技術革新が加速し、ますます多様化するAI市場でGoogle(Alphabet)の存在が増している。
生成AIの登場以来、OpenAI、Microsoft、NVIDIAといったパイオニア企業の主導基調が目立ったAI市場だが、Googleが満を持してリリースしたGemini 3が主要なベンチマークで他を圧倒したことが話題になっている。さらにGoogleは自社開発のAIプロセッサー「TPU(Tensor Processing Unit)」の最新版も発表し勢いに乗る。
第7世代TPU“Ironwood”で存在感を増すGoogle
ChatGPTの登場とMicrosoftによる採用で、あっという間に広がった生成AI市場で、これまOpenAI/Microsoftのタッグチームに後塵を拝してきたGoogleだが、今回のGemini 3のリリースでそのポジションを大きく挽回した。
今回の発表では、推論、コーディングなどの広い範囲のベンチマークで、競合するOpenAIの「GPT-5.1」、Anthropicの「Claude Sonnet 4.5」との比較で、ほぼすべての分野で圧倒した。自社のベンチマーク結果の発表なので、多少バイアスはあるのかもしれないが、業界の評価は非常に高い。「ググる」という標準語が示すように、世界のユーザー数38億人ともいわれるChromeは、検索エンジンではダントツの存在感があり、AIモデルの新興企業とは比較にならない長年築き上げた顧客資産がある。GoogleはGemini 3をChrome上で展開することで、ユーザーはAI専用ブラウザ―なしにAI検索が可能となり、ユーザーに大きな付加価値を提供する。
今回の発表で大きく注目されたのが、自社開発AIプロセッサーの第7世代TPU、“Ironwood”である。特に推論分野での性能アップを意識して設計されたASICで、NVIDIA製品と比較して性能、コスト、消費電力で大きな優位性があるという。約10年前に囲碁の世界チャンピョン、イ・セドルに勝利し、世界に衝撃を与えたGoogle開発の「アルファ碁(AlphaGo)」は記憶に新しい。「アルファ碁」のハードウェアシステムには第1世代のTPUが使用されていた。Googleは、その後もAIアクセラレーターの開発を地道に継続し、その結果がこうした形で現れた事には、AI開発の先駆者Googleの強い執念と、新興企業が乱立する近年の状態への危機感があった事を感じる。
今回の発表と同時に「Metaが自社のデータセンターにGoogleの最新TPUの使用を検討している」という報道もあり、カスタムASICと言えども、かなり汎用性を持ったチップである事が伺え、他社が追従する可能性もある。
多様化するAIアクセラレーター市場
各社が技術革新を加速するAI市場では、ソフト/ハードともに常に新たな手法が試されているが、半導体アクセラレーターでは今までのところNVIDIA一強状態が続いている。NVIDIAの競合としては、同じGPUベースのアクセラレーターでAMDが追撃しているが、まだまだNVIDIAのポジションは揺らいでいない。その状況で、ビッグテック各社はNVIDIA/AMDの汎用品と合わせて、特定のタスクに特化した各社多様なカスタムASICを開発する方向性をとっている。
- Google:大量のNVIDIA製品を使用しているが、自社開発のTPUは世代交代を続け、現在では第7世代の“Ironwood”が使われている。データセンター仕様のアクセラレーターの他にも携帯端末であるGoogle Pixel用のエッジデバイスも開発されている。またCPUもArmベースの“Axion”が開発されている。
- Meta:NVIDIA/AMD製品とともに、自社開発の“MTIA”(Meta Training and Inferance Accelerators)がAIワークロードの処理に使用されている。現在GoogleのTPUの使用を検討している模様。
- OpenAI:NVIDIA製品の使用とともに、AMDとはInstinct MI450の大規模な購入契約を交わしている。これと並行して、Broadcomと独自チップ開発を進めている。
- Amazon:NVIDIA/AMDの汎用品に加えて、自社開発も進めている。深層学習用の“Trainium”と、推論用の“Inferantia”の開発が進行していて、すでに第2世代がデータセンターに使用されているほか、ちょうどこの原稿を介しているタイミングで3nmプロセス採用の「Trainium 3」が発表された。
- Micorosoft:クラウドサービスのAzureには大量のAMD Instictシリーズが使用されているが、独自チップの開発にも積極的である。AIワークロードには“MAIA(Azure Maia AI Accelarator)”が開発されていて、CPUも独自開発のArmベース“Azure Cobalt”も保有している。これらはCopilotのサービスにも使われている。
- Anthropic:“Claude”のAIモデル開発にはNVIDIAの汎用製品に加え、Amazonの“Trainium 2”の導入も決定している。また、GoogleともTPUの使用について検討に入っている模様。
各社とも、NVIDIA/AMDの汎用製品を大量に使い技術開発の加速を目指しつつ、コストと消費電力の低減を目的とした専用チップを自社開発し、高額の汎用品依存からの脱却を図ろうとしていることが伺える。
今後注目される中国の実力
NVIDIA/AMDをはじめ、米国系AI企業の独自半導体開発で共通しているのは、そのほとんどがTSMCの先端プロセスラインで製造されていることだ。しかし、今後さらに注目されるのが中国企業の実力だ。
今年は中国発のAIモデルの突然の登場、「ディープシーク・ショック」で明けたが、その後もAlibaba、Huwawei、Tencentらの大手企業に加えてスタートアップのCambricomなどのAI半導体開発のニュースが続いた。中国の国産AI開発が米国同様、かなり活発化していることが伺える。しかし、半導体チップの製造に関しては米国からの輸出規制に縛られ、TSMCの先端プロセスラインを使わずに7nm以前のひと世代前の製造技術で製造された半導体チップに頼らざるを得ない。こうした制約を受けながらかなり競争力のあるAIモデルの開発を成功させている点は大きな脅威である。こうした企業群が世界市場に打って出るのは時間の問題で、今後大きく注目される分野である。
ますます多様化するAI開発の最前線だが、AI市場の級数的な成長スピードはそれらをすべてのみ込む勢いがある。

