このコラムもついに最終回を迎えました。この場を拝借し読者の皆様に心から深謝します。

2012年1月中旬、ハーバード大学に世界13カ国(インド、スペイン、トルコ、アイルランド、ギリシア、アルゼンチン、オーストラリア、カナダ、イギリス、ナイジェリア、メキシコ、アメリカ、日本)から最低20年以上リーダとしての実績に富んだ28名の精鋭が「2012 Harvard Advanced Leadership Fellow」として結集。各フェローはそれぞれが独自にテーマを決め、約一年間研修と研究に励む事となった。

魅力的な2012年度ハーバード大学フェローたち

2012年度ハーバード大学フェロー(特別研究員)グループは男性19名、女性9名で構成され、フェローの平均年齢は60歳プラスアルファ。ちなみに最高年齢は70歳を超している。高年齢は生涯学習の妨げには決してならないことを、このフェローが身を以て実証してくれたことに感謝している。

インド出身の多少頑固なMahendra Bapnaとは、ほぼ毎週スーパマーケットへ一緒に片道25分を費やし、歩いて食料品を仕入れに出かけた。

彼はインドTataグループの2社(車軸と重車両の変速機)のCEOとして長年会社の繁栄に尽力した苦労人である。買い物の帰り道、幾度も自分の研究テーマに関し意見交換を行った。彼は帰国後、インドの大学や大学院と連携し、起業家養成コース(Entrepreneurship MBA)を新設することに、今後は情熱を注ぐ。

28名のフェローのうち、著者を含め6人は共通の価値観を基にTrue North Groupを結成し、毎週木曜日午後7時にフェロー仲間の住居に集い、今まで他人には明かせなかった事柄を、個々の判断で勇気を持って打ち明け、そして現在抱えている問題点について、真剣に解決策を語り合った。夏休み期間中もTrue North Group Meetingは続行し、卒業後も夫々活動拠点より参加し、今後も継続する計画だ。

David Wingは35年以上に渡り、米国大手航空会社の財務畑に携わり、2011年にUnited Airlinesの副社長兼監査役のポジションを退いた。61歳のDavidはKFC創業者、カーネルサンダースの風貌を備えた壮快な男で、彼の大きな笑い声にいつも魅せられる。彼は全米で激減しているサンゴ礁を保護するNPO法人を設立し、活動を開始する。

カナダの首都オタワからやって来たAlain Martinは、自らの研究成果として生み出したProject/.Time Management理論などの推奨者でありダンディな理論家。オタワにハーバード大学認証のプロフェッショナル養成スクール「HARVARD」を設立し、現在も理事長を兼務している。彼は先日MITで博士課程の学生を対象に講義を行ったので、私もMITの学生に混じって聴講させてもらった。慈愛に富んだAlainは、会議やセミナーなどで余ったポテトチップス、クッキー、リンゴなどを、ハーバードスクエアに屯っているホームレスに配給する。彼に同行し私も3回慈善活動を行った。

Dr. Reyes Guerraは大型力士のような体格の持ち主で、メキシコの文部大臣を務めた南米の教育業界では著名な教育者であり、元政治家。人望が厚く、彼のチャーミングな人柄は人々を魅了する。彼は失業中のメキシコの若者を対象に教育を与え、若者の雇用促進活動を志す。11月下旬、彼は心臓病で突如倒れ、2012年12月時点で入院中だ。一日も早い回復を願う。

オーストラリア出身のDr. Cynthia Hollandは弁護士資格を有するMD(Medical Doctor)である。彼女が患者に接せる際にみせる姿勢を思い浮かべると、真のプロフェショナルとしての風格を垣間見る。オーストラリア訛りの彼女の英語に、米国人のフェローでさえ時々顔にしわを寄せるのを観察するのは愉快だ。彼女は日々の診療に加え、親をがんで亡くした子供たちを支援するProject-My Kite Will Flyの遂行に誠心誠意挑んでいる。

米国ブラウン大学卒、UCLA MBAの学歴の持ち主でブロンドヘアがとても似合う聡明な美人、Linda Skipは旦那がフェローの一員。几帳面な彼女はTrue North Groupのコーディネーターの役を率先して担ってくれた。グループ一人ひとりへの心使いは抜群で、メンバーの話を冷静に傾聴し、そして賢明な判断を下せる女性だ。彼女は親友と連携し、難解な医学用語を誰もが容易に解釈できるようは簡易用語に変換し提供するサイト、SimpleSpeakMEDの立ち上げに奮闘中である。

2013年6月にTrue Northのメンバー全員を含め大勢のフェロー仲間が来日する予定である。今から再会が楽しみである。

以上が私の素晴らしい仲間達のほんの一部である。

2012年に行われたアメリカ大統領選の夜に撮影されたフェロー(筆者含む)並びに関係者との集合写真

ハーバードではフェロー以外の刺激的な人たちとの出会いも

この一年間、筆者を魅了した方々は大変多く、刺激的な日々を過ごすことができたが、その中でも次の3名をご紹介したいと思う。

2012年3月下旬、ハーバード大学院教育学部の教授80数名の一覧リストを眺めていて、唯一の日本人名、Hirokazu Yoshikawaに目がとまり、恐縮しながらも、簡単な自己紹介を添えて吉川教授宛にメールを送信した。間もなくして吉川教授から英語で返信があり、4月に初顔合わせが実現した。

初対面で打ち解け合い、互いをファーストネームHiro/Makotoと呼ぶようになった。その後、幸運にも3回吉川教授と会食を共にする機会に恵まれた。

とても温和でスマートなHiroさんは関西生まれの日本人で、幼少の頃、両親と共にニューヨークに移住。小学校低学年の頃は移民の中国人として扱われ、クラスメートからの屈辱に耐え抜いた経験の持ち主。

ニューヨーク大学の博士課程を卒業し、ニューヨーク大学院の教授を歴任、2008年にハーバード大学院教育学部の教授に就任し、2011年9月にハーバード大学院教育学部アカデミックディーン(学部長)に昇進。吉川ハーバード大学院教育学部長は我々日本人の大いなる誇りである。吉川氏は主に南米、チリ、ペルーまたは中国からの移民の子供たちの幼児教育が専門である。

右から2番目が ハーバード大学院教育学部教務学部長の吉川教授

教育政策博士である我喜屋まり子さんは夏の3カ月期間だけハーバード大学から出向し、東京大学グローバルヘルスリーダーシッププログラムのファカルティディレクター(教務長)として奮闘するパワフルで、そして優和な女性。同じ2012年のフェローの紹介により、6月に東京大学にて初対面を果たした。

多忙なまり子さんとは、その後もメールでのやり取りや、ハーバード大学周辺のカフェで再会を果たし、より一層親睦を深められたのは大きな喜びである。彼女はオクックスフォード大学院人的資源開発研究を経て、ハーバード大学経営、社会、政策学科博士課程を修了。2007年度稲盛フェローの3人に選出された沖縄出身の聡明な日本人女性で、2013年1月に予定されている彼女の来日が今から楽しみである。

男性のような名前、Dawn Millerは、ハーバード大学教育学部博士課程に身を置くジャマイカ出身の行動的な女性。

Dawnとは彼女がTeaching Assistantを務めたクラスで出逢い、彼女から色々なヘルプを得た。彼女は幼少の頃から、機械いじりが大好きな工学系の女の子であったという。MITで修士を取得後、一時はエンジニアの道を突き進むも、母国ジャマイカの子供たちへの一般教育の大切さに目覚め 、そして今は教育学に自分のすべてを託している。

とても朗らかでエネルギッシュな彼女、日本の梅酒が大好きで、機会があれば彼女を日本の居酒屋に案内してあげたいと思っている。大きな瞳を輝かせ、驚嘆する彼女の様子が浮かんで来る。

さて筆者であるが、日本の「超高齢化社会」に注力し、高齢者支援として"幸せな第二の人生"の実現を目指し、2013年春に長男と共同経営者となり、社会事業をスタートさせる。

まずは、大震災の被害地、三陸海岸沿いの岩手県の小さな町を拠点に高齢者を対象に支援活動を開始し、1人でも多くの日本の高齢者、そして近い将来、他国の高齢者の方々に充実した楽しい日々を過ごして頂けるような支援体制を確立する計画だ。

夢は叶うもの、そして叶えるものである。

最後に、過去数カ月にわたり、このコラムを読んでいただいた皆様に感謝したい。そして、いつの日が読者の皆様との出逢いがあることを楽しみにしたいと思っている。

著者紹介

川上誠
サンダーバード国際経営大学院修士課程修了。1979年 Intel本社入社。1988年ザイコ―ジャパン設立以降、23年間ザイログ、ザイリンクス、チャータードセミコンダクター、リアルテックセミコンダクターなどの外資半導体メーカーの日本法人代表取締役社長を歴任。そして2012年ハーバード大学特別研究員に就任