少し前であるが、IntelとAMDが例年通り一週間を挟んで第3四半期(7-9月)の決算発表を行った。従来よりx86アーキテクチャー市場での激しい競争を繰り返してきた両社だが、今後の両社の状況はCPU市場の枠組みを超えて、AI市場に広がる。
赤字のトンネルを脱したIntelと順調な成長を続けるAMD
前任のPat Gelsingerに代わり、新たなCEOとなったLip-Bu Tanにとっては、そろそろ市場でIntelが信任を回復する道筋を示したいところだったろう。というのも、Intelはこの1年半の長きにわたり赤字を計上しており、一部ではかなり悲観的な見方が出ていたからだ。
今回の決算では、41億ドルの純利益を計上し前年同期の166億ドルの赤字状態から大幅に好転して、株価は大きな上昇を見た。しかし、往年のIntelと比較すると、粗利率が34.5%と再建にはまだまだ時間がかかるという印象を残した。
製品別の売り上げを見てみると、今回の黒字化を牽引したのはPCクライアント部門で、特にWindows 11への移行時期に企業系のパソコンの買い替え需要をしっかり取り込んだ結果と言える。しかし、利益率が最も大きいデータセンター部門でのサーバー用CPUの分野では前年同期比では1%の下落で、相変わらずAMDにシェアを失っていることが伺える。
AMDは相変わらず好調で、総売り上げは記録を更新し、前年同期比で35%アップの92億ドルを売り上げた。PCクライアント部門は微増だったが、データセンター分野では34%のアップとなっている。この数字を見て明らかなのは、AMDの記録的な売り上げの伸びのほとんどは、データセンター分野での売り上げ増ということだ。“Epyc”を中心とするサーバーCPUの製品群の伸びに加えて、MI300/350を中心とするGPUベースのAIアクセラレーターの売り上げが全体をけん引したということであろう。この分野では金額ベースの比較でAMDはIntelを抜き去った。粗利率は52%と、昨年から2ポイントアップしていて、データセンター分野でのCPUの堅調な売り上げに加えて、GPUベースのアクセラレーターの比率が高くなっている事が伺える。
大型案件から伺える今後の両社の趨勢
先月はこの両社に絡む大型案件が相次いで発表された。
大きな財務問題を抱えるIntelは米国政府、SBG、そしてNVIDIAからの巨額の資本参加を受け入れた。NVIDIAの資本参加は、x86アーキテクチャーにNVLinkをつなげるカスタムチップ設計での協業が表向きの内容だが、新たな資本参加の真意は現在Intelがオレゴン州とアリゾナ州で鋭意進めるファウンドリ会社構築への期待にもあると考えられる。
現在Intelは自社設計のx86プロセッサー製品の製造をほぼ全量TSMCに製造委託しているが、最近のIntelが五月雨式に発信する内容を見ると、現在開発を進める先端プロセスIntel 18Aは「パワー・ヴィア」などの独自の先進技術を実装し、パフォーマンスがかなりいいらしい。
あとは、各プロセスの微妙な調整を繰り返しながら、全体的な歩留りを上げ、クライアント向けのCPU「Panther Lake」と、サーバープロセッサーの「Clearwater Forest」の自社ラインでの製造を目指している。この数年間、先端品の製造をTSMCに委託してきたIntelが自社製造ラインで製造できれば、この数年先端品ではファブレス状態であったIntelはかつての垂直統合型のIDMに復帰する事になり、この製造ラインが成功するか否かは今後のIntelの趨勢を見極めるためには大きなターニングポイントとなる。
Intelの課題はこれだけではない。AMDとの比較で利益率が大きく見劣りする理由は、Intelには未だにAI市場でのプレゼンスが欠落していることにある。これまでIntelはAIアクセラレーター新興企業を複数買収して製品のポートフォリオを強化しようとしたが、これらはすべて失敗に終わっている。現在のIntelにとっては、ファウンドリ会社の構築とAIアクセラレーターの取り込みは大きな課題となっており、Intelがかつての栄光を取り戻せるかは自社の努力にかかっている。
いっぽうAMDは、決算発表後に開催した証券アナリスト向けのイベントで、AI半導体を中心とする将来の製品戦略について、詳細にわたるロードマップを披露した。CEOのLisa Suは2030年にAI半導体の市場規模が1兆ドルに達するとの見方を示した。市場の急成長に沿って、AMDも成長を見込んでおり、「今後3-5年で年平均35%の増収」、というかなり強気な発表をしている。決算に先立って発表された、OpenAIとの協業では数年間にわたる契約で6GWのデータセンターを構築する計画であることを考えると、強気の増収予測にも現実味がある。
今後の注目点
x86アーキテクチャー市場での激しい競合で業界全体を牽引してきた両社を取り巻く状況は、AI半導体の登場で大きな構造変化を迎えている。
また、TSMCの急成長に伴って製造拠点の偏在も業界全体の大きな課題となってきている。この状況で、Intelの先端プロセスIntel 18Aとその仕上がりは、今後Intelが世界のファウンドリ市場の力学に影響を及ぼすような存在になるのかの大きな見極めポイントとなる。また、AMDにとっても急峻な成長を支える製造パートナーとして、TSMC以外のファウンドリ企業にも視野を拡大する必要も出てくるかもしれない。
業界全体のダイナミズムを決定付けるNVIDIAの決算発表は今週に予定されている。CEOのJensen Huangが何を語るかがますます注目される。

