今回は住宅の設計と販売について、数学の視点からお話をうかがいます。住宅の構造的な部分に数学は外せませんが、家を買うときのローンなど、販売面においても数学と関係する部分がありそうです。

建築用資材の流通・販売事業から一戸建住宅やマンションの供給までを総合的に手がけるナイス株式会社の広報室長の渡利勝也さんと、設計部の工藤夏美さんにお話をうかがいました。

渡利勝也さん(左)と、設計部の工藤夏美さん(右)

-渡利さん、工藤さん、本日はよろしくお願いします。まずはナイス株式会社の事業について教えてください。

渡利さん:よろしくお願いします。弊社は建築用木材と住宅建材の販売から始まった会社です。現在では一戸建住宅やマンションの供給までを手がけていますが、素材販売から始まった会社なので、1からの堅実な家造りには自信があります。

-堅実な家造りですか。戸建てだと御社の代表的な商品はどんなものなのでしょうか?

渡利さん:「パワーホーム」という住宅の安全・性能・品質・価格を追求した企画型注文住宅があります。華美な装飾はないのですが、耐震性・断熱性・耐久性・省エネ性を重視したお客様の住みやすさを追求する長期優良住宅です。

-確かに、住宅は長期的に使用する商品ですものね。堅実さは大切なことだと思います。

渡利さん:そうなんです。住宅は財産としての価値も考えなくてはいけません。耐震性や10年、20年住んだときのクオリティを維持することも大切な要素なんですよ。

-「パワーホーム」の特長としてはどんなものがあるのでしょうか?

工藤さん:はい。住宅は、凹凸などが少ないシンプルな構造の方が強度は高くなります。また、シンプルな構造だと工期の短縮にもつながり、費用も安くできるので、結果的にお客様の利益になるんです。

「パワーホーム」は外周部を主に構造躯体として「耐震等級3」(建築基準法の1.5倍)という最高レベルの耐震強度を取得しています。外周部で強度をとっているため、内部はゆとりのある広い空間をつくることができます。この空間は家族構成やライフスタイルの変化に合わせて、そのときどきに合った間取りにリフォームすることが可能です。こういった間仕切りの自由度も特長の1つですね。

-なるほど、外枠で強度をしっかりすれば、住宅内に自由度が生まれるわけですか。工藤さんは設計ということで「パワーホーム」を建設する際に、その土地に合わせて調整するというお仕事をされているわけですよね。

工藤さん:そうですね。住宅には高さや日影の出し方、耐火性など、さまざまな法令上のルールがありますので、それぞれの条件を満たしながら最適のプランでお客様の土地に合うように建てていかなければいけません。

-そういえば、建築関連の単位って、「坪」など独自のものが多いですよね?

工藤さん:はい。公式の書面などでは使用しませんが、今でも「尺」や「寸」という単位を会話などで使うことは多いですね。1尺=30.3030303cm、1寸=3.03030303cmなのですが、日常で使わない単位ですので、意識してその感覚を身につける必要があります。算数の単位の問題みたいなものですね。

面積を表す「坪」もそうです。1坪は約3.30578512m2です。住宅の場合は今でも「坪」で説明した方が伝わることも多いです。

-単位の感覚って難しいですよね。とくに設計の仕事となると、単位が示す指標を感覚的にとらえる能力が大切になってきそうです。渡利さんは販売や営業のお仕事で、数学的な考え方を使うことはありますか?

渡利さん:ありますね。住宅はお客様にとって、とても大きな金額の買い物となります。賃貸住宅との費用の比較や、税金についての知識、ローンを組んだあとの金利の変動などを考えることが大切です。ローンの金利が1%違うだけでも、長期的にみればお客様の住居費に大きく関わってきますからね。営業をする場合はこれらをしっかり理解した上で、数字としてお客様に提示できるようにしなければいけません。

-たしかにお金に関しての計算は、住宅においては必須ですよね。

渡利さん:もちろん社内でも勉強会は行いますが、それだけではなく自主的に税制や金融などについて勉強しなければいけません。

お客様に誤解を与えたらたいへんなので、財産づくりのお手伝いをしているという意識でやっています。

-工藤さんはどうして建築の分野をめざされたのですか?

工藤さん:昔から絵を描くことが好きで、デザインに興味がありました。今でも絵を描くことは好きですね。進路を決めるときは、美容師なども考えましたが、ものづくりに携わりたいと思い、大学は建築学科を選択しました。

-数学はお得意でしたか?

工藤さん:はい、得意でしたね。算数も数学もはっきり1つの答えが出るというのが魅力だと思います。

-数学の力は図面を書くときにも重要になってきそうですよね。

工藤さん:そうですね。平面の図から立体的な建造物が作り出されるわけですから、図面を見ながら立体をイメージできなければいけません。2次元の線と数字を見ながら、頭で3次元の空間を描く力は大切ですね。

-展開図から立体を考えたり、立体を違う方向から見たりといった数学の図形問題と似ていますね。数学が得意というのはお仕事の上でとても重要になるのでしょうね。 渡利さんはいかがでしたか?

渡利さん:私は苦手でしたね。工藤さんのように「好き」とはっきり言える人はすごいなと思います。

ただ、こちらの会社に入り、営業などを続ける中で学んだ数学的な感覚というのはとても多いです。先ほども言いましたが、税金のしくみやローン金利の計算など、お客様の立場に立って考えるときには数学が大切になってきますから。

-渡利さんが使うのは設計とお客様をつなぐ数学ということですね。現場の方ならではの数学の力だと思います。

渡利さん:快適に長く住み続けられる住宅を提供するプロとして、大事な能力だと思います。

-工藤さんは今後、設計のお仕事をする中でどのような目標をもっていらっしゃいますか?

工藤さん:そうですね。これからは昔から興味があったインテリアの勉強に力をいれたいなと思っています。女性の建築士も多くなっていますので、この業界をめざす女性の目標になれるような仕事をしていきたいですね。

-がんばってください! 渡利さん、工藤さん、本日は設計でも営業でも、数学の強さが生かせることがとてもよくわかるお話をありがとうございました。

工藤さんの住宅の設計と製図のお話は、図形の数学問題につながるものがあるように感じました。渡利さんのお話からは、数字を理解することでお客さまよりわかりやすく確実な説明ができることが分かりました。建築をみるたびに数字との関連を考えられそうで、とても楽しいお話でした。

今回のインタビュイー

渡利勝也(わたり かつや)
ナイス株式会社経営推進本部広報室長
1969年山口県出身。
東京経済大学経営学部卒業後、ナイス株式会社に入社。
営業、企画、広報などの職種を経て現職。

工藤夏美(くどう なつみ)
ナイス株式会社事業開発本部パワーホーム事業部設計部
1984年岩手県出身。
前橋工科大学建築学科卒業後、ナイス株式会社に入社。
営業部を経て、現在はマンション設計や戸建て設計を行う。

このテキストは、(公財)日本数学検定協会の運営する数学検定ファンサイトの「数学探偵が行く!」のコンテンツを再編集したものです。

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