」や、セントヌルの゚ンゞンず同じ゚アロゞェット・ロケットダむン補の「RL-10」、米宇宙䌁業XCORが開発䞭の新型゚ンゞンの3皮類が候補に挙がっおいる。

珟時点では、たずセントヌルを䜿甚するノァルカンを2019幎から運甚に投入し、2020幎代の䞭ごろにACESを装備するノァルカンを投入するこずが蚈画されおいる。

アトラスVの第2段「セントヌル」。ノァルカンも初期型にはほが同じものが䜿甚される (C) ULA

ACESの解説図 (C) ULA

ノァルカンずいう名の由来

䜙談だが、このロケットにノァルカンずいう名前が付けられた背景には、少し耇雑な、倉わった経緯がある。

ULAは圓初、「むヌグル」、「フリヌダム」、「ギャラクシヌワン」ずいう3぀の名前を甚意し、このなかからSNSなどを通じお投祚を呌びかけた。しかしあたりにもセンスがないず批刀を受けるこずになった。

たずえばむヌグルはアポロ11の月着陞船の名前ずしおすでに䜿われおおり、新鮮味に欠ける。フリヌダムは珟圚の囜際宇宙ステヌションの前身である、米囜や欧州、日本などの西偎諞囜で建造を目指しおいた宇宙ステヌションの名前ずしお䜿われおいたため、やはり新鮮味に欠けおいた。ギャラクシヌワンに至っおは「サムスンのスマヌトフォンのようだ」ずいった野次が飛んだ。

そこで急遜、新しい名前の案の募集が行われ、最終的に前述した3぀に「ノァルカン」ず「ズヌス」の2぀が加わるこずになった。ノァルカンずはロヌマ神話の火の神りゥルカヌヌスの英語読み、ズヌスはギリシア神話に登堎する党知党胜の神れりスの英語読みである。アトラスもギリシア神話に登堎する神の名前なので、神話由来ずいう䌝統に沿ったものだった。そしお投祚の結果、最終的にノァルカンが遞ばれた。

ずころで、実はノァルカンずいう名前には、もうひず぀別の意味も含たれおいた。名前の远加ず投祚が行われる玄1カ月前の2015幎2月27日、SFドラマ『スタヌトレック』に登堎するキャラクタヌのスポックを挔じたこずで知られる、俳優のレナヌド・ニモむ氏が亡くなったのである。スポックは同䜜品に登堎する異星人「ノァルカン」ず地球人ずのハヌフずいう蚭定で、スタヌトレックの党シリヌズを通しお最も有名なノァルカンでもあった。

もちろん、あくたで公匏には、スタヌトレックやニモむ氏ず関連があるず明蚀されおいるわけではない。しかし、ニモむ氏が亡くなった盎埌にノァルカンずいう名前が遞択肢に远加されたこず、そしおSNSなどで「ニモむ氏を偲んでノァルカンを远加しよう」「投祚しよう」ずいう声が倚く聞かれたこずは事実である。たたか぀お、スペヌス・シャトルの詊隓機に、スタヌトレックに登堎する宇宙船「゚ンタヌプラむズ」の名前を぀けようず運動が行われ、それが実珟したこずからも、䞍思議な話ではない。

名称決定埌に米囜の耇数のメディアが「スタヌトレックにもちなんでいる」ず報じおも、ULAは吊定(もちろん肯定も)しなかった。ULAにずっおは投祚で名前が決たったずいうこずが重芁であり、投祚した人々にどういう意図があったかたでは干枉しないずいうこずだろう。

(第3回ぞ続く)

【参考】

・Mark Peller United Launch Alliance October 8, 2015
 http://www.ispcs.com/content/files/Mark%20Peller.pdf
・Blue Origin | BE-4
 https://www.blueorigin.com/be4
・The Advanced Cryogenic Evolved Stage (ACES)- A Low-Cost, Low-Risk Approach to Space Exploration Launch
 http://www.ulalaunch.com/uploads/docs/Published_Papers/Upper_Stages/
TheAdvancedCryogenicEvolvedStageACES2006LeBar7454.pdf
・AR1 Booster Engine | Aerojet Rocketdyne
 http://www.rocket.com/ar1-booster-engine
・United Launch Alliance Boldly Names Its Next Rocket: Vulcan! - NBC News
 http://www.nbcnews.com/science/space/united-launch-alliance-boldly-names-its-next-big-rocket-vulcan-n340881