開発準備

いよいよ今回から実際にVRコンテンツの制作を始めていきます。

第1回で説明したようにさまざまなVR HMDが販売されており、コンテンツの作り方も多少異なる部分があります。本連載では代表的なVR HMDを順番に取り上げ、コンテンツの作り方を説明していく予定です。

まずはHTC Viveをターゲットにしたコンテンツ制作を始めます。Oculus Riftでも開発の流れは似ているので参考になるでしょう。

HTC Vive向けコンテンツ開発を始めるには次のような準備が必要です。

  • HTC Viveが動作するよう設定されたWindows PC
  • Unity(執筆時の利用バージョン 5.3.4)のインストール
  • Unity用プラグインのインストール

開発PCについて

VRコンテンツ制作に使用するPCは、対象VR HMDの動作環境を満たしているのがベストです。しかし、実際は、自分の制作するコンテンツのフレームレートが落ちない程度のスペックがあれば大丈夫です。

HTC Viveの設定に従い、Steam(米Valveが提供するゲームプラットフォーム)のインストール、初期設定などは済ませていることを前提にしています。Steamからアプリをダウンロードして遊べるようになっていれば問題ありません。

SteamVR Performance Testで見た筆者の開発用PCのスペック。中央に黄色の文字で「VR可能」と出ている

Unityについて

コンテンツの作り方はいろいろありますが、本連載では開発にUnityを利用します。

Unityとは、3DCGを使ったコンテンツの統合開発環境を含むゲームエンジンです。VRのみならず、PC用ゲーム向け、家庭用ゲーム機向け、スマホ向けのコンテンツも開発できます。ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンという日本法人が設立されており、日本でのユーザーや実績も多く、開発側としてはいざというときの安心感があります。

続いて、Unityのライセンスと価格について説明します。

2016年5月31日に開催された「Unite Europe 2016」にて2016年6月中旬から施行される新ライセンスが発表されました。その内容に基づいて説明します。

Unityには、有償の「Unity Pro」「Unity Plus」と、無料の「Unity Personal」という3種類のライセンスがあります(上の画像の「Unity Enterprise」は大規模組織向け)。現在の5.xバージョンにおいて、機能はあまり違いがなく、Personal版でもVRコンテンツは開発可能です。

ただし、契約条件が重要になります。

詳しくは、Unityのサポートページに書かれていますが、Unity使用者(コンテンツ提供者)の所属する団体の売上や資金の金額によってPersonal版およびPlus版には利用制限がありますのでご注意ください。

Plus版、Pro版のライセンスは、サブスクリプション購入となります。Plus版は1ユーザー当たり月額5,880円(年間一括払で月額4,200円)、Pro版は1ユーザー当たり月額15,000円となっています。

以上の情報を参考にして、必要に応じてPlus版やPro版のライセンスを購入して下さい。

Unityは、「Unityを入手する」ページからインストーラをダウンロードできますので、その指示に従いインストールして下さい。

Steam VRプラグインのサンプルを動かす

インストールが完了したら、試しにサンプルを動かしてみましょう。

まず、Unityで新規プロジェクトを作成します。

新規プロジェクトの画面

UnityにはAssetという追加コンテンツを実装する仕組みがあります。Assetには、モデルやモーションなどもあり、Asset Storeからダウンロードできます。3D CG用のモデルやモーションをゼロから制作するのは大変ですが、Asset Storeでお気に入りのモデル等を購入してゲームを作ることもが可能です。

Asset Storeには、HTC Viveとの連携を実現するための「SteamVR」というUnityプラグインが無料で配布されていますので、ダウンロードしておきましょう。

  1. “Window”メニューから”Asset Store”を選ぶとAsset Storeウィンドウが開きますので、その中でダウンロードします。

Asset Storeウィンドウ

  1. Steam VRを選んだらプロジェクト内に読み込むパーツを選ぶ画面になります。下図のように全てが選ばれている状態で”Import”ボタンを押します。

Steam VRに取り込むパーツは全選択

  1. “Project”ウィンドウで Assets/SteamVR/Scenes/内にある examples というシーンをダブルクリックして開きます。

これでSteamVRのサンプルシーンを開くことが出来ました。

カメラやオブジェクトなど全て準備できているので、Unityのプレイボタン(上部ツールバーの再生ボタン)を押すと再生され、HTC Viveで見られます。

ツールバーの再生ボタンで実行される

コントローラも表示されていて、操作に反応することも確認できます。

なお、筆者の環境では、再生をしばらく止めたりしていると、UnityとViveの接続が切れてうまく動かなくなることがありました。この場合、Unityを一度閉じて開いたり、別のシーンを作成して切り替えてみたりすると解決することがあります。お試し下さい。

次回は、オリジナルのシーンを作っていきましょう。

事例紹介

コロプラの子会社が、360channelという360度動画(全天周動画)専門の配信Webサービスをはじめました。

バラエティー番組をはじめ、さまざまなコンテンツがありますが、「ANA 機体工場見学」は実写にCGを重ねた説明が見られるなど、未来の社会科見学のような動画です。

また、話している人と説明される箇所が違う方向にあったりして、自分が興味あるところをじっくり見られるのは、実際の見学よりも良さそうです。このコンテンツを説明VR動画のフォーマットとして考え、いろいろと発展させるのも面白いでしょう。

同サービスは通常のPC画面にも対応していますが、是非ハコスコやVR HMDで見るのをお勧めします。一番の違いは、画面(カメラ)をパンするスピードです。視界を変更するうえで、顔の向きを変えるのと、マウスでドラッグするのとでは、前者のほうが断然見やすいからです。

360channelは、まだ掲載動画数は多くありませんが、見せ方も含む編集方法に関して、試行錯誤・チャレンジしているように感じるものがあります。VRコンテンツを作る方にとっては、とても参考になるはずです。

著者紹介


山田宏道 (YAMADA Hiromichi) - 株式会社トルクス 代表取締役

千葉大学工学部卒業。ゲームプログラマーを経て、2005年よりフリーランス。2012年 株式会社トルクスを設立し、コンシューマー向け、ビジネス向けを問わず、さまざまなアプリを受託開発している。

現在、VR関連技術に注力中。2016年4月より島根県奥出雲町に在住。