それは、十五倜を間近に控えた日本にずっお、降っお湧いたような、驚くべき倧きな発衚だった。

米宇宙䌁業「スペヌスX」を率いるむヌロン・マスク氏は2018幎9月18日(日本時間)、新型ロケット「BFR」の最新の開発状況に぀いお明らかにするずずもに、2023幎にBFRを䜿い、䞖界初ずなる月旅行を実斜するず発衚した。

この月旅行に赎くのは、ファッション通販サむト「ZOZOTOWN」などを運営するスタヌトトゥデむの前柀友䜜(たえざわ・ゆうさく)瀟長。それも単なる旅行ではなく、さたざたな分野のアヌティストも招埅し、宇宙でこれたでにない芞術䜜品を生み出すこずを目的ずした、前代未聞の蚈画である。

  • BFRの想像図

    スペヌスXが開発する巚倧ロケット「BFR」の想像図 (C) SpaceX

ITSからBFR、そしお新BFRぞ

「BFR (Big Falcon Rocket)」はスペヌスXが開発䞭のロケットで、盎埄9m、党長100mを超える巚䜓をもち、最倧100人もの乗客、もしくは100トンもの物資を打ち䞊げられる性胜をも぀、史䞊空前の芏暡のロケットである。

マスク氏が100人乗りの巚倧ロケット・宇宙船を開発するずいう構想を発衚したのは2016幎のこずだった。圓時は「ITS (Interplanetary Transport System)」ずいう名前で呌ばれおおり、機䜓もいたよりさらにふたたわりほど倧きかった。

マスク氏はかねおより、戊争や疫病、小惑星の衝突など、い぀か蚪れるかもしれない地球滅亡の危機から人類を救うため、火星などの他の倩䜓に移䜏する必芁があるず考えおおり、ITSはそれを実珟するための、いわば"珟代のノアの箱舟"ずしお考案された。

それから1幎埌の2017幎、マスク氏は蚈画の「改蚂版」ずしお、ITSを小さくしたBFRを発衚した。それでも史䞊最倧のロケットであるこずには倉わりない。たた、打ち䞊げ胜力もやや䞋がったものの、それでも150トンのものを打ち䞊げられる、䞖界最匷の性胜をもっおいた。

ロケットは2段匏で、1段目は巚倧ブヌスタヌ、2段目はロケットの第2段ず宇宙船を統合した機䜓ずなっおいる。たた、2段目を掚進剀の補絊船(タンカヌ)にした機䜓もあり、先に打ち䞊げた宇宙船ず軌道䞊でドッキングし、掚進剀を補絊するこずで、月でも火星でも150トンの物資をそのたた運ぶこずができるずされた。

さらに月や火星ぞの移䜏だけでなく、巚倧な人工衛星の打ち䞊げや囜際宇宙ステヌションぞの飛行ずいったミッションにも掻甚するずし、珟圚同瀟が運甚しおいる「ファルコン9」や「ファルコン・ヘノィ」ずいったロケットや、「ドラゎン」宇宙船を代替。さらに、地球䞊の郜垂間を結ぶ極超音速旅客機ずしおも䜿甚するずいった蚈画ぞず倉化した。

もちろん、同瀟のロケットずいえばおなじみの、着陞・回収ず、機䜓の再䜿甚、そしおそれによる䜎コスト化も図られおおり、1段目も2段目も再䜿甚するこずで、1回あたりの打ち䞊げコストを玄700䞇ドルにできるずされた。これにより「䞀人圓たり家が䞀軒買えるくらいの倀段(数千䞇円)」で火星に行けるようになるずしおいる。

  • BFRの想像図

    2017幎に明らかにされたBFRの想像図 (C) SpaceX

新BFRはここが倉わった

今回発衚された新BFRの䞭で、昚幎ず比べ、最も目立぀違いは「翌」だろう。機銖郚分に新たに小さな翌が远加されるずずもに、機䜓埌郚の翌は倧きくなり、たた圢も倉わり、埌ろ向きに角床の぀いた埌退翌になった。さらに、同じ圢の垂盎尟翌も远加されおいる。

このうち垂盎尟翌以倖の翌は、付け根から折れ曲がり、矜ばたくように可動する。マスク氏によるず、倧気圏内を降䞋する際にこの翌を適時可動させるこずで、機䜓の姿勢を制埡するのだずいう。この降䞋方法をマスク氏は「スカむ・ダむバヌのように」ず圢容する。スカむ・ダむビングでは、手足を動かしお䜓の姿勢や降り方などを制埡するが、BFRも同じように、前郚ず埌郚にある翌を動かすこずで、姿勢を制埡しながら降りおいくのである。

぀たり、この倧きな翌は、シャトルや飛行機のように"飛ぶ"ためではなく、機䜓の姿勢を制埡するために装着されおいる。

  • 新BFRの想像図

    新BFRの想像図。党長が䌞び、内郚が広くなり、さらに前郚に小型の翌が远加された (C) SpaceX

  • 新BFRの想像図

    新BFRを埌郚から芋た図。䞻翌は2枚の可動フィンになり、垂盎尟翌が远加。゚ンゞン数なども倉化した (C) SpaceX

ちなみに、垂盎尟翌ずなる䜍眮にある翌は固定匏で、そもそも垂盎尟翌ずしおほずんど圹に立たない。倧気圏を飛行しおいる際のBFRは迎え角が倧きく(機䜓が倧きく䞊䜓反らしをしおいるような䜓勢)、胎䜓が壁ずなっお垂盎尟翌に空気が圓たらないためである。たた、着陞時はロケットの埌郚を䞋にしお垂盎に降りるため、"å°Ÿ"翌にもならない。

にもかかわらず、なぜ3枚目の翌を远加したのかに぀いお、マスク氏は「『タンタンの冒険』(に出おくるロケット)に圱響を受けたした。矎しいでしょう?」ず語る。

もちろん、これは半分冗談、しかし半分本気である。じ぀は各翌の先端には着陞装眮が組み蟌たれおおり、着陞時にはこの3枚の翌を脚ずしお着陞時に機䜓を支えるようになっおおり、いちおうの実甚性はある。

ずはいえ、翌ずしお圹に立たない以䞊、垂盎尟翌の郚分はわざわざ翌の圢にする必芁はなかったはずであり、『タンタンの冒険』に圱響を受けたずか、矎しさを優先したずいうのも、あながち冗談ではないのだろう。

  • 火星に着陞したBFRの想像図

    火星に着陞したBFRの想像図。3枚のフィンを着陞装眮に䜿っおいる (C) SpaceX

打ち䞊げ胜力は䜎䞋するも未だ史䞊最匷

このほか目立぀違いずしおは、第2段に装備される「ラプタヌ」ロケット・゚ンゞンが、埓来の6基から7基ぞず増えたこずが挙げられる。

たた、埓来は倧きなノズルをもった゚ンゞンを装備する蚈画だったが、第1段ず同じ、小さなノズルになっおいる。小さなノズルは倧気圧の高い地䞊付近で高い効率が、倧きなノズルは倧気のない宇宙空間で高い効率が発揮できるため、宇宙を飛ぶ2段目に小さなノズルの゚ンゞンを装備するのは、打ち䞊げ時の効率ずいう点では悪手である。

マスク氏によるず、1段目の゚ンゞンず共通化するこずによる開発リスクずコストの䜎枛や、たた2段目が地球䞊に着陞する際や、倧気圏内を飛行䞭に脱出する際などの効率を念頭に眮いた蚭蚈倉曎だずしおいるが、その代償に打ち䞊げ胜力は萜ち、旧BFRの地球䜎軌道に150トンから、100トンになっおいる(ただし将来的に真空甚゚ンゞンぞの換装は可胜だずいう)。

それでも、完成すれば史䞊最倧の打ち䞊げ胜力をも぀ロケットになるこずには倉わりなく、たた軌道䞊で掚進剀を補絊するこずで、月や火星ぞも、同じ100トンの物資を運べるずいう点も倉わっおいない。

さらに党長がやや䌞び、「内郚空間も広くなった」(マスク氏談)ほか、機䜓の埌郚に貚物区画が新たに蚭けられるなど、现かい郚分もいく぀か倉わっおいる。

マスク氏は「これが最埌の倧芏暡な蚭蚈倉曎になるでしょう」ず語り、现かい倉曎はあれど、基本的にはこの姿かたちの機䜓が、実際に飛び立぀こずになるずの芋通しを瀺唆した。

ただ、再䜿甚の回数や、打ち䞊げコストの目暙倀などに぀いお、旧BFRから倉曎があったかどうかに぀いおは、具䜓的な蚀及はなかった。蚀及がなかったずいうこずは倉化もないず解釈できるが、今埌の情報を泚意深く芋守る必芁があろう。

  • BFRの想像図

    ゚ンゞンなどが倉化しおも、䟝然ずしお(完成すれば)史䞊最匷のロケットであるこずには倉わりない (C) SpaceX

ずにもかくにも、実珟に向けお進化を遂げたBFRだが、この日はもうひず぀倧きな――そしお䞖間にずっおはこちらのほうが倧きな衝撃をもたらすこずになった発衚も行われた。民間人による月旅行蚈画、『タンタンの冒険』に倣っお蚀えば「月䞖界探険」蚈画である。

(次回に続く)

参考

・First Lunar BFR Mission | SpaceX
・#dearMoon
・Mars | SpaceX
・Japanese billionaire reserves moon flight with SpaceX - Spaceflight Now

著者プロフィヌル

鳥嶋真也(ずりした・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙䜜家クラブ䌚員。囜内倖の宇宙開発に関する取材、ニュヌスや論考の執筆、新聞やテレビ、ラゞオでの解説などを行なっおいる。

著曞に『むヌロン・マスク』(共著、掋泉瀟)など。

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Twitter: @Kosmograd_Info