この9カ月間、睡眠モニタリングを行いながら、どのような生活習慣が睡眠の質を引き上げることになるのかについて実験を行ってきた。取り組みはいくつか行ったのだが、確実に睡眠の質と相関性がありそうだと感じたのは主に4つの方法だった。これまでそれらのうち、「就寝前の食事」「就寝前のお酒」「夕方からの光り制御」を説明してきた。睡眠モニタリングからの結果は今回が最後だ。今回は「運動」を取り上げる。
運動で眠りやすくする
運動して体を動かすと夜眠くなりやすいことは、多くの方が経験していることだろう。特に長時間運動したり、強度の高い運動をしたりした日は、夜になるとかなり強い睡魔が襲ってくるのを感じたことがあるのではないだろうか。
以前「スマートウォッチの心拍ゾーンを使いこなそう - ビジネスマンも必須」で取り上げたが、世界保健機関(WHO: World Health Organization)が2020年末に公開した「World Health Organization 2020 guidelines on physical activity and sedentary behaviour - PubMed」によると、ビジネスマンに相当する年代(18~64歳)が健康になるための運動量は、週に150~300分の中強度運動とされている。週に300分以上の中程度の運動や、週に2回以上の中強程度の筋トレも行うとさらに上の健康を目指すことができると言われている。
「中強度の運動」は約3~6METsの運動と考えられており、スマートウォッチを使った計測によればゆるめのジョギングがこれに相当する。毎日30分、週末に1時間のジョギングをすればこの目標をクリアできる。健康と高い相関性が見込めるというのだから、毎日この量の運動はなんとかしていきたいところだ。
実際にどの程度の変化があったか
実際この9カ月間でどの程度睡眠の質が改善したかは
実際この9ヶ月間でどの程度睡眠の質が改善したかは前回に示したとおりだ。計測を始めた2020年8月と2021年4月を比較すると次のようになった。
結果を表示まとめると、次のようになる。寝るまでの時間が約2時間ほど早くなり、睡眠時間が約30分ほど伸びた。
2020年8月 | 2021年4月 | |
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平均入眠時刻 | 1:56 | 23:50 |
平均睡眠時間間 | 6時間20分 | 6時間52分 |
平均睡眠スコア | 66 | 69 |
運動はスマートウォッチ(Polar Vantage V2)を使った計測を始める前から習慣的に行っていたので、上記の結果にはそれほど反映されていないと思う。筆者の場合、睡眠の質に特に影響を及ぼしたのは「就寝前の食事」と「就寝前のお酒」であり、就寝時間と睡眠時間に関与したのは「夕方からの光り制御」だった。
筆者の場合、運動はどちらかというと「就寝時間と睡眠時間」、さらに「睡眠の中断」に影響する傾向があった。運動量が多かったほど早めに就寝し、睡眠時間は長めで、睡眠の中断が短い傾向があった。
運動の時間帯で影響が異なった
ひとつ興味深い結果となったのは、運動をする時間帯による影響の違いだ。主に次の時間帯で運動をしてみた。
- 朝食前、ないしは朝食後
- 昼食前、ないしは昼食後
- 夕方以降
もっとも睡眠の質に関与したのは夕方以降の運動だった。夕方に強度の高い運動をした日は、睡魔が襲ってくるタイミングは普段よりも早くなり、睡眠も深く、睡眠の中断は短い傾向が見られた。考えてみると当然のことかもしれないが、肉体が疲れているとよく寝れるようだ。
逆に、寝起きに運動したり午前中に運動したりした場合、それほど効果は出なかった。これは日中に体力が回復してしまうためかもしれない。
寝る前にあまり強度の高い運動をすると睡眠の質が下がるということが言われることもある。交感神経が優位になってしまい沈静化が進まず、副交感神経が活性化しないというロジックで説明されることが多い。この寝る前の強度の高い運動がどの程度の運動を指しているのかわからないが、少なくとも著者が試した範囲では、夕方以降の運動は睡眠の質を高める効果があった。
睡眠の質を上げるには、実際に試してみるのが一番だ
毎日元気に仕事をするには、当然ながら健康が欠かせない。健康にはバランスの良い適度な食事、適度な運動、十分な睡眠が必要だ。睡眠によって心身が回復することは広く知られており、質の高い睡眠を取ることは誰しも望むことだ。
睡眠の質を上げるためのライフハックとして、世の中にはさまざまなものがあふれている。運動もあるし、食事法もある。それぞれに考え方があるのだが、必ずしもそのライフハックがその人にとって効果があるとは限らない。生活は人それぞれなので、そもそも紹介されているライフハックの効果が見込める状況ではないかもしれないし、既にその効果は出ていてさらなる改善は期待できないかもしれない。
結局のところ、睡眠のモニタリングを行って確実に睡眠の質が上がる方法を探すのが、睡眠の質を上げるもっとも確実な方法ということになる。
スマートウォッチが計測する睡眠モニタリングデータの読み方については、次の記事で説明を行った。
- スマートウォッチでデータ分析をしよう(13) スマートウォッチの睡眠トラッキングログを読めるようになろう | TECH+
- スマートウォッチでデータ分析をしよう(14) スマートウォッチの睡眠データで「自律神経」データも見よう | TECH+
最近のスマートウォッチは、睡眠モニタリングの機能を備えているものが多い。Apple Watchを使う場合は充電のタイミングを工夫する必要はあるが、毎晩の睡眠モニタリングが実施しやすい状況にあるのは間違いのないところだ。
睡眠の質を高めたいと考えているなら、実際に自分の睡眠モニタリングデータを取り、生活習慣と睡眠の質にどのような関係があるのか、自分のデータを調べてもらえればと思う。よい睡眠はよい生活の基盤だ。ぜひこの機能を活用してもらえればと思う。