日本SPセンターは、広告企画/制作や広告戦略を事業として展開する広告制作会社だ。同社は、社内SNS内で動画を積極的に使用するなどしてITリテラシの底上げを図っているという。導入から現在まで、ファシリテータとして日々試行錯誤してきたという同社ディレクターの薗田覚氏に話を聞いた。

「社内SNSでしたいこと」をピックアップし比較検討

日本SPセンター ディレクター 薗田覚氏

日本SPセンターは、コピーライターやプランナーが営業を兼ね、デザイナーがプランナーを兼ねるというユニークな広告制作会社だ。社員数は100名ほど、本社は大阪にあり、東京には支社がある。あくまで「モノを売るための広告」が社是だ。

薗田氏は、3、4年前に人事教育部となり、ナレッジマネジメントに力を入れる業務に就く。ナレッジマネジメントと言えばそれまで研修会がポピュラーだったが、もっと効率的な方法を検討するなかで、"社内SNS"という選択肢が視野に入ったという。しかし、同氏はそれまでブログやSNSを利用した経験がほとんどなかった。そこでまず、mixiを利用している人たちにヒアリングするところから始めたという。その後、SNSに関する書籍を読むことで成功事例と失敗事例を学び、2007年5月からテスト導入を開始した。

導入に際してはまず、「自社で何のために社内SNSを導入するのか」「導入したのち、したいことは何か」を洗い出した。「予算内で実現するためにはどこの製品がベストなのかを、ブログも含めた各社のSNS製品とサービスを自社内で比較検討したところ、一番イメージに近かったのがビートコミュニケーションのビートオフィスだった」(同氏)という。SPセンターの規模の割にはコスト高とも思えたが、求める機能や、成功に不可欠と感じていたデザイン性を持っていたのが採用の決め手となった。同社のようにやりたいことを事前に明らかにしておけば、SNSにするかブログにするか、どこの製品を選ぶかという悩みもすぐに解決できそうだ。

薗田氏のマイページ。日本SPセンターではビートコミュニケーションのビートオフィスを採用した。求めていた機能性が網羅されていたことと、インターフェイスのデザインが導入の決め手だったという

ブログより「人の顔」が見えるSNS

ブログではなくSNSを導入することに決めた決定的な理由は、「人の顔や人格こそが大事」と感じたからだった。同じ会社でも勤務地が違えば出張でもない限り顔を合わすことはなく、大阪にいると東京のことがまったく人ごとに感じられていた。「(社員が)日々一緒に過ごしていないということはネックとなっている。今必要なのは、単なる情報として知識や悩みを伝え合うことだけでなく、それを持っている人と知り合うことこそが大切であり、それによって暗黙知が生まれるのではないか」と考えたのだ。また、同社ではコピーライターやプランナーが営業まで行うため、非常に多忙で、研修でも人を集めづらいという問題があった。これをオンラインで解決したいという考えもあったという。

毎年の社のイベントは大阪本社でしていいたが、東京からは役職者だけが呼ばれ、若い人は呼ばれなかった。2007年にはじめて全員を大阪本社に呼んだところ、東京の若手が大阪の先輩が作ったものを見て感心したり、逆に大阪の先輩が東京に入った有望な若手を知って会社の将来に期待を抱いたりという交流が生まれた。知り合うことのプラスの効果を改めて確認した同氏は、SNSの意義を強く確信したという。

「あおりちらし」とキラーコンテンツで全社導入成功

導入の際に心がけたことは、「全員に強制させてはいけない」という点だった。同社にはグループウェアがあるので、勤怠などの仕事上の情報を共有するツールはすでに持っている。ただグループウェアは業務連絡が中心であり、全員強制参加ということもあって堅苦しく感じられ、社員が自発的に見る雰囲気に欠けていた。そこで今回は、できるだけ柔らかいイメージを心がけた。

登録者は取材時の11月時点で社員全体の9割くらいだという。招待制を採っているが、訴求力があるコンテンツが出た時は未登録者に再度声をかけるようにしている。SNS内で業務連絡はいっさい行わない。ただ、チーム主導でスケジュール機能を自主的に使ったりする場合などは特に規制していない。ファシリテータは、薗田氏が一人でこなす。基本的に毎日様子を見るようにしており、時折、1ユーザーとして書き込みもする。

導入時はまずテスト期間を設け、30名のメンバー限定で社内SNSを開始した。管理層はあえて入れなかった。管理層は35歳以上で経営責任を持っている人たちなので忙しい上、東京勤務者も大阪本社から転勤した人が多く、すでに社内全体をある程度わかっているためだ。社を知る必要があるのは若手と考え、部門的にバランスを取りながら人選した。

SNS開始時に同氏が作成したのは社内SNS用「あおりちらし」だ。社内SNSに期待を持たせ、意識を喚起することを心がけた。注意した点は「人の顔を出す」こと。「"こんな人がこういうことを語るんだ"と知ってもらいたくて、顔写真を出すことを徹底しました。自分が情報発信する際も、名前だけでなく顔を入れるようにしています。名前だけのときと顔写真が付いているときとでは、受け取る印象が違うと思うのです」(同氏)。

できるだけ多くの社員に参加してもらうため、薗田氏自らがデザインしてチラシを作成、社内に配布した(ちなみに薗田氏はデザイナー職ではない。チラシ作成は企画書と同じ要領で、パワーポイントによるもの)。「デモデモ」は同社内SNSの名称で、「"誰でも、何でも、デモンストレーション"から名付けた」(薗田氏)という

しばらくは薗田氏が全員を招待していたが、参加者が新たな社員を自発的に招待するという具合に広がっていった。ただ、それでは参加者どうしが全員を把握できないと考えたため、管理者による強制登録のコミュニティを作り、現在の参加者一覧が見られるようにした。

セキュリティ上、家や携帯からのアクセスはやめるようにしているが、実際これまでトラブルは起きていない。そして、特に問題もなくテスト期間を2カ月ほど過ぎたころ、社の40周年を記念しての社内旅行の実施が決定した。「社内旅行用のオフィシャルサイトを作ったらキラーコンテンツになると考えて、一気に全社導入を決めました。これをきっかけにSNSを見始めたという人は多いです」(同氏)。

次回は「さすが、広告制作会社!」と思わせるようなクォリティの高い動画コンテンツの展開などについて聞く。

【基本データ】

  • 特徴: 動画を使いこなす社内SNS
  • 使用製品: ビートコミュニケーション ビートオフィス
  • 使用開始時期: 2007年5月~
  • 利用者: 101名(OBOG含む、全社員の9割) (2007年12月時点)
  • ファシリテーター: あり(1名)
  • 参加方法: 招待制
  • アクティブ率: 3 - 4割
  • 日記: 1日5本程度