米中首脳がサンフランシスコでのAPEC首脳会議で1年ぶりの対面での会談に臨んだ。多くの問題が山積する状況にあって、軍・国防当局間の直接対話を再開することにより、誤算による偶発的な衝突を回避するべく軍高官同士の直接対話再開で合意をみた。他の分野では大きな進展はなかったようだが、きな臭さが増す世界状況を考えるとまずはホッとするニュースだ。

米中関係は多くの分野で高い緊張状態にあるが、政府・ビジネス界が注目するのが半導体分野における米国の対中輸出規制の問題である。

ダウングレードで中国向け製品群を拡充しようとするNVIDIA

米国商務省は半導体製品の中国向け輸出に関して事細かなスペックを提示し、先端品の輸出を詳細に規制している。しかし、中国市場は他の産業分野と同様、半導体でも世界最大である。

現在、先端品の最前線を行く半導体分野ではNVIDIAのAIプロセッサーが大きな注目を集めている。ワークロードのパラメーターが級数的に増加するAIプロセッサーの最前線ではNVIDIAが実質的な独占企業であり、需要が集中しているA100/H100に加えて、さらにパワーアップしたH200が登場した。

  • 「NVIDIA H200」

    NVIDIAが2023年11月13日(米国時間)に発表した「NVIDIA H200」 (出所:NVIDIA)

現在のところNVIDIAの先端品は世界中で供給がひっ迫し、単価高騰の結果、最近発表の決算でも記録を更新している。その売り上げの4分の1を占める中国市場向けには先端品のダウングレード品A800/H800で輸出規制をかわしながら輸出を続けていたが、米国政府は規制条件をさらに厳しくする措置をとる準備を進めている。

海外の報道によると、これに対しNVIDIAはさらなるダウングレード品で対応するという。常に先端レベルを追及するのが半導体の本来のありようだが、巨大市場を前にしてあの手この手で市場ににとどまる構えだ。ここしばらくはNVIDIAの世界市場でのポジションはゆるぎないと見えるが、常に熾烈な技術競争を繰り広げるこの業界では競合がチャンスを虎視眈々と狙っている。技術革新とビジネスの拡大は半導体会社にとっては譲れないところで、中国市場をめぐり米国政府当局とのいたちごっこが継続される予想だ。

半導体製造の国産化に躍起になる中国が製造装置を大量輸入

「国家安全保障」の旗頭のもとで現在中国政府が最も力を入れているのが、サプライチェーンの自前化と国産化である。

かつては外資を受け入れ、中国国内で生産をさせる方向性であったが、技術革新の加速化と米国の厳しい輸出規制で状況が違ってきた。現在では戦略物資のサプライチェーンを中国企業で自己完結することをめざしている印象がある。半導体はその中でも最重要課題の1つで、最近発表された中国政府による400億ドル規模の新たな半導体ファンドは製造装置の自前化が焦点であるという。

最近の経済紙で「7-9月期の中国の半導体製造装置の輸入が前年同期比の9割増」という記事を見た。この輸入急増の中で突出した部分がオランダのASMLの露光装置であるらしい、とこの記事は指摘している。成膜やエッチング分野で世界市場をリードする米国のAMAT(Applied Materials)が中国最大のファウンドリ会社SMICに無許可で製造装置を輸出した疑いがあると、米政府当局が捜査をしているという報道もあった。

米政府が輸出規制で制限しようとしているのはAI・高速通信などの先端分野であるが、輸出規制をさらに強化しようとするきっかけになったのが、Huaweiの5Gスマートフォンの新製品にSMIC製の7nmレベルの半導体製品が組み込まれていた事が判明した一件だ。輸出規制に抵触しない製造装置の巧みな応用で先端レベルに迫る中国の技術の急伸を、米政府が重く受け止めている証拠だ。SMICの決算を見ると利益率は下がっている模様で、7nmレベルの製品についてはかなり歩留りが低いと察せられるが、まずは技術の確立を優先しようということだろう。

世界へのアピールよりも実質的な結果を追い求める現在の中国

先日、「スパコンのオリンピック」とも言われるTop500の最新リストを眺めていてふと気が付いたことがある。ちょっと前までは中国製スパコンがすらりと名前を連ねた時期があったが、今回のTop500のリストを見ると、Top100の中にわずか2社がランクインしているだけである。しかも11位にランクされたSunway TaihuLightは中国製のCPUを使用している。

  • Sunway TaihuLight

    2023年11月版のTop500では11位となった中国のスパコン「Sunway TaihuLight(神威・太湖之光)」。2016年6月版から2017年11月版までの4期にわたってTop500で1位を獲得し続けた。そのCPUとしては中国National Research Center of Parallel Computer Engineering & Technology(NRCPC)が開発したメニーコア「SW26010」が用いられている。このCPUも元々、前世代のスパコン「Tianhe-2(天河2号)」がIntelのXeonとXeon Phiを組み合わせた者であったが、米国の規制によってXeon Phiが入手できなくなったことを受けて設計されたという経緯がある (出所:Top500 Webサイト)

そういえばHuaweiのスマートフォン新製品「Mate 60 Pro」の発表もどちらかと言うと控えめで、7nmレベルの製品を採用していた事実は、米国の調査会社の分析による報道で大きく注目されたという経緯もある。Teslaと比肩する企業に成長したBYDなどが主導するEV分野でも、先端プロセスを必要としないパワー半導体を中心に中国製比率が増えている。

かつて中国は「中国製造2025」の大々的な宣言を行い、半導体技術革新と国内生産の急峻な立ち上げを狙ったが、現在は世界へのアピールよりも実質的な結果を追い求めている印象がある。