天気予報はテレビや新聞などでよく見ていますが、実際の気象予報士の仕事内容についてはよく知らない人が多いのではないでしょうか。でも、降水確率や気圧など、天気予報には数学が深く関わっていそうですよね。

今回は気象予報士の島下尚一さんと佐々木恭子さんに、数学と天気予報のお話をお聞きすることにしました。お2人は気象予報士試験を受験するための教室も運営しています。教室にお邪魔して、お話を聞かせていただきました。

-島下さん、佐々木さん、本日はよろしくお願いします。こちらで気象予報士試験を受験するための教室を開講しているのですね。

島下さん:はい。私がおもに運営を、佐々木さんが教材作りを行っています。2人で協力しながら講師をしています。

-御二人のように会社を設立されている気象予報士さんもいらっしゃるんですね。

島下さん:はい。民間の気象予報会社もありますからね。ただ、気象予測をするにはデータが必要です。気象衛星のデータをはじめ、ほとんどの気象データは基本的に気象庁が持っているので、負担金を支払ってデータを入手します。

ただ、途切れなく送られてくるデータを処理するために、サーバなどへの設備投資も必要になります。

佐々木さん:だから私たちのように、気象の知識を使って大手の仕事の手助けをしたり、スクールを運営したりする予報士もいるんですよ。

-それで教室を運営されているんですね。気象予報士試験は、どのくらいの頻度で実施されているんですか?

スクールのモニタに表示された天気図

佐々木さん:年に2回実施されていて、4000人から5000人ほどが受験します。合格率は4~5%ほどなので、毎年400人くらいの気象予報士が誕生していることになりますね。

-意外といるのですね。これまで気象予報士の方にお会いしたことがなかったので、あまり意識したことはありませんでした。

佐々木さん:気象予報士といっても、テレビの天気予報で解説する人だけではありません。個別のユーザーがほしがっている情報を提供するというのも大切な仕事なんです。

たとえば、道路管理をする会社は、インターチェンジとインターチェンジの間の降雪予想のようなピンポイントな情報をほしがっています。提供する情報によって通行止めが決まったりするので、データをしっかりと読み解いて、確かな情報を提示する責任の重い仕事でもあるんですよ。

-気象庁から提供される情報は同じでも、その切り取り方が違うというわけですね。気象コンサルティングのような側面もあるんですね。

島下さん:はい。提示された情報から、その現象がどのようなしくみによって成り立っているかを見抜いたり、経験に照らして考えたりと、そういった能力が気象予報士の腕です。予報の腕になっていくわけです。

うちのスクールでは単なる合格テクニックだけでなく、予報の腕を育むような学問としての気象と実践的な気象の両方を知ってもらえる授業をするように心がけています。

-なるほど。降水確率を見て傘を持って出るか判断したりしますものね。人々の生活を左右する、責任重大な仕事というわけですね。

佐々木さん:強風で貨物船が着岸できないので荷下ろしができない、いったいいつまで海上で待てばいいのか、というような時の気象情報は企業の利益にも直結しますよね。もちろん、防災のことを考えれば人の命を預かっているとも言えます。

モニタに表示された12月の気温の予報

—私たちがいつも見ている天気予報というのは、どういった情報をもとにつくられているのでしょうか?

島下さん:基本的にテレビなどの天気予報というのは、気象庁の予報をベースにしています。気象庁がコンピュータで大気の状態を作り出すわけですね。数値計算をして、シミュレーションを行います。

-なるほど。それでも外れることがありますよね?

モニタに表示された大気の様子

島下さん:国内の大気の様子だけで判断できるものじゃありませんからね。山ほどの気象観測所がある国内と周辺国や海上の観測状況には、どうしても差があります。その誤差が重なると、大きな誤差になってしまうことがあるんですね。予報が100%にならないのは、そういう事情があるからです。

-気象って、地球規模の話ですものね。降水確率はどのように出しているんですか?

島下さん:過去事例と照らし合わせ、その地域の気象特性を捉えて算出しています。大気の状態を見て、この状態から雨が降った事例がどのくらいあるのかというようにして確率にしていきます。

-なるほど、かなり複雑な割り出し方になりそうですね。

島下さん:先ほどその地域の平均的な気象を踏まえると言いましたが、それによってパーセンテージがもつ意味も変わってくるんです。たとえば、1月の東京で1ミリ以上の雨が降る日がどのくらいあるのかというと、2010年から過去30年のデータで平均すると4.5日程度です。ところが、日本海側の金沢だと降雪地帯ですので平均23.5日にもなってしまいます。

-降水確率を算出する際の指標が変わってきてしまうんですね。

島下さん:そうなんです。だから1月の東京での降水確率30%というのは、雨の平均的な出現率と比べて高い確率だと考えていいと思います。逆に、1月の金沢での降水確率30%というのは、案外降らないと考えていいでしょう。このようなテレビの数字だけでは伝えきれない情報などもあります。

そういった情報を読み解くことが、気象予報士に求められる能力の1つですね。

-統計学と同じで、はじき出された数字をどのように読み取るのかというテクニックも重要になりますね。計算をするだけではなく、その結果をどのように分析するかというのも数学の能力としては重要ですからね。

島下さん:そうですね。湿度は大気中に含まれる水蒸気の量を示したものですが、気温が上がれば空気中に含むことのできる水蒸気の量も上がります。つまり、冬の湿度40%と夏の湿度40%ではまた意味が変わってくるわけです。

温度による飽和水蒸気湿度と飽和水蒸気圧の変化の表

佐々木さん:パーセンテージの概念というのは、しっかり意味を理解していないと分析することが難しいですね。計算がとても重要になってきます。

-百分率の数学問題は、いい訓練になりそうですね。やはり気象予報士の方は理系出身者が多いんですか?

佐々木さん:そんなことはないですよ。文系出身の方もたくさんいらっしゃいます。

島下さん:でも気象予報士の試験では三角関数などが出題されますね。もちろん分数など基本的なものも押さえておかなければいけません。

-三角関数が出るんですか!

佐々木さん:風は気圧の高い方から低い方へと吹くんですが、地面との摩擦によってどれだけの角度がつくかなど、力の関係を計算する際には必要になります。

-意外な使われ方ですね。

佐々木さん:でも、基本的には高校までの数学がしっかりできていれば問題ないはずです。

-数学をやっておいて損はないわけですね。これから天気予報の見方も変わる気がします!島下さん、佐々木さん、本日はいろいろな疑問に答えていただき、ありがとうございました。

降水確率や湿度のお話はとても興味深いものでした。パーセンテージが解釈によってさまざまな受け取り方ができるというのも、数学をどう使うかが求められていると思いました。基本的な数学の力が役に立つ場面が多いお仕事なんですね。

何気なく見ている天気予報にも、いろいろな数学が隠されていることがわかるインタビューでした。

今回のインタビュイー

島下尚一(しましたしょういち) 右
防災気象PRO株式会社・代表取締役
気象予報士/防災士。
千葉県出身。
気象予報士取得後、民間気象会社でテレビ、ラジオ、新聞などメディア向け気象情報サービスに従事。
2005年に防災気象PRO株式会社を設立後、大手気象会社と契約し、メディア向け気象情報サービスおよび自治体防災向け局地予測、道路向け雪氷予測など予測業務を担当。
気象予報士スクールを運営し、教材作りや講師も務める。

佐々木恭子(ささき きょうこ) 左
合同会社てんコロ.・代表
気象予報士。
神奈川県出身。
気象予報士の資格取得後、民間気象会社で自治体防災向け局地予測、道路向け雪氷予測などの予測業務を担当。
2010年に合同会社てんコロ.を設立し、気象予報士スクール、eラーニングのコンテンツ制作、スクール講師などを行う。

このテキストは、(公財)日本数学検定協会の運営する数学検定ファンサイトの「数学探偵が行く!」のコンテンツを再編集したものです。

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