今回は半導体メーカーのルネサス エレクトロニクス株式会社にお邪魔します。半導体は私たちの身のまわりの電気製品に必ずと言っていいほど入っていますよね。ルネサス エレクトロニクスはその半導体を使った教育活動にも力をいれているそうです。
ルネサス エレクトロニクス株式会社の金丸博永さんと、藤澤幸穂さんにお話をうかがいました。
-金丸さん、藤澤さん、本日はよろしくお願いします。まずはルネサス エレクトロニクス株式会社について教えていただけますか。
金丸さん:はい。ルネサス エレクトロニクスは半導体作りをメインとする会社です。さまざまな製品の基礎となる半導体は「産業のコメ」と呼ばれていましたが、今でもそれは変わらないと思います。
人の生活を豊かにし、安心や安全を提供するという役割は、これからも重要であり続けると思います。そういった人の生活を支える半導体技術で生きていこうという会社です。
-半導体という製品の役割について教えていただけますか?
藤澤さん:半導体はいろいろなものに化けられる部品です。電気や光、汎用のコンピュータから車、家電など、私たちの暮らしは半導体なしでは成り立ちません。とくにマイコンはプログラムを入れ替えることで、いろいろと使える素材のようなものですね。
金丸さん:マイコンは小さなスイッチの集まりのようなものです。スイッチをたくさん持っていて、入れたり切ったりする組み合わせでさまざまな命令ができるんです。
-半導体は製造業の基本となる存在なんですね。御社はその半導体を使った教育活動をしているとお聞きしたのですが。
藤澤さん:はい。「マイコンカーラリー」のことですね。マイコン(半導体)を搭載した「マイクロカー」に、独自のプログラミングをして規定のコースを走らせ、そのタイムを競う競技です。高校生を対象に全国大会を実施しているんですよ。
-プログラミングをしたマイクロカーでレースをするんですね!
藤澤さん:最初は北海道の工業高校の先生が始めたもので、当社はCSR活動として20年間取り組んでいます。これまでに3万台以上のエントリーがあり、今も参加者は増え続けています。
-20年間も続けていらっしゃるんですか。どういう経緯で始められたのですか?
金丸さん:半導体やプログラミングというと、敷居が高いものだと思われがちですが、先ほども言ったように、私たちの生活と密接に関わっているものです。若い人たちに興味を持ってもらって、将来の技術者を育成するきっかけにしたかったのです。
そこで、高校生たちに興味と関心を持ってもらうためにレースカーでの競争を提供することにしました。
-実際のレースってどのように行われるんでしょうか。高校生となると、相当レベルが高そうですよね。
藤澤さん:基盤とモーターは共通のものを使うという規定になっています。マイクロカーの大きさも幅や高さなどの規定はありますが、その他は自由にカスタマイズできるようになっています。後輪駆動を選択する人もいれば四輪駆動の人もいます。
また、コース上に引かれた白いラインを認識して走らないとコースアウトしてしまうので、ラインセンサも重要な部品となってきます。
-なるほど、コースに合わせて速度の制御や旋回の制御を自動で行うようにプログラムしなければいけないんですね。
藤澤さん:コースは当日その場で発表されるので、会場で調整をする必要がありますね。ラインセンサも赤外線を使ったり、カメラを使ったりとそれぞれです。坂を登っているときにラインが見えなくなってしまう可能性もあるので、よく考えて設計しなくてはいけません。レーンチェンジなどの走行モードの変更を強いられる仕掛けもありますので、工夫が必要ですね。
-勝つためには考えることがたくさんあるんですね。
藤澤さん:数学的な要素も大いにあるんですよ。マイクロカーをある程度決まった速度でまっすぐ走らせるためには、必ず制御理論が必要となってきます。これはカオス理論などにもつながる非常に数学的な要素となっていますね。
-勝つためには数学的な思考力も不可欠というわけですね。数学教育にも大いに役立っていそうです。
藤澤さん:偏差、微分、積分を使うPID制御などが必要ですからね。
-「マイコンカーラリー」は高校生向けですが、もっと下の学年の子どもたちに向けた教材はあるのでしょうか?
金丸さん:ありますよ。「マイコンカーラリー」から始まったCSR活動ですが、裾野も広がっているんです。
こちらが昨年の7月に発売した「マイコンレーサー」というもので、中学校の技術・家庭科の授業などにも取り入れられているんですよ。
-そういえば中学校の技術・家庭科では、計測と制御が必修になったんですものね。
金丸さん:はい。「マイコンレーサー」は「マイコンカーラリー」よりもずっと安価になっています。加えて、プログラミングが容易なんですね。キーボードで打ち込むのではなく、ブロック化したコマンドをマウスで貼りつけることで制御できるようになっているんです。中学生にまで間口が広がりました。
-とても楽しそうですね!こんな授業を受けてみたかったです。
金丸さん:ありがとうございます。実際、購入者の方からの評判はたいへんよいです。斜陽と言われて久しい業界ですが、ものづくりの後継者を育てていかなければいけませんからね。どんなアイデアを持っていても実現する手段がなければ意味がありません。その手段としての技術を多くの子どもたちに学んでほしいという思いでやっています。
今年の4月からはさらに小型化したマイコンレーサー2になりました。軽くなったことで動きが素早くなりプログラムの楽しさが増した感じです。また多くの方からご要望を頂いていたプラスチック部を壊れにくくしましたので、小学低学年でも安心して取り扱えます。
-すばらしい理念だと思います。どころで、お2人の個人的な数学との関わりを教えていただけますか。
金丸さん:私は法学部出身で文系だったのですが、数学は自分の生活に役立つ科目で大好きでした。社会の基本的な構造作りに役立っていると思っています。自分の子どもにもぜひ好きになってもらいたいですね。
-とくに好きな問題はありますか?
金丸さん:僕は証明問題が好きですね。考え方を論理的に表現することがとても楽しいです。
-藤澤さんはいかがですか?
藤澤さん:数学ができる人ってすごいと思うんです。私は電気工学科で学んでいるとき、自然現象としての電気を説明する際に、必要に迫られて数学を使用していました。だから数学だけを扱える人というのは本当にすごいなと思いますね。
自然界を表すときには数学が必要だと思います。私も電気の専門性が強くなってくることで数学がいかに大切かがわかるようになりました。数学によるモデリングで生活が変わる、それが数学の魅力だと思います。
-本日は半導体と数学の関係のわかりやすいお話をありがとうございました。
「マイコンカーラリー」が多くの若者が半導体に興味をもつきっかけになってくれたらいいなと思いました。自分のプログラムがマイクロカーの動きに直結しているというのは、実感としてプログラムを学べるよい経験になると思います。これからも半導体が僕たちの生活を支えていくことは間違いないですから、このマイクロカーによって未来の技術者が増えてくれるといいですね。
今回のインタビュイー
金丸博永(かねまる ひろなが)左
ルネサス エレクトロニクス株式会社
グローバル・セールス・マーケティング本部 日系営業統括部 東日本営業第六部 第二課担当課長
1972年山梨県出身
藤澤幸穂(ふじさわ ゆきほ)右
ルネサス エレクトロニクス株式会社 グローバルコミュニケーション本部 教育推進部 部長
1957年岡山県出身
ルネサスマイコンカーラリー競技大会ホームページ
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