特許を活かして何かを生み出すのではなく、特許を盾に訴訟を起こすなどして和解金やライセンス料を徴収しようとするパテント・トロール。特許マフィア、特許ゴロ、特許寄生虫などと呼ばれるような存在である。その危機がポッドキャストにも及ぼうとしている。

今年2月にPersonal Audioという会社が同社が特許を保有する技術を使用してポッドキャスト放送を提供しているとしてAdam Carolla ShowやHowStuffWorksといったポッドキャスターに特許使用料の支払いと求める書簡を送付、5月にはCBSとNBCにも送りつけた。人気ポッドキャスターや大手メディアが応じれば、他のポッドキャスターも従わざるを得ない。善意でコンテンツを提供しているポッドキャスターも多いだけにライセンス料支払いが負担になれば、ポッドキャスト市場の縮小に直結する可能性がある。

「ポッドキャストを救え」- 10時間で目標額到達

こうしたPersonal Audioの要求に対して、デジタル分野で消費者のための活動を行っている米国の非営利組織Electronic Frontier Foundation (EFF)が「Save Podcasting」という寄付集めを5月30日に開始した。

EFFはPersonal Audioが主張する特許は範囲が広く曖昧であると指摘。「(Personal Audioは)何かを作り出すのをあきらめ、パテント訴訟のみを目的とする抜け殻会社になった」(Daniel Nazer氏)と、現在のPersonal Audioを典型的なパテント・トロールと見なしている。

Save Podcastingのバナー

寄付集めの目標額は30,000ドル。寄付の受け付けが始まると、たくさんの著名なブロガーが支援を表明したことが追い風となって、10時間とかからずに目標額に到達、4日時点で65,000ドルを超す額が集まっている。

EFFはハーバード大学のCyberlaw Clinicとともに、Personal Audioの特許を無効にする策を模索している。現時点では特許権者以外の者が特許の取消を求める"Inter partes review"を活用する可能性が最も高く、その費用に約25,000ドル、その他の費用に約5000ドルというのが内訳だ。

同時にEFFは1996年10月2日より前に公表された、初期のポッドキャスティングを表現するようなアイディアもしくはインターネットを通じてエピソードを配信するようなアイディア(=Prior Art)も募集している。

比較的小規模の特許発明者の発明が適切に保護されることで革新が促され、新たな市場が成長するというのがパテント・トロール側の言い分である。しかし、それを建て前に特許制度を乱用されたら、技術を人々のために役立てようとする個人や起業家の努力がつぶされることになりかねない。Save Podcastingの目標額が示すように、パテント・トロール対策は初期費用だけでも個人や小規模スタートアップには負担が大きいものだ。

米国では、特許制度を乱用するパテント・トロール対策に政府が本腰を据え始めた。

5月にバーモント州で米国初の反パテント・トロール法が成立。6月4日にはホワイトハウスがパテント・トロールの抑制を目的とした7つの立法勧告と5つの大統領策を発表したニュースを読んだ方も多いと思う。大統領の権限に基づいた大統領策が盛り込まれたところに、自身の任期中にパテント・トロール問題を解決に導こうとするオバマ大統領の意気込みが表れている。大統領は2011年にも、米国の特許制度を60年ぶりに見直す法律を成立させている。米国の特許制度改革は急ピッチで進んでいる。しかしながら、それらの効果が現れてくるにはまだしばらくかかる。その前にパテント・トロールが最後の猛威をふるう恐れがある。その1つが今回のPersonal Audioのケースだ。

ポッドキャストの可能性を守るのがSave Podcastingの目的ではあるが、効果は資金集めにとどまらない。社会やデジタル産業の発展、人々の利益につながるように特許は保護・活用されるべきというEFFの主張にたくさんの個人やスタートアップ、ネット企業が賛同し、集められた資金で起こされた訴えは、発明の価値を問う場において大きな力になるはずだ。Save Podcastingが米国の特許制度のねじれを乗り越える結果になれば、パテント・トロールを警戒させる前例になる。少なくとも、解釈の範囲が広い特許を盾に当たり屋のようにライセンス料を要求するような行為を抑制する力にはなるだろう。