ディープラーニングの活用により、多様な業界におけるビジネスの成長を促進するベンチャー企業ABEJA。「イノベーションで世界を変える」ことをビジョンに掲げて事業を展開する同社では、AI(人工知能)時代を生き抜くために欠かせない能力として「リベラルアーツ」を重要視しており、仕事を通じてリベラルアーツが習得できる制度を整えている。

リベラルアーツとは古代ギリシャで誕生した人間を自由にする学問である。なぜ、AIの技術が発達していく時代においてリベラルアーツが重要なのだろうか。

本連載では、ABEJA代表取締役社長CEO兼CTOの岡田陽介氏と、ABEJAのブランディングを手がけるOVERKAST代表の大林寛氏の対談から、その答えを探っていく。

第1回では、両氏のリベラルアーツとの出会いから、AI時代におけるリベラルアーツとは何かについて詳しく伺った。

ABEJA代表取締役社長CEO兼CTOの岡田陽介氏(左)と、OVERKAST代表の大林 寛氏(右)

リベラルアーツとの出会い

――まずは岡田さんとリベラルアーツとの出会いを教えてください。

岡田:私がリベラルアーツと出会ったのは、17歳のときでした。きっかけは、京都造形芸術大学と東北芸術工科大学の創立者である徳山詳直先生(『藝術立国』(幻冬舎)の著者)との出会いです。

私が17歳のとき、東北芸術工科大学主催の全国高等学校デザイン選手権大会で優勝した際に、大会の主催者であった徳山先生に大学へ招いていただき、リベラルアーツの考え方をご教示いただきました。

徳山先生は、芸術は日本ひいては世界を救うということを主張されています。20世紀はテクノロジーの世紀だったと言えますが、原子爆弾が開発されるなど、テクノロジーの暴走という負の側面もありました。

これをどう防いでいくかという徳山氏の倫理観や哲学に非常に共感したんです。私は10歳からプログラミングを始めました。プログラムを書くことがとても得意だったので、ある程度のものであれば何でも作れてしまう。言い換えれば、悪質なこともできてしまうテクノロジーを持っていたんです。

そうした状況の中、徳山先生の考え方に触れたことで、テクノロジーにおける倫理や哲学の重要性に気づき、リベラルアーツを体得していこうと考えました。

――その後、どのようにしてリベラルアーツを学ばれたのでしょうか。

岡田:比較的時間に余裕がある大学時代に、アリストテレス『形而上学』の原版・英語版・日本語版を平行して読むなど、哲学の勉強をしました。

なぜ多言語で読んだかというと、日本語の感覚と英語の感覚がずれているためです。日本語訳では感覚がおかしいと感じた部分は、英語版で確認する。英語版でもずれていると感じた場合は、原版で辞書を引きながら読む、といった方法で読み進めていきました。

私はABEJAを立ち上げる前にシリコンバレーに滞在していたのですが、一番良かったと思うのは、シリコンバレーではリベラルアーツに詳しい人たちを尊敬してくれるカルチャーがあったことです。

教養の重要性を理解している経営者やエンジニアの方が多くいるため、コミュニケーションの道具として大学時代に得た哲学の知識を使うことで、彼らとの信頼関係が深まりましたね。

特に起業家や経営者は、何かしらの哲学を持っていないと、意思決定の基準というものが揺らいでしまうと思うんです。そういった、言葉ではなかなか説明しづらい感覚が、シリコンバレーでの経験によって見えてきたと感じています。

――大林さんとリベラルアーツの出会いについて教えてください。

大林:リベラルアーツということで意識したのはちょうど1年ほど前、ABEJAのリブランディングのお手伝いを始めたときです。

ABEJAのブランドアイデンティティを探るため、プロジェクトの担当者と話をしていくうちに、岡田さんの思想がそのコアにあるのがわかってきました。それで岡田さんへのヒアリングの時間を設けていただいたのですが、そのときに「リベラルアーツ」という言葉が出てきたんです。

これまであまりリベラルアーツという文脈では考えたことはなかったのですが、岡田さんの話を聞いていると、元々自分に素養があるものだと感じました。例えば、自社でデザインの思想を紹介する「ÉKRITS / エクリ」というWebメディアを運営しているのですが、この活動なんかはまさにリベラルアーツ的だと思ったんです。その後、ABEJA社内でリベラルアーツの勉強会を開催させていただいたりしながら、改めてリベラルアーツという文脈を考えることが増えました。