チーム・コミュニケーションを円滑にするビジネスのサポートツール「Slack(スラック)」。コロナ禍におけるリモートワーク文化が進んだことも相まり、近年は多くの企業が導入を始めている。では、Slackはどのように企業のコミュニケーションを円滑にしているのだろうか。今回は、ファッション・ライフスタイルメディアを扱う部門でSlackを導入した講談社の事例を紹介する。

編集部内に「刺さった」のは、ITベンチャーのような”イケてる感”だった?

講談社第2事業局でSlackを導入し始めたのはさかのぼること3年前。現在、講談社 VOCE事業部 部長の石井亜樹氏の提案により、2018年にSlackの局内導入が決まった。

実は、美容メディアの「VOCE」編集長を務めていた導入前年の時点で、石井氏はすでにSlackをVOCE編集部で利用していたという。まだ英語版しかリリースされていなかったSlackを、彼女は当時から「ビジネスツール」として魅力的に感じていた。機能はもちろんのこと、UXの分かりやすさや見た目の良さもポイントになっていたという。

Slackで始める新しいオフィス様式 第4回

講談社 VOCE事業部 部長の石井亜樹氏

「2017年の9月時点ですでに部署あてに『編集部にSlackを導入します』というメールを送っていました。元々、ホワイトボード上でのスケジュール管理や、電話・メールでの複雑なコミュニケーションをすごく面倒だと思っていました。LINEでもいいかなと思っていたところ、海外企業がSlackを導入している事例を知りました」(石井氏)

局内で最初に社内利用を始めたのはVOCE編集部に所属する20人ほどの社員。特集の企画ラインアップや、販売部からの売れ行き情報など、メールベースでやりとりしていた共有・報告業務がSlackへと移行した。

石井氏は部署内での自分への連絡をメールではなくSlackを優先し「Slackを使った方が仕事がスムーズに進む状況」をあえて作っていたという。編集部の平均年齢が若いこともあり、抵抗感もなくSlackが編集部内へと浸透していった。

「今でこそ当たり前になりましたが、たくさんの絵文字があることもその頃は面白く感じていて。ITベンチャーのような”イケてる感”は、編集部内でも受け入れられた重要なポイントだったのかなと思います。また、Slackでチャンネルを作っておけば、プロジェクトに後から加わった人も過去のポストにさかのぼれるので、見返すのが楽になります。Slack導入当初に、まずは草の根的な使い方ができて良いのでは、と思いました」(石井氏)

そして2018年10月頃、講談社の組織改変に伴い、石井氏は複数のデジタル媒体を横断したデジタル戦略部の部長に就任した。VOCE編集部内でSlackを活用していた事例もあり、彼女は女性メディアを扱う「第二事業局」全体でSlackを導入することを提案。

局が抱える「知見がタコツボ化し、他部署になかなか届かない」「局のコミュニケーション効率が悪く、部署間の交流が少なくて隣の部署が何をやっているのか、誰がいるのかも把握できない」といった問題を、Slackで解決できるのでは、と感じていた。

そして、自社のデジタルリテラシーを高めようとしていたフェーズだったことや、局長自身がSlackユーザーだったこともあり、Slack導入の案はスムーズに可決された。

「途中からSlackコネクト(社外のメンバーともチャンネルを共有してコミュニケーションできる機能)も使えるようになったので『これからビジネスに役立つシーンが生まれそう』とも感じていました。機能面やデータ容量の観点から有料プランを提案しました。『仕事がしやすくなるから』というライトな理由で導入が決まったものの、改めて出版社のような社風にはすごく馴染んでいると感じますね」(石井氏)

社員に徹底して伝えた「Slackはなるべくオープンチャンネルで」という方針

現在、同社では170人弱のメンバーが社内でSlackを利用している。

局員同士のやり取りのみならず、他局の営業セクションの人やエンジニアにメンバーに加わってもらったり、他局の編集者とSlackコネクトを使った情報交換チャンネルを作成したりするなど、使い方はどんどん広がっているという。

「Slackを見てないから知りませんでした、はNGとすることで毎日ログインしてもらえるようになりましたし、『オープンにコミュニケーションすること』が組織の風通しという意味でも、とても大切なことだと思うんです。進行中の極秘企画や人事異動に関してはプライベートチャンネルを使用していますが、基本的にはプライベートチャンネルが乱立しないように設定しています。オープンコミュニケーションを意識することがSlackを使う上で重要だと考えているからです。そうすることで情報が溜まり、何よりSlackを見返せば引き継ぎもスムーズですからね」(石井氏)

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社内研修などの時に共有される「Slackの使い方」。Slackを「局の公式な連絡手段」とし、就業日には毎日チェックすることなどを社員に伝える

また、それぞれの部署の特定メンバーが”Slack番長”として、ユーザーグループの管理や各部署メンバーの使用方法をサポート。自発的にマニュアルを作成するなどして、社員のフォローアップを行なっている。

日々の業務では、なくてはならない存在だが、オリジナルなチャンネルの使い方として、編集部で反響があったページや特集などを共有するチャンネル「♯売れました報告」などがある。

「これまでも反響のあった事例を共有する文化はあったのですが、メールに埋もれがちでした。ある部署がその報告をチャンネル化したのがきっかけで生まれた取り組みです。こうすることで、営業部が良いニュースをここから拾えるようになったため、結果として彼らとしても営業しやすい環境になったようです。そのほか、Googleアラートと連携し”炎上”というキーワードのつく記事を拾い上げ、RSS配信する『♯炎上ウォッチ』というチャンネルも役立っています。メディアである以上、ネットでの炎上には注意を払っておりまして、そういった特定の情報を拾い上げる使い方も便利です」(石井氏)

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「♯炎上ウォッチ」と名付けたチャンネルではGoogleアラート連携して炎上というキーワードで記事を拾い上げている

周りの部署の動向がオープン化されたことで、社内のコミュニティも変化した。Slackを通じ、他部署との新たな”横のつながり”が生まれたという。

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Webトピックス共有のチャンネル

「Webトピックスを共有するチャンネルでは、第二事業局だけではなく現代ビジネス編集部や文芸局、マンガなどさまざまな部署の編集者も参加しています。あまり関わりがなかったような他部署の人がトピックスをシェアしてくれたりもしていて。入ってくる情報は増えました」(石井氏)

メールでのやり取りでは、このスピード感は生まれなかった

ツールを導入して3年目を迎える現在、「これからはワークフロービルダーも使ってみたい」などと、今後の活用方法にも期待を膨らませる石井氏。まだまだ社内の使用方法にも「活用できる余地がある」と課題を述べる。

「直近で抱えている課題は、横串で10個以上のワークスペースに入っているような人が、情報をキャッチアップしにくくなっているところですね。どうしてもチェック漏れが起きてしまっているので、Slackコネクトを活用し、メインのワークスペースに情報が入ってくるような仕組みが浸透すればと思っています」(石井氏)

その一方で、Slackでのコミュニケーションを通し、社内での業務進行が「スピードアップした」ことを体感しているという。

「メールでやりとりしていたら、このスピード感は生まれなかったと思います。それはコミュニケーションが往復するテンポが早まったことだけではなく、部署をまたいだ交流が生まれたことも起因していると思います。今までは知らない部署の人に相談する機会なんてほとんどなかったのに、Slack上であればちょっとしたことでもすぐに質問できます。コミュニケーションにおける心理的な安心感が高まっているので、課題解決も早くなっていると思います。横の人に聞ける雰囲気が作りやすくなったからこそ、今後はコロナ禍が収束したタイミングで、オフラインでの情報交換会なども開催したいですね」(石井氏)