「第836回 マインクラフトやフォートナイトより遊ばれているゲーム」で紹介した小中学生向けゲーミングプラットフォーム「Roblox」。今年3月にニューヨーク証券取引所(NYSE)への直接上場を成功させ、5月10日に上場後初の決算(2021年1〜3月)を発表した。売上高は前年同期比140%増の3億8700万ドル。1日あたりアクティブユーザー(DAU)は同79%増の4210万人。好調な決算の説明会で、CEOのデビッド・バズッキ氏は何度も「メタバース」という言葉を使っていた。Robloxのようなゲームがメタバースをアピールすると、2000年代後半の「Second Life」を思い出す人が多いと思う。話題性という点で大いに盛り上がったものの、何も起こせずに忘れられていった仮想世界だ。Second Lifeの二の舞になるのではないかという不安がよぎるが、Robloxは自身を「メタバースの羊飼い」と表現している。福音書10章11節に出てくるような"よい羊飼い"(羊のために命を捨てる)であり、これから社会を変えていく子供達のエンゲージメント(熱心な利用)が数字に現れていることがRobloxの強みであるとしている。
Minecraft同様、Robloxに対しても「何が面白いのかわからない」という保護者が多い。キャラクターは適当に模倣したLEGOフィギュアみたいだし、ゲームのグラフィックもリアルから程遠い。でも、子供にはそれで十分なのだ。子供は複雑すぎたり、難しいゲームにはついていけないから、アイディアが面白くてシンプルに楽しめるゲームに熱中する。そこにRobloxヒットのポイントがある。
Robloxの肝は、基本無料でゲームを遊べ、Roblox Studioというゲーム開発ツールが用意されていて自らゲームを作れること。Robloxで遊べるゲームはユーザーが作成したものである。ゲームを求めるプレイヤーがいて、シンプルなゲームで十分だからゲーム作りのハードルは比較的低い。そしてゲームからマネタイズする仕組みがある。プレイヤーからゲーム作りに挑戦するユーザーも多く、コンテンツ作成とコンテンツ消費のプラス循環で成長していることから「ゲーム版のYouTube」と呼ばれることも多い。
Robloxユーザーの7割近くが17歳以下であり、13歳以下の層が最も大きい。2021年4月の利用時間は32億時間(前年同月比18%増)。1人あたり約2.5時間/日である。主におこづかいしか収入のない小中学生ばかりがユーザーで、4億ドル近い売上高というのは、親の財布のひもをゆるませるぐらい子供が熱心に遊んでいるということだ。エンゲージメントが高い。
Robloxの言う「メタバース」は、多人数が参加して自由に行動できる3次元(3D)的な仮想世界を指す。そうしたメタバースを広く一般に知らしめたのが2003年に登場したSecond Lifeだった。3Dの仮想世界での交流を目的に 仮想通貨による物品や土地などの売買を可能にし、娯楽、教育、小売りや他のビジネス、広告など、現実世界と同様の展開が期待された。しかし、仮想世界にユーザーを居続けさせるような体験を生み出せず、仮想世界に興味を持って入った人も広告だらけの世界に飽きてすぐに脱落。閑散とした世界になってしまった。
そんなメタバースが、2010年代中頃以降のオンライン3Dゲームの成長で再び大きな脚光を浴びるようになる。しかも、今回は成功の芽が出始めている。例えば、バトルロイヤルゲーム「Fortnite」で行われたMarshmelloやトラビス・スコットの仮想空間ライブにたくさんのFortniteプレイヤーが集まり、2020年の米大統領選ではジョー・バイデン氏の選挙キャンペーン事務所が「あつまれ どうぶつの森」の中に「バイデンHQ(選挙本部)」という島を設けたことが大きな話題になった。
Second Lifeが流行した頃との違いは、PCやゲーム機、ブロードバンド環境が向上し、ハイスペックなPCを用意することなく、簡単に仮想世界で行動できるようになったこと。そして人々が積極的に仮想世界にログインし、長い時間を過ごすようになったことだ。「Fortnite」や「あつまれ どうぶつの森」はそれ自体が面白いゲームであり、ゲームのためにユーザーはログインする。そしてゲームプレイで長い時間を過ごしているゲーマーに、バーチャルコンサートのような新たな可能性を提供できている。Second Lifeの場合、広大な仮想空間があっただけで、ユーザーに再びログインしたいと思わせる体験が伴わなかったから、ログインする人が減っていった。
ただし、見方を変えると、Fortniteなどのメタバースはゲームのルールに支配される世界であり、「ユーザーが世界を作る」といったWeb的な要素に欠ける。一方で、FacebookやGoogleといったWeb企業もメタバースの将来性を見据えて、VR(仮想現実)やクラウドに投資を行ってる。だが、3Dが当たり前のゲームと違って、Webの世界はテキストから画像、そして音声と動画へと時間をかけて変化しており、3Dアバターでコミュニケーションするような世界の普及にはまだ少し時間がかかりそうだ。
Robloxは人気ゲームであり、そしてRobloxではユーザーがゲームを作る。YouTubeが放送局になろうとしていないのと同じように、Robloxもメタバースではなくユーザー生成コンテンツ (UGC)にフォーカスし、「ユーザーによってメタバースが作られていく」とバズッキ氏は指摘する。だから、「メタバースの羊飼い」だ。
現在のRobloxのメインユーザー層(9〜12歳)が成長していくのを見据えて、今後はより高度なゲームの開発のサポートに力を入れていく。13歳以上の割合の増加に備え、ゲーム内で交わされるヘイトスピーチへの監視強化などティーンエイジャー向けの対策も整える。今のRobloxerが高校生や大学生になり、アルバイトや仕事を始め、親の管理を離れて自分の判断でお金を使うユーザーが増えるのに合わせて、サブスクリプションサービスの拡充も図る計画だ。ユーザーがユーザーの求めるコンテンツを作るRobloxではゲーム以外のコンテンツやサービスでもユーザーを惹きつける体験を提供できる可能性が高い。将来的にソーシャルサービス、EdTech、VRなどに拡大できると期待している。
13歳以下の圧倒的な支持はRobloxの強みだが、同プラットフォームがこのまま成長し続けられるかというと、決算発表後にRoblox株は急騰したものの、その2日後に急落した。Ubisoftが決算説明会で今後ハイエンドな無料プレイゲームを強化していく計画を示したためだ。高品質なAAAタイトルをリリースしてきたゲームスタジオも無料プレイを重視し始めている。FortniteやApex Legendsの大ヒットの影響が大きいが、それだけではない。将来的にゲームにとどまらない仮想世界での交流を支える基盤に育つ可能性があるから、子供達のログインと時間を奪い合う競争が激化している。