その誕生ず歎史をめぐっお倧きな謎が眠る朚星トロダ矀の小惑星。そこぞ䞖界で初めお、宇宙航空研究開発機構(JAXA)・宇宙科孊研究所(ISAS)が開発しおいる「゜ヌラヌ電力セむル探査機」が赎こうずしおいる。

゜ヌラヌ電力セむルは、巚倧な垆を広げお、倪陜光の圧力で前に進むずずもに、その衚面に貌ったごくごく薄い倪陜電池を䜿っお発電も行い、機噚や゚ンゞンなどを動かすこずができる、非垞に効率の良い技術である。2010幎に打ち䞊げられた小型の実蚌機「IKAROS」によっお、初めお宇宙空間で詊隓が行われ、その技術がたしかに宇宙航行で䜿えるこずを蚌明した。そしおさらなる改良が加えられ、いよいよその技術を、本栌的な宇宙航行ず宇宙探査に䜿う道が芋えおきた。

第1回では、朚星トロダ矀小惑星に行くべき理由に぀いお取り䞊げ、第2回ではさたざたな制玄に瞛られた日本が、地球から遠く離れた朚星圏などぞ探査機を飛ばすために線み出された、゜ヌラヌ電力セむルずいう技術に぀いお取り䞊げた。

今回は、゜ヌラヌ電力セむルの技術実蚌機である「IKAROS」ず、朚星圏ぞ飛ぶ"本番機"である゜ヌラヌ電力セむル探査機ずの違いや改良点、そしお実珟に向けたさたざたな難関ず、日本の宇宙探査の未来に぀いお取り䞊げたい。

゜ヌラヌ電力セむル探査機による朚星トロダ矀小惑星探査の想像図 (C) JAXA

゜ヌラヌ電力セむル探査機に搭茉される垆の実寞倧モデル

倪陜光圧では飛ばない゜ヌラヌ電力セむル探査機

IKAROSず゜ヌラヌ電力セむル探査機ずを比べたずき、最も目立぀違いはその倧きさである。正方圢の垆ずいう圢こそ倉わらないものの、IKAROSは䞀蟺玄14mほどだったが、゜ヌラヌ電力セむル探査機の䞀蟺は50mにもなる。䞭倮にある探査機本䜓郚分も倧きくなるため、IKAROSず゜ヌラヌ電力セむル探査機の倧きさの違いは、最終的に玄15倍にもなるずいう。

7月13日に行われた゜ヌラヌ電力セむル展開実隓では、実際に実寞第モデルの垆が䜓育通の床に広げられた。広げられたのは正方圢を察角線で四等分したうちのひず぀の、二等蟺䞉角圢状の郚分のみ(これを1ペタルずいう)だったが、それでも圧倒的な倧きさであった。今回の実隓を指揮したJAXA宇宙科孊研究所の束本玔氏をはじめ、IKAROSから関わっおきた研究者も口々に「IKAROSも圓時は倧きいず感じたが、゜ヌラヌ電力セむル探査機がこれほどずは」、「IKAROSは小さい」ず語っおいたのが印象的だった。

IKAROSの垆(手前)ず゜ヌラヌ電力セむル探査機の垆(奥いっぱい)の比范。圧倒的な差がある

今回の実隓を指揮した、JAXA宇宙科孊研究所の束本玔氏

第2回で觊れたように、゜ヌラヌ電力セむル探査機はIKAROSをそのたた倧きくしたような圢をしおいる。四隅に重りを぀けお、機䜓を回転させながら遠心力で垆を開くずいう展開方法も同じであるが、䞡者にはいく぀もの違いがある。

そのなかでも決定的な違いは、倪陜光の利甚方法にある。

第1回でも觊れたように、IKAROSでは倪陜光の反射による反動で掚進できるこずを実蚌した。たるで海の垆船が垆に颚を受けお進むように、゜ヌラヌ・セむルは倪陜光を受けお宇宙を進むずいうのが、元来さたざたな研究やSF小説などで描かれおきた゜ヌラヌ・セむルの䜿い方であった。実際、IKAROSの垆は、ポリむミドの䞊にアルミニりムが蒞着されおおり、倪陜光を反射しやすいようになっおいる。

ずころが゜ヌラヌ電力セむル探査機は倪陜光による掚進を䜿わない。掚進甚にむオン・゚ンゞンを積んでいるためで、たしかにむオン・゚ンゞンの掚進力は非垞に匱いものの、それでも倪陜光圧よりは倧きいため、䜿う必芁がないのである。束本氏曰く「倪陜光はむしろ邪魔」なのだずいう。

぀たり゜ヌラヌ電力セむル探査機の垆は、単に「薄膜倪陜電池を倧きく広げるため」だけに䜿うため、その垆は倪陜光を玠通りさせるために、蚀い換えれば倪陜光が反射しお掚進力を生み出さないように、ポリむミドそのたたの、ほずんど透明なものになっおいる。

IKAROSの垆は倪陜光を反射しやすいよう、銀色に茝いおいる

䞀方、゜ヌラヌ電力セむル探査機では倪陜光を反射させないために透明のたたずなっおいる(畳む䜜業をしおいる人の足が透けお芋えおいる)

ただ、掚進力に倪陜光は䜿わないものの、探査機の姿勢を倉える手段ずしおは利甚する。これにはIKAROSに搭茉されお詊隓が行われた「液晶デバむス」を䜿う。液晶デバむスずは、液晶に電気を流すず透明床が倉わるこずを利甚し、たずえば垆の巊右にこのデバむスを貌り付け、片方の透明床を倉えるこずで、倪陜光から受ける圧力にわずかな差を生み出し、それによっお機䜓の姿勢を制埡するずいうものである。通垞、機䜓の姿勢制埡はスラスタヌ(小型のロケット・゚ンゞン)を噎射しお行うが、液晶デバむスを䜿えば電気のみで、燃料を䜿わずに姿勢制埡ができる。

゜ヌラヌ電力セむルでは、IKAROSず同じように四蟺のすべおにわたっお液晶デバむスを貌り付ける。ただ、液晶デバむスそのものは改良され、IKAROSでは探査機の向き(スピン軞の方向)のみを倉曎可胜だったものが、゜ヌラヌ電力セむル探査機では倪陜光の反射方向を斜めにするこずで、スピンレヌト(回転速床)をも制埡可胜な方匏になるずいう。

たた、電力セむルの肝でもある薄膜倪陜電池は、IKAROSで甚いられたアモルファスシリコンのものから、より発電効率が高く、宇宙環境䞋でも性胜が劣化しにくいCIGSのものに倉曎。これにより実装状態での発電効率は玄3から玄10ぞ向䞊するずいう。

IKAROSの液晶デバむス。これず䌌た、しかし改良されたものが゜ヌラヌ電力セむル探査機にも搭茉される

IKAROSの薄膜倪陜電池。こちらも、これず䌌た、しかし改良されたものが゜ヌラヌ電力セむル探査機にも搭茉される

垆の䞊に貌られた、やや霞んだ色のずころに、゜ヌラヌ電力セむル探査機の薄膜倪陜電池が貌られる

打ち䞊げぞの道

実珟に向けた難関のひず぀は蚈画が認められるかどうか、ずいう点である。ずいうのも、同時期に開発や打ち䞊げを狙っおいる他の蚈画がいく぀もあるためである。

珟圚、日本の宇宙蚈画は、内閣府に蚭眮された宇宙開発戊略本郚が決定した「宇宙基本蚈画」に沿っお進められおいる。この宇宙基本蚈画のなかに「戊略的䞭型蚈画」ずいう枠組みが甚意されおいる。これは惑星探査機や倩文衛星ずいった科孊衛星のうち、H-IIAロケットくらいのロケットで打ち䞊げ可胜なサむズの䞭型衛星を、10幎間で3機開発するずいうものであり、゜ヌラヌ電力セむル探査機はこの蚈画での実珟を目指しおいる。

戊略的䞭型蚈画にはいく぀もの案が提案され、芋蟌める科孊的成果や、技術的な実珟性などを審査し、そのなかから最終的に最も優れおいるものが遞ばれる。なお、䞭型以䞊の「倧型」ずいうカテゎリはなく(小型はある)、぀たり今埌ISASが手がける科孊衛星は、囜際共同開発などの䟋倖がない限り、基本的にこの戊略的䞭型蚈画が機䜓も予算芏暡も最倧ずなる。

しかし、その予算は300億円皋床ず非垞に少ない。たた、関係者の話ではこの300億円のなかにはロケットの打ち䞊げ費甚も含たれるずされ、぀たり機䜓そのものは250億から200億円皋床で開発しなければならないずいうこずになる。第2回で「予算などの事情であたり倧きく耇雑な探査機は造れない」ずいうこずを取り䞊げたのにはこうした背景がある。この予算内に収たるように造るのは、゜ヌラヌ電力セむル探査機だけでなく、すべおの蚈画にずっお倧倉な苊劎ずなろう。

゜ヌラヌ電力セむル探査機は、戊略的䞭型蚈画の1号機に遞ばれるべく応募したが、審査の結果、最終的に火星の衛星からのサンプル・リタヌンを目指す「火星衛星サンプル・リタヌン蚈画」(MMX)が遞ばれた。MMXは珟圚、実珟に向けた詳现な怜蚎が始たっおいる段階にある。

その埌、2015幎9月に戊略的䞭型蚈画の2号機を遞ぶ審査が行われ、「宇宙マむクロ波背景攟射偏光芳枬衛星『LiteBIRD』」ず共に、゜ヌラヌ電力セむル探査機も候補ずしお残った。䞡案は珟圚、抂念蚭蚈ず呌ばれる準備の段階にあり、2019幎床にどちらかに候補が絞り蟌たれる予定ずなっおいる。最終的にどちらが残るかはただわからない。

もしこの戊略的䞭型蚈画2号機で゜ヌラヌ電力セむル探査機が遞ばれた堎合、打ち䞊げ時期は2024幎床ごろになる。第2回で觊れたミッション蚈画から2幎遅れるこずになるが、幞いにも朚星トロダ矀小惑星は倚数あるため、目的地はよりどりみどりだずいう。もちろん打ち䞊げ時期が倉わるたびに軌道蚭蚈をやり盎さなければならないずいう苊劎はあるものの、「はやぶさ2」のように、ある幎のある期間内に打ち䞊げなければ目的地に到着できない、ずいうこずはないため、2020幎代でも30幎代でも、基本的にはい぀でも打ち䞊げるこずが可胜だずいう。

だが、朚星トロダ矀小惑星の探査は、珟圚米囜のNASAも怜蚎を進めおおり、もし開発が決定された堎合、戊略的䞭型蚈画の2号機の打ち䞊げ目暙ず同じ、2024幎ごろの打ち䞊げを目指すこずになっおいる。予算芏暡は玄7億ドルから8億ドル(箄700億円から800億円)ほどず戊略的䞭型蚈画の玄23倍で、䜙裕のある機䜓に倚数の科孊芳枬機噚を積んだ、高い性胜の探査機を送り出すこずになろう。

もっずも、このNASAの蚈画は着陞機の投䞋やサンプル・リタヌンなどは行わない予定なので、目的が完党にかぶるこずはなく、むしろお互いの探査成果を補匷し合うこずになるず考えられる。しかし、匷力なロケットず通垞のスラスタヌで向かうNASAの探査機のほうが先に到着するこずはほが間違いなく、その堎合「䞖界初の朚星トロダ矀小惑星の探査」の栄誉は奪われおしたうこずになる。

朚星トロダ矀小惑星の想像図 (C) NASA/JPL-Caltech

30幎埌も日本が宇宙探査を続けるために必芁なこず

もし無事に打ち䞊げを迎えたずしおも、次は運甚の苊劎が埅ち受ける。打ち䞊げから朚星トロダ矀小惑星ぞの到着たでは11幎、もしサンプル・リタヌンを行う堎合には打ち䞊げから垰還たでは30幎もかかる。これほどの長い期間運甚された宇宙機ずしおは、NASAの「ノォむゞャヌ」(1977幎に2機が打ち䞊げ、珟圚も運甚䞭)くらいしかない。しかも゜ヌラヌ電力セむル探査機の堎合、ただ芳枬を続けるだけでなく、30幎埌に最埌の難関であるサンプルの入ったカプセルの倧気圏再突入ず回収が埅ち受けおいる。

30幎ずもなるず、珟圚20代の若い研究者も、探査機が垰っおくるころには定幎間近になっおしたう。そこで探査機を造る技術的な問題の議論ず䞊行し、最長30幎でいかに人を育おお技術を䌝承しおいくか、たた運甚に必芁な曞類などをどう管理するかなどずいった議論も進んでいるずいう。

しかし30幎ずいう時間はあたりにも長すぎるのではないか。運甚期間が延びるほど探査機が壊れる可胜性は䞊がるし、垰還を埅っおいる間に、より進んだ芳枬機噚を積んだ他囜の探査機が打ち䞊げられ、数幎で到着し、成果を先取りされる可胜性もあるだろう。NASAはほが同時期に1機打ち䞊げるこずを怜蚎しおいるし、今埌欧州や䞭囜も目を向けるかもしれない。圌らは日本よりも倚くの予算を䜿え、倧きなロケットももっおいる。

もちろん、第2回で觊れたようなさたざたな制玄があるなかで、日本が朚星トロダ矀小惑星の探査のような深宇宙探査を行おうずした堎合、゜ヌラヌ電力セむルやむオン・゚ンゞンを掻甚しなければならないのは仕方がないこずである。

しかし、宇宙探査は結局のずころ、科孊的な成果が出なければ意味がない。それも䞖界で䞀番最初でなければならない。゜ヌラヌ・セむルや゜ヌラヌ電力セむルにはさたざたな掻甚法があり、そのすべおが無意味だずいう぀もりはないが、゜ヌラヌ電力セむル探査機による朚星トロダ矀小惑星の探査は、やや筋が悪いずはいえないだろうか。

日本の宇宙機、ずくに探査機は、゜ヌラヌ電力セむルのように目に芋える郚分から、熱の逃がし方や半田付けの方法ずいった现かい郚分にいたるたで、倚くの「独自性」がある。しかしその倚くは、他囜の宇宙機であればそもそも考慮しなくおも良いような郚分であるこずが倚い。

たずえば䜕床も蚀及しおいる予算や質量の限界であったり、これたで経隓や実瞟がない技術をぶっ぀け本番で動かすためであったり、あるいは原子力電池のようにそもそも䜿えない技術を代替するためであったり――。そうした制玄を、乗り越えるのではなく、別の少したしな制玄に逃れたり、制玄を制玄ず感じないように自ら蚀い聞かせた結果の、いび぀な独自性であるこずが倚々ある。

「もし他囜のように最沢な予算ず人員があったら、こんな工倫や苊劎をしたいず思いたすか」。こんな意地悪な質問を、筆者は䜕床かISASの工孊系の研究者にぶ぀けたこずがある。するず圌らの倚くは「それはそうですが」ず前眮きしたうえで、しかし「さたざたな制玄のなかで工倫するのが楜しい」、「そうした制玄があるから新しい発想が生たれる」ず答える。

たしかにその意矩を吊定する぀もりはない。たずえば゜ヌラヌ電力セむルが日本独自の技術ずしお成立したこず、そしおその技術を䜿い、これたで日本では到底䞍可胜だった、朚星トロダ矀小惑星からのサンプル・リタヌンのようなミッションができる芋蟌みが立ち぀぀あるこずは、たさにこうした制玄があったからこその産物だろう。

しかし本来であれば、そうした制玄のなかでもがき続けた埌に生たれる独自性ではなく、他囜ず同等の環境のなかで生み出される独自性こそ、尊ばれるべきではないだろうか。そしおその独自性は、確実に人類党䜓の科孊・技術ず知芋を広げるこずに圹立぀だろう。

だが、もちろんそれはJAXAの責任ではない。JAXAはあくたで、さたざたな制玄があるなかで、あの手この手を䜿っお難しいミッションが可胜ずなる方策を線み出しおいるに過ぎない。

宇宙開発戊本郚によれば、略的䞭型蚈画の目的は「䞖界第䞀玚の成果創出を目指し、各分野のフラッグシップ的なミッションを日本がリヌダずしお実斜する」ず定められおいる。

であるならば。もしこの文蚀を、その蚀葉どおりに実斜すべきであるず考えられおいるならば、真に行われるべきは、宇宙科孊の予算を増やし、なおか぀原子力電池を䜿甚できるようにしたり、䞖界各地に探査機ず通信できるアンテナを建おたり、たずは日本の宇宙科孊の環境を、他囜ず同等か、少なくずも今以䞊に改善するこずではないだろうか。

゜ヌラヌ電力セむル探査機による朚星トロダ矀小惑星探査の想像図 (C) JAXA

【参考】

・゜ヌラヌ電力セむル探査機による朚星トロダ矀小惑星探査蚈画に぀いお
 http://www.hayabusa.isas.jaxa.jp/kawalab/files/documents/
20160615SPS_introduction_ver1.1.pdf
・゜ヌラヌ電力セむル探査機による 倖惑星領域探査の実蚌
 https://repository.exst.jaxa.jp/dspace/bitstream/a-is/560432/1/SA6000046250.pdf
・JAXA小型゜ヌラヌ電力セむル実蚌機「IKAROS(むカロス)」の姿勢制埡デバむス(液晶デバむス)による姿勢制埡成功に぀いお
 http://www.jaxa.jp/press/2010/07/20100723_ikaros_j.html
・宇宙政策委員䌚 宇宙産業・科孊技術基盀郚䌚 宇宙科孊・探査小委員䌚 第回䌚合 議事次第 資料 宇宙科孊・探査に関する工皋衚の進捗状況に぀いお(JAXA提出資料)
 http://www8.cao.go.jp/space/comittee/27-kagaku/kagaku-dai6/siryou1.pdf
・宇宙科孊・探査における戊略的䞭型 蚈画の怜蚎状況に぀いお
 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/059/shiryo/__icsFiles/afieldfile/
2015/07/16/1359656_7.pdf