NVIDIAの決算発表は相変わらずの驚異的な伸びで、「AIバブル」を懸念した株式市場は一旦落ち着いたが、その後揺り戻しもあり不安定な動きを続けている。
毎四半期の発表前後でこれだけ多方面から注目される企業は未だかつてなく、それが米国の一半導体企業であることに、ある種の違和感を感じるのは私だけではないと思う。しかし、現代社会におけるAI/NVIDIAの経済・外交・社会構造・雇用・文化など多岐にわたる分野への影響力は絶大で、我々がAIをベースとする社会インフラの時代に本格的に突入していることを実感させられる。
前年同期比65%増の最高利益を記録したNVIDIA
今回のNVIDIAの決算発表(2025年8-10月期)は発表以前から観測記事が多数現れる異様な雰囲気に包まれていた。AI開発競争に巨額投資を継続する巨大プラットフォーマーのCEOたちのいくつかの発言は、表向きはAIバブルを否定しながらも、「過剰投資の可能性はあるかもしれない。しかし今投資しなければ競争から脱落することになる」という本音が見え隠れするものであった印象がある。各社とも巨額投資に見合う利益創出のビジネスモデルがまだ充分に提示されていない現実を株主から指摘されているからだ。その状況にあっても、巨大テックには技術開発・投資継続以外の選択肢はなく、引き続きかつてない規模の設備投資をAIデータセンターの構築に投じている。
NVIDIAの今回の決算はそんな業界の不安を払しょくするような相変わらずの快進撃で、前年同期比62%増の総売り上げ、65%増の純利益という圧倒的な強さを見せつけた。主力製品のBlackwellは総売り上げの9割を占め、新製品への市場誘導は順調に推移している。
これに加えて次期製品Rubinも市場からの大きな需要が見込まれ、すでに5000億ドル以上の受注がある事を明らかにし、来期を含む今後の成長に大きな自信を見せた。
もう1つ、市場関係者が注目しているのが、世界最大規模の中国市場である。今期では米政府による輸出規制により売り上げが立たなかった中国市場であるが、トランプ政権は今後、NVIDIAの一世代前製品のH20の輸出規制を解く動きを見せており、これが解禁されれば現在の予測以上に売り上げが伸びる可能性も十分にある。こうした目まぐるしい動きに市場が反応し、株価が乱高下を繰り返す。
一半導体企業の業績が経済全体への大きなインパクトを与えている現在のNVIDIAの存在感とAI経済の急拡大は、はかつてPC業界に君臨したIntelとMicrosoftの全盛期とは比べ物にならない規模とスピード感で多くの分野を巻き込んで爆走する、今までに見たことがないある種異様な風景と映る。
寡占化・複雑化するAI産業構造
こうしたAI業界の動きを見ていて異様さを感じる理由の1つが、投資額の大きさである。
NVIDIAの今回の四半期の総売り上げは約9兆円にも上るが、ビッグテックが競って投資合戦を繰り広げるAIデータセンターへの投資額も、ほとんどの場合が兆円単位の巨額投資である。
NVIDIAの半導体製造を一手に引き受けるTSMCが先端半導体ファブに投じる研究開発・設備投資額も兆円単位になっており、AI業界は最早、こうした巨額投資が可能な巨大テック企業による寡占状態が加速化している。その主役はNVIDIA/TSMCを始めとする半導体ブランド、OpenAI/Anthropicなどの新興AI開発企業、とMETA/Micorsoft/Google/Oracleらの巨大テック・プラットフォーマーたちで、これらの巨大企業がお互い入り組んだ投資関係にあり、Jensen Huang自身が認めるように「顧客が投資者の主体となる」といった持ち合い状況の相互依存構造を形成している。こうした状況は、一旦成長が止まると業界全体が急速に収縮する構造的な危険性もはらんでいる。
競合の出現を許容する市場規模の拡大
NVIDIAがけん引するAI業界ではNVIDIAの突出した存在で、半導体サプライチェーンのビジネス構造は「AI関連か、その他」という具合にはっきり2分化している。その中で、一年単位という驚異的なスピードで大規模な半導体製品を繰り出すNVIDIAの一強状態は、他の産業を見ても類のない73%という驚異的な粗利率を達成している。あたかも巨額の資金の投入によって急成長するAI市場で生まれる利益のほとんどがNVIDIAに吸い上げられているように見える。
「技術革新による自由競争」を原動力として成長してきた半導体業界がこの状態を指をくわえて見ているはずはない。GPUベースのアクセラレーターで2番手につけるAMDはOpenAI/Oracle/METAなどと次々と大規模な案件を締結したし、独自技術による推論用AIチップであるGoogleのTPU(Tensor Processing Unit)も開発着手以来10年以上がたち、かなり性能も上がってきている。クラウドサービスで業界に大きな影響力を持つAmazonも学習用の“Trainium”チップに加えて、推論用の“Inferentia”を自社データセンターで活用し始めた。
AMDのCEOであるLisa Suは今月に開催された自社イベントで、2030年にはAI半導体の市場規模が1兆ドルに達するとの見方を示した。日本の国家予算を遥かに超える巨大市場ということになる。各種の将来予測でもAI市場の急速な成長力はNVIDIAを含む多くのイノベーターたちが共存できるくらいの規模を提供する見方が多いが、今後はボトルネックが明らかになってくるだろう。
まずはサプライチェーンのキャパシティ―の限界である。現在ほとんどのAIチップはTSMCの先端ラインで製造されているが、これには限界がある。またNVIDIAのシステムを構築する大容量のHBMデバイスも級数的な需要増加を見せる、台湾を中心とするサーバーODMから完成品に必要なクーリング・システムに至るまで、AIサービスを支えるサプライチェーンは実に多岐にわたっていて、これらも増産体制が必要となる。
それより深刻なのがAIデータセンターが湯水のように消費する電力の供給源である。
Jensen Huangは「今後はるかに電力効率の良い製品をデザインしている」と言うが、業界全体が消費する電力を賄うには電力創出が必要となる。
楽観と悲観をないまぜにして急拡大する市場を先導するNVIDIAは今後どこに向かうのか?

