NVIDIAによる矢継ぎ早の巨額投資が大きな話題となっている。今年に入って時価総額が4兆ドルを突破し、半導体の枠を大きく超えて、世界最大の企業となったNVIDIAのCEO、Jensen Huangが2つの巨額投資案件を発表した。これらの案件は、第2四半期の決算発表後に一気に飛び出してきたが、この1年くらいの周到な計画と交渉の結果として順次発表されている印象を受ける。いずれも、戦略的価値のある大型案件で業界全体で起こる構造的変化を象徴するものであった。
Intelへの投資でx86市場に参入するNVIDIA、新旧覇者の協業
IntelのCEO、Lip-Bu Tanと並んでWebでの発表に姿を現したJensen Huangは、トレードマークの革ジャンではなく、ダークスーツに身を包んでいた。それもそのはず、その時Jensen Huangは米トランプ大統領の英国訪問に随行し、英国王室主催の晩さん会に出席した後だったからだ。
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Web形式で行われたNVIDIAとIntelのプレスカンファレンスにはいつもの革ジャンとは打って変わってスーツ姿のJensen Huang CEOの姿があった (出所:NVIDIA/Intel開催のプレスカンファレンス)
半導体業界の歴史における新旧の覇者である両社のCEOが微笑みながら協業スキームを発表する姿は、業界が相変わらずの下剋上にある現実を見せつけた。片や50億ドルの巨額投資をするAI半導体の覇者NVIDIA、片や巨額赤字を抱えるかつてのCPU半導体の覇者Intelのツーショットは、まさに新旧覇者の交代を象徴するイメージだった。
NVIDIAはIntelに50億ドルを出資し、Intelは至宝とも言えるx86ベースのCPUを高速インタフェースNVLinkに接続できるように再設計し、NVIDIAのGPUとIntelのx86 CPUをチップレットで接続するというスキームだ。このスキームではNVIDIAはIntelの最大の顧客となる。両社がターゲットとするのは、ハイエンドのHPCを含んだサーバーシステムと、エッジAIを可能とするPC用の製品だ。
すでにデータセンターのAI領域を掌握しているNVIDIAと、歴史的にPC市場を掌握してきたIntelのこの協業スキームは、うまくいけば両社に利がある構図になる。
この2人が登場したWebベースのプレス会見では多くの質問が出て、両社が関わる業界分野での本音が垣間見える瞬間があり、大変に興味深かった。まず、Jensen Huangが大規模なAIデータセンターを運営するハイパースケーラーの多くが未だにx86ベースのCPUを使用しているという現実を語ったことだ。NVIDIAはArmベースのマルチCPUコアの“GRACE”を持っているが、顧客の中には長年使い慣れたx86 CPUベースのインフラを未だに重要視する傾向があり、この分野はIntelのCPUで切り込むのが一番手っ取り早い方法と認識しているという事実だ。
それにも増して、NVIDIAにとって大きいのは、今後大きな成長が見込まれるPCによるエッジ・ノードのAI化である。PC市場はArm勢によるCPU置き換えの度重なる努力にもかかわらず、未だにx86が優勢を保っている。この市場への参入にはIntelは一番組みやすい協業相手だ。赤字続きのIntelにとっては50億ドルという巨額の投資は財務上大きな意味のある資金だ。米政府の資本参加に加えてIntelの財務体質改善には大きなプラスである。
NVIDIAが赤字続きのIntelへの資金援助をすることで、製造業の国内回帰を政策に掲げるトランプ大統領への心象もよくなる。これは国内開発のAIチップを奨励する中国政府に対する米国政府による外交圧力につながる事も考えられる。
2人のCEOには「NVIDIAがIntelファウンドリを使う予定はあるのか?」という質問が相次いだが、これについては2人とも直接の言及をせずにうまく質問をかわした。2人とも「TSMCは重要なパートナーで、我々はTSMCにとっての最も重要な顧客であり続ける」、という紋切り型の回答で、Intelファウンドリの実力の不確実性と、TSMCへの特別な配慮が感じられた。
OpenAIへの巨額投資でAIデータセンターの市場規模の拡大を図るNVIDIA
Intelへの巨額投資とx86アーキテクチャー市場への参入は、既存市場でのシェア拡大が目的だが、NVIDIAはAI市場規模自体の拡大を図る大胆な投資計画も発表した。
OpenAIに対し1000億ドルの投資をし、10GW規模のデータセンター構築を目指すOpenAIを資金的にサポートする。インフラ開発の進捗に応じて段階的に投資額を増やす計画だ。第一段階は来年後半までに次世代製品“Rubin”を搭載したデータセンターを整備する。前回の決算発表でのプレスとのやり取りでJensen Huangは、「1GW相当のAIデータセンターを構築するには、約500億ドルの資金が必要だ。そのうち、NVIDIAのチップとサポートの代金として約350億ドルが支払われる」、と発言している。データセンター全体の拡大で最も稼げるのはNVIDIAで、市場の拡大のためには巨額の出資も再投資という形で回収されるという構図である。
これまでもIntelを含む半導体企業は、デジタル社会インフラの構造変化を生んできたが、このレベルの巨額投資を伴う構造変化の創造はこれまでにはなかった。
益々巨大化するNVIDIAの経済圏と身構える競合各社
時価総額4.5兆ドルというNVIDIAの巨大な経済圏は拡大を続けていて、減速の気配はない。
今回のNVIDIAの動きはIntel/NVIDIA両社と競合するAMDにとっては今後のビジネスに大きく影響する可能性がある。また、GoogleやMETAなどのハイパースケーラー大手から推論用AIカスタムチップの設計を請け負うBroadcomのビジネスへの影響も考えられるが、何にもまして明らかなのは、AI半導体の市場自体が急拡大していて、その原動力となっているのは技術革新による「競争原理」である事だ。
構造変化は今後も継続して起こる気配で、技術競争による各社の切磋琢磨がこの業界のエネルギーを生み出している事は間違いない。
