米Microsoftが2月7日にOpenAIの最新の大規模言語モデルを用いて刷新した「新しいBing」のプレビュー提供を開始し、それから1カ月でプレビュー参加者が100万人を超えた。同社によると、その時点で参加者の約3分の1がBingを初めて使うユーザーであり、Bingのデイリーアクティブユーザーが1億人のマイルストーンに達した。その後も、「新しいBing」とChatGPTは話題を集め続けている。
米報道によると、Microsoftが検索広告市場でシェアを1ポイント上げるごとに、同社の広告事業に20億ドルの収益機会が生まれるという。では、これまでにBingはGoogle検索との差をどれぐらい縮めることができたのだろうか?
驚くべきことに、その差は縮小するどころか、逆に広がっているのだ。
Statcounterによると、世界の検索エンジン(デスクトップ)市場におけるBingのシェアは昨年10月の9.92%をピークに下落が続いており、2023年4月はGoogle(86.84%)、Bing(7.05%)だった(Statcounter)。ちなみにスマートフォンやタブレットを含む全プラットフォームだとBingの状況はさらに厳しく、4月時点のシェアはGoogleが92.82%、Bingはわずか2.76%である。
2月以降、Micorsoftが対話型AI検索でGoogleに挑む新たなライバル関係に焦点を当てたニュースが続いているが、この時期に起こったのはビッグテックの業績の回復であり、Googleも検索の利用を増やしている。
然らば、話題性と異なり対話型AIは活用されていないのだろうか?それは必ずしもそうとは言えない。OpenAIの「ChatGPT」は好調で、Similarwebのデータによると、公開からわずか数カ月で月間アクセス数がBingを超え、その差を広げ続けている。
対話型AIに興味を持ち、すでにそれを活用しているアーリーアダプター達は、Web検索の代わりというより、文書作成の支援やコーディングの支援、アイデア出しといった"生成"に対話型AIの可能性を見出しているようだ。確かにBingでは、Web検索、画像・動画検索、ショッピング検索、マップなど一緒にチャットボットを利用する便利さはある。
だが、「新しいBing」のチャット機能はMicrosoft Edgeでしか利用できないのが現状だ。Googleも生成AIをとり入れた検索の実験的なサービスの限定的な一般公開を米国で開始したが、それもデスクトップブラウザがChromeに限られている。プラットフォームに統合して対話型AIのメリットをより引き出すという考え方も理解できるが、ChatGPTで純粋に対話型AIの可能性を追求するだけで十分なアーリーアダプターにとって、現状はあまりにもプラットフォームの縄張り争いが過ぎるように感じられる。
-
大規模な言語モデルは大量のテキストデータを事前学習する必要があるため、ChatGPTには新しい情報に対応できないという弱点があったが、5月に同サービスでも「新しいBing」と同様にWeb検索を組み合わせた最新の情報の利用が解禁された。Microsoftとしては、「新しいBing」の優遇期間にもっと勢いをつけたかったのではないかと思われる
そんな中、検索エンジンと対話型AI検索の今後に関してFirefoxの対応が注目を集め始めている。今年Firefoxのデフォルト検索エンジンのGoogleとの契約が更新を迎え、Microsoftがその座を狙っているとの報道がある。
検索パートナー契約はMozillaの収益の大部分を占めているため、ネットユーザーが最も利用する検索サービスを選択するのがMozillaにとって得策である。しかし、Mozillaはブラウザ市場でInternet Explorerが独占的な存在だった2004年にGoogleと検索パートナーシップ契約を結び、ChromeとGoogle検索が影響力を強めてきた2014年にGoogleとの検索に関するグローバル規模の提携契約を終了した。
このように、国・地域で最適な検索サービスプロバイダーの採用を進める戦略に転換するなど、MozillaはWebのバランスと市場の多様性を維持する柔軟な戦略を展開し、競争を促進してきた。そのため、このタイミングでBingを選ぶ可能性が取り沙汰され始めている。
シリコンバレーの業界誌The InformationがMozillaのスティーブ・テイシェイラ氏(Steve Teixeira:最高プロダクト責任者)にインタビューした最新レポートによると、Mozillaはブラウザの新たなステージに進み始めているようだ。NCSA Mosaicが登場してからWebブラウザはHTML、CSS、JavaScriptを忠実にレンダリングするツールとして機能してきた。テイシェイラ氏は「私達がこれからのFirefoxで実現したいのは、人々が見ているものについて判断するための情報を得る機会を増やすことです」と述べ、具体的な例としてチャットボットに特定の製品のカスタマーレビューを要約させたり、色に関する追加の質問をすることを挙げた。
Mozillaはブラウザを単なるWebページの表示ツールから、よりユーザー中心の情報提供ツールへと進化させようとしており、対話型AIへの対応が不可避と見ている。ただし、現時点では、対話型AI機能と従来の検索は別々のものと位置付けており、それぞれが人々の異なる問題を解決すると考えている。
例えば、特定のピザレストランを探している人にはキーワード検索の方が便利だろう。一方、レストランの選択肢を絞り込むのに助けが必要な人は、会話型のチャットボットを利用することが考えられる。これら2つの機能の境界線が時間とともに曖昧になる可能性を認めつつ、テイシェイラ氏は「メインストリームの人々は検索エンジンで結果ページから多くの結果を得ることに本当に慣れていて、そうした人達の行動を変えるには時間がかかるでしょう」と述べている。
MicrosoftはBingのチャット機能がFirefoxにとって「素晴らしい選択肢になる」とアピールしているが、Mozillaは検索パートナー選びからチャットボットを切り離して考えそうだ。「1つの問題に対してはこのパートナーを利用し、別の種類の問題は他のパートナーを推奨する方が良いと思います」とテイシェイラ氏は述べている。ブラウザの進化はユーザーのニーズに応じて進むべきであり、チャットボットはユーザーのWeb体験に深く影響を及ぼすため、検索サービス以上にユーザーセントリックなアプローチが重要になる。「われわれは1つのパートナーを選ぶ必要はありません」と、柔軟な選択を提供できるFirefoxの強みを強調している。