2025年3月現在、第2次トランプ政権が発足し、対中政策として先端半導体分野における輸出規制の強化が注目されている。
トランプ政権は、米国の経済覇権と安全保障を確保するため、中国の技術進展を抑え込む姿勢を鮮明にしており、その一環として日本を含む同盟国に対して規制への同調を強く求めている。特に、日本は半導体製造装置や関連技術で世界的な地位を有しており、トランプ政権にとって重要なパートナーである。トランプ政権が日本に同調を呼び掛けた場合に、石破政権が「同調する」シナリオと「同調しない」シナリオを想定し、それぞれのケースで米国がどのような対応を取るかを探ってみたい。
石破政権がトランプ政権に同調する場合
まず、石破政権がトランプ政権の対中輸出規制に同調する場合、東京エレクトロンやニコンなどの半導体製造装置企業に対して、中国への輸出やメンテナンスサービスをさらに制限する措置を打診する可能性があろう。
これは、バイデン政権時代に米国がオランダのASMLと協調した規制をさらに拡大する形で、日本が米国の要求に全面的に応じることを意味する。
このシナリオでのトランプ政権の対応は、基本的には日本への信頼強化と報奨的な措置が考えられる。まず、日米同盟の結束が強調され、トランプ大統領は公の場で「日本は我々の最重要パートナーだ」と称賛するだろう。これにより、日米間の安全保障協力が一層深化し、在日米軍の役割や共同訓練の拡大が議題に上る可能性がある。また、経済面では、日本企業が米国市場で優遇される形で、半導体関連投資に対する税制優遇や補助金の提供が検討されるかもしれない。例えば、米国内での生産拠点構築を進める日本企業に対し、トランプ政権がインフラ支援を約束するディールが交渉される可能性がある。
しかし、こうした“ご褒美”には裏がある。トランプ政権の「アメリカ第一主義」は、同盟国にも経済的負担を求める傾向が強く、日本が規制に同調したとしても、さらなる譲歩を迫られるリスクは残る。例えば、対日輸出における関税引き下げや、日本の防衛費増額要求、米国製軍事品の追加購入などが加速する可能性がある。
石破政権がトランプ政権に同調しない場合
反対に、石破政権がトランプ政権の要請に同調せず、独自路線を模索するシナリオを想定する。
この場合、日本は中国との経済関係を維持しつつ、米国とのバランスを取ろうとするだろう。半導体製造装置の対中輸出を完全に制限せず、例えば「メンテナンスは認めるが新規輸出は控える」といった中間的な対応を取る可能性がある。これは、日本の経済界、特に中国への輸出依存度の高い企業からの反発や、中国との関係悪化を避けたい石破政権の現実的な判断を反映したものと言えよう。
しかし、このシナリオでのトランプ政権の対応は、厳しいものになろう。トランプ氏は同盟国に対しても容赦なく圧力をかけるスタイルで知られており、日本が同調を拒否すれば「裏切り」と見なすリスクがある。まず考えられるのは、経済報復だ。トランプ政権は日本製品に対する関税を引き上げる可能性があり、特に自動車産業が標的となるかもしれない。
トランプ氏は自動車関税を25%にするとも示唆しており、これを日本に適用すれば、現行2.5%の自動車関税が大幅に上昇し、日本企業の対米輸出に打撃を与える。また、半導体関連でも、日本企業が米国の先端技術や市場へのアクセスを制限される形で、例えばNVIDIAとの協業に障壁が生じる可能性がある。
さらに、安全保障面での圧力も強まるだろう。トランプ氏は「日本が協力しないなら、在日米軍の負担を再考する」と脅しをかけ、駐留経費の増額や一部撤退を示唆するかもしれない。これは、石破政権が防衛力強化を掲げる中で、米国依存からの脱却を迫られる皮肉な結果を招く。米国との軋轢は短期的には避けられない。
どちらのシナリオでも、トランプ政権の対応は「ディール重視」の姿勢を反映する。同調すれば報奨とさらなる要求が、非同調なら報復と孤立化が待っていよう。ただし、トランプ氏の予測不可能性を考慮すると、いずれの場合も突発的な政策変更や交渉の場での強硬姿勢が日本を翻弄する可能性がある。石破政権としては、経済的利益と安全保障のバランスを取る困難な判断が求められ、米国との交渉力を高めるため、欧州やASEANとの連携を強化する外交努力が不可欠となる。
結論として、トランプ政権の対中半導体規制への日本の対応は、日米関係の今後を大きく左右する。同調すれば同盟強化と負担増が、非同調なら経済報復と孤立リスクが日本を待ち受ける。石破政権がどちらを選択するにせよ、トランプ氏の「アメリカ第一」の下で、日本が主体的な立場を維持するには、緻密な戦略と柔軟な対応が求められるだろう。