ストレージの割り当ては10MB、無料で使えるWebサイトホスティングサービス「NeoCities」。同サービスのホームページには「HTML、画像、テキスト、CSS、マークダウン、そしてJavaScriptを使えます。それで全部」と書かれている。あなたは、このサービスを使ってみたいと思うだろうか?

NeoCitiesは、ソフトウエアエンジニアであるKyle Drake氏が個人で始めたプロジェクトだ。サービス提供を開始する数週間前に、同氏はTwitterに以下のようにツイートした。

「GeoCitiesの代わりになるものを作りたい。無料のWebホスティング、スタティック(静的)なHTMLのみ、制限は10MB、匿名OK、無検閲」

GeoCitiesは、1995年に米国で始まったWebページホスティングサービスだ。個人がWebで情報を発信するのを広めた先駆け的な存在だったが、ブログやSNSの台頭でユーザーが減少した。今でも日本国内ではYahoo! JAPANが日本版を提供し続けているが、米国ではGeoCitiesを買収したYahoo!が2009年4月にサービスを終了させた。

7月2日時点でNeoCitiesのホームページには「51523サイト分のスペースが残っています。それ以上のWebサイトをホストするには、サーバを追加するためにあなたの支援が必要です」と書かれている。個人の資金を超える分については、寄付頼みになる模様。ちなみに200万のNeoCitiesサイトを1カ月ホストする経費は150ドル。200万以上のNeoCitiesサイトをホストするのに十分なサーバを購入するには1900ドルが必要だという。

だからといって、急いでNeoCitiesを契約する必要はない。今どき容量10MBのWebサイトホスティングに興味を持つ人は少ないようで、サービス開始から2週間近くが経った今も新規ユーザーの受付が続いている。

では、NeoCitiesの何に興味を引かれているのかというと、GeoCitiesが成長していた古き良き時代を懐かしむサービスではないという点だ。

「もう一度Webを面白くする」……これがDrake氏がNeoCitiesを始めたときの宣言である。Yahoo!に買収される以前、GeoCitiesのユーザーは誰もが表現者だった。HTMLの表現が限られていたので、今見るとGeoCitiesサイトは稚拙な見た目のものばかりだが、個々のユーザーがタグを学び、まっさらなキャンバスに表現したようなWebページには内容を含めて個性が色濃くあらわれた。だからGeoCitiesがなくなった時、サービス終了よりも、ユーザーが作成した約3900万のページをYahoo!が削除したことに批判や失望の声が上がった。今日のテンプレートを選んで、文章を入力するだけのWebページ作成は見映えはするものの画一的。誰でも簡単に情報を発信できるというメリットはあるものの、普通の人が一からWebページを作り上げる面白さが失われているというわけだ。

今どき10MBで何ができのか。そう思う人は多いだろう。高画質な写真数枚で使い切ってしまうような容量である。でも、今はHTML5の時代だ。昔と同じ10MBという制限の中で豊かな表現が可能である。例えば、「My Little Pony: Friendship is Magic」のエピソード情報をまとめたMy Little PonyというNeoCitiesサイトは、ページをインタラクティブに操作できて、読んで楽しく、そして情報の密度が濃い。CSSの知識がなくても見た目に整ったNeoCitiesページを作成するための情報ページを提供しているNeoCitiesユーザーもいる。ツールも豊富になった。HTML5時代だからこそ、GeoCitiesと同様の制限の中で普通の人たちが再びHTMLでの表現に挑むことに価値がある (NeoCitiesは近々制限を20MBに拡大する予定)。

「それほど多くの収入を得てはいないので、サーバの費用を負担するのはタイヘンだけど、NeoCitiesは必要であり、その価値がある。それはWebの必要性と価値とも言い換えられる。Webが消費に偏った現状を打破するためには、このようなクリエイティブなスペースが必要である」(Drake氏)

手軽に情報やファイルを共有できる世代にとってGeoCitiesのようなサービスは"古く"て"非効率的"なものではなく、新鮮なモノ作りの場に映るのかもしれない。GeoCities世代の1人としては、"GeoCitiesのようなサービス"を個人が立ち上げられるとはスゴい時代になったものだと思う。