10年ほど前から、私は米国の国内旅行でタクシーを使わなくなりました。代わりに自動車配車サービスのUberやLyftを利用しています。理由は単純で、これらのサービスの方が便利で快適だからです。配車サービスが普及する以前のタクシーは、長い待ち時間、汚い車内、不親切な運転手という三重苦でした。「テックトピア:米国のテクノロジー業界の舞台裏」の過去回はこちらを参照。
そのタクシーから市場を奪ったUberとLyftが今、ロボタクシーに市場を奪われつつあります。
ジワジワとシェアを伸ばすロボタクシーを提供するWaymo
サンフランシコ、ロサンゼルス、フェニックスなどで有料ライド(ロボタクシー)「Waymo One」を提供しているWaymoは昨年10月、週に10万件以上のライドを提供していることを公表しました。
Andreessen Horowitzのアレックス・イマーマン氏がXで共有したデータプロバイダYipitのデータによると、サンフランシスコのライドサービス市場において、WaymoはLyft(自動車配車2位)と肩を並べるまでに成長しています。
Waymoが2023年8月にロボタクシーサービスを開始した時点で、サンフランシスコにおけるUberとLyftのシェアはそれぞれ66%と34%でした。
15カ月後の2024年11月、WaymoとLyftが22%、そしてUberが55%となっています。UberとLyftはどちらも二桁台のシェアを失い、特にLyftは約3分の1ものシェアを失う結果となりました。
ロボタクシーは運転手の人件費が不要であるため、UberやLyftより料金を抑えることが可能です。また、運転手を必要としないため、需要に応じて十分な数の車両を路上に配置でき、利用者の待ち時間を短縮することができます。
しかし、現在のWaymo Oneは、Uberなどとほぼ同等の料金設定となっており、試験的なサービスで車両数が限られているため、UberやLyftよりも平均待ち時間が長くなっています。
料金はUberなどと同等だがシェアを伸ばしている理由は?
それでもシェアを急増させているのは、安全運転を徹底するロボタクシーの安全性、ドライバーレスの気軽さ、最新のEV車の快適な乗り心地などが評価され、将来のロボタクシーの普及に期待が寄せられているからでしょう。これは、私たちの予想よりも早くロボタクシーが普及し始める可能性を示しています。
これまでロボタクシーの試験走行やサービスは、「ドライバーのいないタクシー」という目新しさから話題を集めても、普及については懐疑的な見方が優勢でした。自動運転車の安全性に対する要求は非常に高く、住民の理解や法規制などクリアすべき課題が多いうえに、開発には巨額の投資が必要です。
実際、過去5年の間に撤退が相次ぎました。人身事故をきっかけに、2020年にUberが自律走行自動車の開発を中止。
2022年にFordが多額の投資をした自動運転ベンチャーのArgoを閉鎖させ、2023年にはGeneral Motors(GM)がロボタクシー事業「Cruise」のサービスを停止、最終的に撤退を決定しました。GMは収益化という観点から、Cruiseで培った技術を運転支援システムに活用する方針に転換しました。
一昨年から世界のEV(電気自動車)市場で需要が鈍化し、海外メーカーを中心にEV戦略の見直しが続く中で、ハイブリッド車の販売が伸びています。同様にロボタクシーについても、先行きの不透明さから、UberやLyftのような現行の配車サービスの時代が長く続くと予想されていました。
しかし、サンフランシスコにおけるWaymo Oneの急成長は、ロボタクシーへの消費者の旺盛な需要を示しています。Alphabet傘下のWaymoは長年の投資と研究開発により、高度な自動運転技術を確立しています。
その独走を許せば、いずれライド市場を奪われる可能性があります。自律走行車の自社開発から撤退したUberですが、Wall Street Journalによると、Waymoと提携してUberアプリからWaymoを配車できるようにする計画に取り組んでいるとのことです。また、Lyftも自動運転技術を開発するMay Mobilityと提携したサービスのテストを開始しました。
UberとWaymoが提供すれば従来の配車サービスにない体験を提供できる
UberやLyftがロボタクシーを受け入れることで、ロボタクシーにアグリゲーション理論が働きます。インターネット時代では、自社サービスに大量のユーザーをどのように呼び込み、囲い込むかがカギとなります。
検索エンジンやSNS、ECサイトなどの形で「アグリゲーター」がユーザーを“ひとまとめ”にし、そこで得られるデータやネットワーク効果をもとに、さらなる利用者増加とサービス拡充を促す“好循環”を生み出します。Google(検索)、Facebook(SNS)、Amazon(EC)、Netflix(動画配信)などがその例です。
タクシー業界を例にすると、従来は営業許可、車の所有権、配車と運行管理が一体化した垂直統合型のモデルでした。しかし、インターネット時代では都市での移動を必要とする消費者/ユーザーを直接、供給サイド(ライド市場の場合は独立したドライバー)につなげることが可能です。
現在、Uberはライド市場におけるアグリゲーターとしての地位を確立しています。Sensor Towerのデータによると、Uberのアプリのダウンロード数は週22万4000~26万2000件、2位のLyftは週15万7000〜17万9000件、これらに対してWaymo Oneは週3万~3万9000件となっています。
自律走行技術で先行者利益を持つWaymoと、ライド市場のアグリゲーターであるUberが提携することで、従来の配車サービスにない体験を提供できるようになります。それによって、さらに多くの消費者/ユーザーを獲得し、供給を充実させることでユーザー体験が向上するという好循環を生み出すことができます。
一度、アグリゲーション効果が発揮され始めると、市場に他社が容易に参入できない競争優位性が築かれます。そのため、The Informationは2025年の予測の1つとして、自動運転車の可能性の開拓に積極的なAmazonが、UberのライバルであるLyftを買収する可能性を指摘しています。
総じて、EV市場の伸び悩みや大手企業の撤退といった逆風が吹く中でも、Waymoをはじめとするロボタクシーはいち早く消費者の支持を獲得し、ライドシェアの新たな形を提示しています。
自動運転車が安定して走行できる気候や道路環境、充電施設などの制限から、ロボタクシーを展開できる都市はまだ限られますが、適した都市では移動に変革をもたらす存在になりそうです。
Waymoは海外への展開も開始し、日本でも2025年に配車アプリ大手のGOが日本交通とともに、自動運転に向けた実証実験を東京都内で始める予定です。