"会わなくてもできること"を増やした情報ツール

早稲田塾は、仕事をする組織が校舎単位だけではなく、他校の人たちとの縦横無尽のネットワークによりプロジェクトで取り組むというやり方を採っている。人の集合である以上、議論を繰り返さないと形にできないのは当然だが、SNSを導入するまでは直接会うしか方法がなかった。テレビ会議システムも導入しているが、校舎間の時間の調整が難しいという点がある。

そこに社内SNSが導入されて、仕事の進め方が大きく変わったという。特に劇的に変わったのは会議のやり方だ。これまではまず情報共有から始めていたので時間がかかったが、SNSにより事前の共有やある程度の議論が可能になり、核にいきつく時間が短縮されたことで、議論の質が高まるようになったそうだ。

具体的には、SNS内にプロジェクトごとのコミュニティがあり、それを見ることで、チームのメンバーの動きや案件の進捗具合がわかるようになっている。主要なトピックは、日時を入れて毎日必ず立てるようにし、動向を入力して瞬時に共有していく。mixiのコミュニティの場合はトピックが上がらない場合はまったく上がらないが、それとは違い、忙しければ忙しいほどトピックが上がるのが特徴だ。

個と個がつながるという、いわゆるSNSのソーシャル的な面よりも、主に情報の共有に使っているところが一般のSNSとは違うところだ。具体的には、離れた拠点間での意志決定、ノウハウの共有、知識の集積の場として使い、ガイダンスの台本やマニュアルなどのFAQ的にも利用しているそうだ。共有したいファイルの受け渡しができるのも便利だという。

赤坂氏おすすめの機能はWikiだ。それまでのメールやツールなどでは情報が流れていってしまったり、共同編集が難しかった。しかしWikiがあることで、必ずその情報にたどり着けるようになった上、履歴も残り、共同編集もたやすくなった。例えば、新しいガイダンスを行う際、事前に練りあげる台本。今ではこのWiki機能を使い、それぞれが得意な分野を請け負ったり意見を出しあい、共同編集により作り上げられるようになった。「会わなくてできることが増え、ずいぶんと業務が効率的になりました」(赤坂氏)。

問題を改善しつつ、アクティブ率は7割以上

インターンを除けば、全体の7 - 8割以上のメンバーがSNSに参加している。アクティブユーザー率は、直近の1週間で7割以上という高さだ。1日のコミュニティトピックコメント数は100 - 200と多い一方、全体での日記投稿は5件前後となり、一般のSNSのように日記ベースの利用ではなく、コミュニティでの情報共有が中心の使い方となっていることがわかる。メッセージは50 - 100、Wikiの書き込みは10 - 50、スケジュール設定は100 - 200くらいと、全体にかなり高い利用率だ。

全社導入の際には、全体的に社員が若いのでそれほど問題にはならなかったが、他社同様、年長者のITリテラシにやや問題があったそうだ。また、従来、書類に書いてきたことをネットに移行することに心理的な抵抗をもつ層もいたという。全社的にmixiなどを経験しているメンバーがあまりおらず、SNSの入り口がこのシステムだったという人が多かったため、使い方に指導を必要とした人もいた。

しかし、プロジェクトごとに意識の高い人が必ず存在し、「トピックに書いておくので見ておいて」「トピック見ました?」などと言われることで引っ張られ、徐々に全体が使うようになっていったという。当初は4割だったログイン率が、それほど時間もかからずに7割にまで上がった。今では、出産のため在宅で仕事をしているメンバーが、SNSを通じてプロジェクトに関わるなど、ますます社内に浸透してきている。

将来的には、大学の先生と高校生たちが直接やりとりできるような塾SNSも考えているそうだ。「生徒は未成年なので導入は慎重にしなければなりませんが、なるべく"本物"に出会う機会を設けて、将来の目標を見つけてもらいたいですね。まずは卒塾生用に導入する可能性が高いと思います」(同氏)。

SNSと言えば人と人とのつながりがメインと思われているが、早稲田塾での導入例は、そこにこだわらない新しい使い方だと感じた。既存の枠にとらわれなければ、SNSはまだまだ利用の可能性が広がっていきそうだ。