アイ・ダイアグラム

インターオペラビリティ(相互運用性)確保のためには、物理層が信号として、信号レベル、ジッタなどの仕様を満足している必要があります。

これらを1つひとつ定量化することも必要ですが、簡単に確認する手法が、ここでご紹介するアイ・パターンとも呼ばれるアイ・ダイアグラムで、後でご紹介するマスク・テストと合わせて、コンプライアンス・テストの中核と言えます。

アイ・ダイアグラムは、ビット単位(Unit Interval)ごとに信号を切り出し、重ね合わせた表示で、目のような形状になることからその名が付きました。下記のような伝送特性を総合的に表現できるということで、オシロスコープやシミュレーションなどの結果評価にも用いられています。

  • 信号レベル
  • 立上り時間、立下り時間
  • オーバシュート、
  • アンダーシュート、
  • リンギング(リングバック)
  • デューティ・サイクル、UI
  • ジッタ、ノイズ

アイ・ダイアグラムはパッチリ開いていれば、ノイズ、ジッタに対する耐性増加・受信特性も良好になります。しかしながら、トップ、ベース部分が太くなったり、遷移部分が広くなったりするので、受信特性を直感的に把握できます。

実際にアイの開き具合はビット誤り率(BER:Bit Error Rate)と関係します。今日のオシロスコープはデジタル化されたデータを処理するので、切り出し重ね合わせる波形データで垂直、時間、さらに頻度情報のデータ・ベース化することで、濃淡(グレー・スケール)や色分けして表示することで、視覚的にノイズやジッタの状況を捉えることができます。また、あるレベルや時間で切り出し、ヒストグラム化し処理することで様々なパラメータを取り出すことも可能です。

ここで重要なことは、アイ・ダイアグラムの基準、すなわちビットの切り出す基準は、データではなく受信側でリカバリされたクロックが基準であるということです。詳細は後述します。

オシロスコープでのアイ・ダイアグラムの表示方法にはいくつかありますが、最近ではリアルタイム・オシロスコープを使い、連続したデータを単発で取り込み、ソフトウェア的にクロックをリカバリし、波形を切り出し、重ね合わせて表示する方法が主流です。

図1 アイ・ダイアグラムの構築原理

マスク

もう1つのコンプライアンス・テストの中核がマスク・テストです。Ethernetではテンプレート・テストとも呼ばれています。

信号レベル、ノイズおよびジッタ、パルス特性の許容範囲、つまり最悪値(違反ゾーン)を規定した多角形のマスクを使い、アイ・ダイアグラムが許容範囲内にあるか確認、あるいは合否判定します。もし違反があった場合(マスク・ヒット)、信号の該当箇所を探せる機能を提供している場合もあります。

マスクは規格および測定箇所ごとに規定されています。通常、菱形や6角形のマスクが用いられていますが、100BASE-Tなどの多値伝送ではいくつもの多角形を組み合わせたマスク、1000BASE-Tではパルス特性のマスクが使われます。

信号のマスクに掛かった箇所を表示している例

図2 100BASE-Tのマスク

図3 1000BASE-Tのマスク

アイの高さ

アイの高さ(Eye Height)とは、振幅方向におけるアイ・ダイアグラムの開口高さのことです。これはレシーバ回路の実際のサンプル・ポイントでの電圧マージンを表すため、非常に重要な測定値です。通常、測定は0.5UI(Unit Interval)ポイントで行われます。

差動振幅測定

まず、信頼できる状態で伝送媒体を通過し、受信回路に適切な「1」または「0」を伝達するためには、信号は正しい電圧レベルと安定性を実現していることが重要です。

高速化のために小振幅化・差動信号を使用しており、D+、D-など一対の互いに逆極性の信号で伝送します(図3)。そのため、ピーク間差動電圧(D+、D-間の差分)仕様があります。これは、

  • トランシーバ:正しい電圧レベルを送信していることの保証。
  • ボードなどのモジュールが切り口になるのであれば、モジュールの出口で正しい電圧レベルを出力していることの保証

です。最小電圧が確保されており、伝送路損失が規定された範囲内であれば、電圧面で信号がレシーバに到達することが保証されます。

参考

信号の高速化にともない、伝送路損失の影響を大きく受けることになります。そのため、もしトランシーバの出力を測定するためには、低損失の基板を使ったり、測定結果からチャンネル損失分を補正したりなどの工夫が必要となります。

コモンモード電圧測定(AC、DC)

差動信号D+、D-間のコモンモードの不均衡とノイズにより、差動信号が0Vに対し非対称となるなど、好ましくない影響が生じる可能性があります(図4)。差動信号をシングルエンドとして扱いトラブルシューティングすると、役に立つことがよくあります。この手法では、差動ペアの片方に誘導される可能性があるクロストークやノイズの影響も特定できます。

図4 差動電圧・コモンモード電圧測定

著者
畑山仁(はたけやま・ひとし)
テクトロニクス社 シニア・テクニカル・エクスパート