アウトドアウェアのPatagoniaが、法人・団体向け販売で商品に企業ロゴを付けるサービスを廃止する計画を発表した。「"ミッドタウンのユニフォーム"の消滅」「R.I.P.(安らかに眠れ)金融ブラザーズのユニフォーム」と、多くの人に惜しまれている。

なぜPatagonia製品がミッドタウンやウォール街のユニフォームと呼ばれているのかというと、ドラマ「シリコンバレー(Silicon Valley)」である。ITベンチャー企業パイド・パイパーの経営企画、経理、広報を切り盛りする人気キャラクター、ジャレッド・ダン(Zach Woods)のファッションから金融やマーケティングの世界の人達の間で火が付いた。企業イベントのグッズや勤続の記念品として、当たり前のように会社のロゴ入りフリースが提供されるようになり、ニューヨークのウォール街やミッドタウンでランチ時にフリースベストを着込んだ金融マンや広告マンが行き交うようになった。あまりの流行りっぷりに、そんなファッションに身を包むスノッブな人達のライフスタイルを風刺したInstagramアカウント「Midtown Uniform」(フォロワー数17万人)が人気になり、たくさんのインターネット・ミームも生まれ、「ミッドタウン・ユニフォーム」という言葉が定着した。もちろん、会社のロゴが入っていなくてもPatagoniaのフリースベストを着続ける金融マンもいるだろうが、Patagoniaが企業のロゴ入れを止めることで、ミッドタウン・ユニフォーム現象はおそらく終了になる。

  • 法人・団体向け販売では、Patagonia製品の利用方法を明らかにし、環境対策についてPatagoniaの理念に同意することを求めている。

    法人・団体向け販売では、Patagonia製品の利用方法を明らかにし、環境対策についてPatagoniaの理念に同意することを求めている。

とはいえ、これは突然の廃止ではなく、2年前から予定されていた廃止だった。Patagoniaは2019年に、ムダな廃棄衣服を減らすために、金融サービスからの新規企業顧客の受け入れを停止。そして法人・団体向け販売は、環境に関してPatagoniaと価値観を共有できる企業・団体に制限した。そして今回の企業ロゴの廃止である。

Patagoniaは、企業ロゴを付けた衣服が長く着続けてもらえない傾向を指摘している。必ずしも企業のロゴが入った衣服を着る社員ばかりではなく、もらっても着ないまま忘れ去られるかもしれない。最悪の場合、ゴミ箱直行だ。また、着ていた人も転職したら着なくなる。企業ロゴが付いている衣服は古着として再販したり、寄付や交換でも扱いにくい。Patagoniaによると、2018年だけで1130万トンものテキスタイルが埋め立てられた。企業ロゴが付いた衣服を減らすことは、その削減につながる。

今でこそ、環境負荷低減に取り組む企業が増えているが、Patagoniaはその先駆者的な存在であり、非常に高い水準を課し、困難な問題の解決に取り組んでいる。企業ロゴの廃止もその1つだ。衣料品メーカーとしては、頻繁に買い換えてくれた方が売り上げは上がる。だが、環境へのインパクトという点では、より長く使用し続けるのが望ましい。「1着のウェアをさらに2年以上使用し続けることで、全体の環境フットプリントを82%削減できます。私達は何十年も使っていただけるようにギアを作っています」としている。

  • より長く使い続けてもらえるように、スマートフォンやPCの分解レポートでも知られるiFixitとPatagoniaは提携し、メンテナンスや修理をサポートするガイドを提供している。

Patagoniaは(ユニークな)企業哲学を持った企業である。例えば、米大統領選が行われた昨年秋、「Road to Regenerative Stand Up Shorts」(再生への道へ立ち上がれショーツ)というハーフパンツを限定提供。上質な商品のタグの裏側に「Vote the Axxholes out」(投票してくそったれを追い出せ)という、気候変動対策などに消極的だった彼に合わせた下品なメッセージを印刷して販売した。

昨年末、アウトドアブランドのThe North Faceが、原油・ガス採掘技術のInnovex Downhole Solutionsからの社員向けクリスマスプレゼントの発注を、「化石燃料企業のロゴを入れたくない」という理由で断った。それが石油産業 VS The North Faceの対立に発展。最初はThe North Faceが優勢だったものの、同社が原油由来の素材を使い、製造や流通に大量の石油やガスを消費しているという指摘から風向きが変化した。

The North Faceはこれまでアウトドアブランドとしては気候変動問題への取り組みに消極的で、突然の企業ロゴ拒否はとってつけた対応という感じが否めない。それに比べると、Patagoniaには企業の社会的責任として環境対策に取り組んできた長い歴史があり、バリューチェーン全体を通して環境フットプリントを削減するという取り組みの中に、企業ロゴ拒否を落とし込めている。フリースやライトダウンといったPatagoniaの人気商品にはたくさんの似た商品が存在する。だが、スタイルやデザインを真似するだけでは提供できない価値をPatagoniaの商品は備えている。