理想の睡眠時間は?

元気に仕事をするには、疲れを睡眠できっちり回復させることが大切だ。ただ、長く寝ればよいかといえば、そんなことはない。睡眠は長すぎてもよくないし、短すぎてもよくないと考えられている。では、推奨される睡眠時間はどれくらいかというと、最近では「適切な睡眠時間は人それぞれ」と考えることが多い(なお、統計的に平均睡眠時間や年齢別の推奨睡眠時間というものはある)。

そこで、スマートウォッチの出番だ。スマートウォッチは「自分用の睡眠時間」を調べる上で効果的だ。睡眠にはある程度の傾向があり、心身が回復したかどうかをある程度可視化できる。スマートウォッチで自分の睡眠を可視化すれば、自分用の睡眠時間を模索しやすくなるというものだ。

ここでもうひとつ考えたいことがある。睡眠を考える時、睡眠時間という「量」だけではなく、その中身が回復に適したものになっているかどうかという「質」を調べることだ。

例えば、普段は5時間寝ると目が覚めてしまう人もいるだろう。週末に8時間くらい寝た時、寝起きがスッキリしていたこともあれば、8時間寝たのにどうも回復した気がしなかったこともあるんじゃないだろうか。これは睡眠の質に違いがあるためだ。睡眠時間という「量」が増えても、その中身である「質」が伴わないと効果が薄くなる。十分な時間寝ることができ(量)、かつ、その中身が回復に適したものだった場合(質)、十分に回復を感じられる。

スマートウォッチの睡眠モニタリング機能はデバイスによって多少性能が異なるのだが、ある程度は同じようなデータが取得できる。今回は、スマートウォッチでどのような睡眠モニタリングができるのかを取り上げ、スマートウォッチを使った睡眠モニタリングのイントロダクションとする。スマートウォッチの機能を知り、睡眠のモニタリングを始めてみよう。

スマートウォッチで調べる「睡眠」とは

ここ2、3年の間に販売されたスマートウォッチには睡眠をモニタリングする機能が備わっているものが多い。フラッグシップモデルは当然だが、エントリーモデルにも搭載されることが増えている。

スマートウォッチでは主に次のセンサーを使って睡眠のモニタリングが行われる。

  • 光学式心拍計
  • 加速度センサー

光学式心拍計から得られたデータは心拍数、心拍数変動、呼吸数などに整理される。これに加速度センサーから得られた動きのデータや、過去のユーザーデータなどが加えられる。最終的には、睡眠について次のようなデータが提供される。

  • 睡眠時間の計測(睡眠開始の検出および起床の検出)
  • 睡眠ステージと長さの計測(浅い睡眠、深い睡眠、レム睡眠)
  • 睡眠の中断回数と長さの計測
  • 自律神経の沈静化具合の計測

自律神経の沈静化具合までモニタリングして表示してくれるスマートウォッチはそれほど多くないが、睡眠時間や睡眠ステージ(浅い睡眠、深い睡眠、レム睡眠)と睡眠の中断に関してはモニタリングして表示してくれるスマートウォッチは多い。デバイスによっては計測結果のみならず、その整理したデータを過去の自分の睡眠や統計データに基づいてスコアを付けてくれるものもあり、どの程度「よい睡眠」がとれたか簡単にわかるようにしてくれるものもある。

スマートウォッチが計測するこれらデータを分析することで、自分の睡眠がどのような状態にあるのか、体力の回復はできているのか、自立神経は回復しているのか、頭はリフレッシュできているのか、睡眠の効果を引き上げるにはどういったことをすればよいのか、といったことを検討できるようになる。

睡眠の量と質は可視化さえできれば、長期にわたって改善に取り組むことができる。睡眠の量と質の向上はそのまま生活や仕事の質として跳ね返ってくるのだ。ぜひとも早めに取り組みたい。

睡眠ステータスで身心の回復を見る

睡眠モニタリング機能を備えたスマートウォッチの多くが睡眠ステージを可視化して教えてくれる。次のスクリーンショットはPolar Vantage V2で計測した睡眠のうち、睡眠ステージと中断に関するデータをアプリ(Polar Flow)で見たものだ。

  • 睡眠ステージと中断 - Polar Flow

    睡眠ステージと中断 - Polar Flow

筆者の場合、上記のデータからこの日の睡眠については次のような状況がわかる。

  • 睡眠時間は十分だが、普段よりも中断時間が若干長く、何度か目が覚めている
  • レム睡眠が若干少ない
  • 深い睡眠が若干少ない

自身の体感も含めて、このデータについてまとめると「十分な時間寝てはいるもの、いつもより身心の回復が浅く、ときおり短く目が覚めるなど満足感がいまいち」といった感じになる。寝起きにこの結果をぼけーっと眺めつつ、これまでの生活と比較して、前日の夕方に何かしら体を動かしておくべきだったかな、といった改善案が得られる。

筆者の場合、入眠後に1時間くらいの比較的長い「深い睡眠」に入ることが多い。それと比べると、この日は1つ目の「深い睡眠」の時間が短く、身体の回復があまり進んでいない可能性が見えてくる。こんな感じで睡眠ステージが読めるようになると、睡眠の改善案も見えやすくなってくる。

Garmin fēnix 6Sで計測したデータをアプリ(Garmin Connect)で見た別の日の睡眠ステータスは次のようになる。

  • 睡眠ステージと中断 - Garmin Connect

    睡眠ステージと中断 - Garmin Connect

  • 睡眠ステージと中断 - Garmin Connect

    睡眠ステージと中断 - Garmin Connect

Garminの睡眠ステータスはPolarと比べると荒いのだが、ポイントを押さえると、睡眠の良し悪しが判断できるようになる。

まず、睡眠にはサイクルがあり、一晩の間に「浅い睡眠→深い睡眠→レム睡眠」という流れを4回から5回ほど繰り返す。サイクルの中にも傾向があり、深い睡眠は睡眠の前半に発生しやすく、レム睡眠は睡眠の後半に発生しやすいと言われている。

深い睡眠では主に身体の回復が行われると考えられており、筋肉の発達や免疫システムのサポートなどが行われるという(深い睡眠は記憶力や学習能力にも影響があると考えられている)。レム睡眠は心的な回復が行われ、記憶力や学習能力を伸ばす効果があると言われている。浅い睡眠には双方の効果があると考えられているものの、効果としては深い睡眠とレム睡眠の方が主要だとされている。

このように、睡眠ステージにはそれぞれ回復の効果があるので、自分の睡眠ステータスを視覚化できると、身体の回復は十分に行われているのか、心的な回復は十分に行われているのかを知ることができる。ただし、深い睡眠とレム睡眠は長ければ長いほどよいというものでもなく、睡眠時間のうち適切な割合になっているかどうかが大切だと言われている。

上記のPolar Flowのスクリーンショットを見ると、時々オレンジ色のバーが出ていることがわかると思うが、これは睡眠の中断を表している。睡眠中に中断が起こることは日常的なもので、中断時間が短い場合には起きていたことを思い出せないことが多いという。90秒を超える長い中断も毎晩起こっており、平均で15分は長い中断だと言われている。中断時間が短いほうが睡眠の質が高いそうだ。

こんな感じで睡眠ステージと中断を見るだけで、自分の睡眠がどの程度の質であるかを判断できる。疲れも感じず日中に眠くなることがないのであれば、例えば睡眠時間が短かったとしても「質」が伴っており、問題のない可能性がある。逆に、睡眠時間は長いのに質が低ければ、その睡眠には改善の余地があることになる。

自律神経ステータスで自立神経の回復を見る

睡眠でもうひとつモニタリングしたいのが自律神経ステータスだ。次のスクリーンショットはPolar Vantage V2で自律神経ステータスをモニタリングした結果をアプリで表示したものだ。夜間に自律神経がどれだけ沈静したかを表している。

  • 自律神経ステータス - Polar Flow

    自律神経ステータス - Polar Flow

Polarでは自律神経ステータスのモニタリングに心拍数、心拍数変動、呼吸数を使用しており、これら値が通常レベルとどの程度違っているかをベースに判断を行っている。心拍数変動が高いほど副交感神経の活動が活発であることを示すとされており、健康状態、有酸素運動レベル、ストレス耐性などが優れた状態にあるとされている。この値は個人差が大きいため、個人の通常レベルと比較する必要があるとされている。

自律神経ステータスまでモニタリングするスマートウォッチはまだそれほど多くないようだが、睡眠の質を上げるためにはぜひ考えておきたい機能だ。睡眠ステータスから量と質は十分なのに、なぜか寝起きがスッキリしないとか、目がバッチリ覚めるのに日中に眠くなるという場合、自律神経ステータスを見てみたい。自律神経が十分に回復していない可能性がある。

自律神経ステータスも可視化さえできれば、日々の生活と数値とを比較することで、自律神経回復がよい時の生活パターンと悪い時の生活パターンがわかってくるようになる。そうなれば、自律神経が回復しやすい生活が明らかになる。可視化することで、睡眠の質を向上させやすくなるのだ。

睡眠モニタリングを始めよう

睡眠モニタリングの方法はスマートウォッチごとに違うので、基本的にはそれぞれのデバイスのマニュアルに従って作業を行う必要がある。しかし、ある程度準備と計測の方法は似ているので、簡単にここでその方法をまとめておく。

  1. 理想とする睡眠時間を設定する。だいたい7時間〜9時間の間で設定を推奨されることが多い。
  2. いつも寝ている時間帯を入力する。この値はスマートウォッチが入眠および起床を判断する時の材料として使われる。
  3. 睡眠モニタリング機能を有効化する(継続的に心拍計機能を動作させるモードを有効化する)。

睡眠モニタリング機能を有効化すると、入眠と起床は自動的に判断されることが多い。特に入眠に関しては自動的に判断されることが多い。起床も自動的に判断されるが、起床したかどうかをスマートウォッチが確認してくると思うので、それに対して「YES」を選択すればよい。寝起きに寝ぼけたまま起床したことをスマートウォッチに返事をするというのが日常になるはずだ。

睡眠モニタリングは基本的に普段の自分の睡眠と比較を行う必要があるので、一晩だけでは計測値が表示されないデバイスもある。数日間続けて睡眠モニタリングを行うことで、数日後にやっと睡眠ステータスが表示されるといった感じだ。また、入眠の数時間前からスマートウォッチを着けていないと適切に計測されないデバイスもある。基本的にスマートウォッチは着け続けることで、適切に機能するデバイスだ。睡眠時だけ計測するといった使い方はあまりうまくいかないのだ。

また、睡眠時間には最低時間があり、短すぎると睡眠とみなされない。最低で4時間は必要なケースが多いと思う。これは入眠してからの4時間のモニタリングが睡眠ステータスを判断する上で重要であり、かつ、この時間に深い睡眠がやってくることが多いからだ。

睡眠モニタリングを実施するにあたり気をつける項目をまとめると次のようになる。

  • スマートウォッチは着け続けていること。睡眠時だけ計測するというのはうまくいかない可能性がある。
  • 睡眠時間はある程度の長さが必要(一般に4時間以上)。
  • 十分に充電しておくこと。一晩中計測するため、Apple Watchのようなスマートフォンタイプのスマートウォッチはバッテリーが尽きる可能性がある。睡眠までに十分充電し、計測し続けることができる状態にしておくこと。

睡眠時間帯を設定するとなると、シフト制の仕事で睡眠時刻が不定の人は使えないような気がするが、そうでもない(もちろんデバイスによるが)。スマートウォッチは一日の中で最も長い睡眠時間を「睡眠」とみなして処理を行う。昼寝は短い睡眠とみなされ「睡眠」としては処理されなかったりする。

睡眠データも取り続けることが大切

デバイスによって異なるのだが、ユーザーの普段のデータや過去の睡眠データを使って睡眠分析を行ってくれるモデルを使っているなら、ともかく睡眠データを取り続けることが大切だ。データをとり続けることで分析結果が正確になるし、自分の睡眠が長期的にどのように推移しているのかを知ることができ、そしてどのように変えていくのかを考える材料とすることができる。

  • 過去半年間の睡眠ステータス - Polar Flow

    過去半年間の睡眠ステータス - Polar Flow

  • 過去半年間の睡眠ステータス - Polar Flow

    過去半年間の睡眠ステータス - Polar Flow

誰しも睡眠の量と質は上げたいと考えると思う。やはり寝起きがスッキリしていて日中に眠くならないというのは気持ちがよいものだ。

最近のスマートウォッチが搭載している睡眠モニタリング機能は光学式心拍計と加速度センサーから得られるデータを使って睡眠状態で推測し表示するというものだ。この機能が注目に値するのは、「睡眠の良し悪し」を、推測値であれ、数値で比較検討できるようになる、という点にある。

例えば、寝起きに調子が悪いと感じた時、その調子の悪さをスマートウォッチが(デバイスに依るのだが)目安の数値で教えてくれる。そうしたら前日の行いや寝る前の振る舞いを思い出して、何が調子の悪さにつながったのかを考えやすくなる(飲みすぎ、食べすぎ、遅くまで連続ドラマや映画を観ていた、など)。

睡眠モニタリングがこれほど簡単にできるようになったのはここ数年の話だ。コンシューマー向け機能としての睡眠モニタリングの性能や分析機能は今後徐々に進歩していくことが予測される。しかし、現在のモデルでも結構なところまで推測して表示してくれるので、これを使わない手はない。

今回はスマートウォッチが提供している睡眠モニタリング機能について大雑把にまとめた。次回は睡眠ステージについてもっと詳しく説明しようと思う。睡眠ステージをより具体的に読めるようになってくると、自分の睡眠をどのように変えていけばよいか検討しやすくなる。ぜひともこの機能を活用していこう。