半導体ウェハ業界に大きな動きがあった。台湾のGlobal Wafers(GW)がドイツのSiltronicを買収するというニュースだ

この買収が完了すれば、しばらく信越化学工業とSUMCOの日本企業2強の寡占市場だったシリコンウェハ市場は、この2社にGWを加えた3社で9割近くのシェアを握る寡占市場となる。

Global Wafersは東芝セラミックスから独立したコバレントマテリアルの買収によって300mmウェハビジネスに参入すると、米国の最大手であったサンエディソン社(旧MEMC)とデンマークのTopsilを取り込んで大きくシェアを伸ばした。これに加え今回の欧州最大手のSiltronicを買収することで、規模的にはSUMCOを抜いて第2位のシェアに躍り出る。現在のSUMCOも基をただせば旧財閥系の三菱マテリアルと住友金属の大型合併にコマツ電子が加わった混成チームであるので、今回のGWの買収でシリコンウェハ市場の再編はひと段落することになる。

信越とSUMCOのおひざ元の日本市場では知名度がいまいち低いSiltronicであるが、私自身がシリコンウェハビジネスで外資系2社での経験があって、Siltronicは常に手ごわい競合であった。そんな背景があるので、シリコンウェハ製造についての長い経験を持つドイツのSiltronicの買収に乗り出した台湾のGWが今後どんな動きに出るのかには大変に注目している。

長い歴史と高度な技術ノウハウを持つドイツのシリコンウェハの雄

ドイツのシリコンウェハの老舗企業Siltronicの創業は1968年(Intelの創業と同じ年)であるから、いかに長い歴史を持つ企業であるかがうかがえると思う。今回多くの株を手放すことになる親会社で、同じドイツのWackerケミカルに至っては創業1914年という総合化学企業である。Wackerはシリコンウェハの原料となるポリシリコンの最大手サプライヤ―でもある。

  • ウェハ

    クリスタル・インゴット製造工程前の高純度のポリシリコン

欧州における長い半導体開発の歴史の系譜を受け継ぐSiltronicについては、米国とフィンランドのウェハメーカーに勤めた経験がある私にとっていくつか印象深い思い出がある。

一番印象深いのがSiltronicがパワーデバイスの客にめっぽう強いFZ(Float Zone)シリコンを持っていたことである。エンジニアリングの素養がない私には最後まで詳細を理解できなかったが、通常のシリコンインゴットの引き上げが「チョクラルスキー法」によるのに対し、Siltronicが得意とするFZシリコンインゴットはシリコンを垂直ゾーン融溶という特殊な方式で引き上げることによって結晶欠陥が非常に少ない高純度のクリスタルを製造することができるという優位性を持っていた。

このクリスタル引き上げ法によるクリスタルはその物理的制約によって200mmが限界と言われているが、その方式を見事に標準製品化したSiltronicは200mmのFZシリコンウェハ市場では他社を寄せ付けない強さがあった。特に高耐圧のIGBTなどの日本の半導体メーカーが世界的に強い分野でのシリコン供給者としてかなりの強気サプライヤであった。パワーデバイスで世界をリードするドイツのInfenionは同じドイツのSiltronicとの協業によって300mmのFZウェハによるパワーデバイスの製造で抜きんでる存在である。これを可能とする技術ノウハウは未だに業界で話題になるくらいである。

  • ウェハ

    クリスタル・インゴット引き上げ機の内部構造

今後の展開が注目されるGW

その成立過程を顧みると一目瞭然なのが、日本の2強である信越とSUMCOがあくまでも日本ベースの企業であるのに対し、日本、米国、欧州の大手企業を買収することで拡大した台湾ベースのGWは真にグローバルな企業であることだ。GWを率いるDoris Hsuは「シリコン業界の女王」の異名をとる辣腕経営者であるが、Dorisには下記のような大きなチャレンジが待ち構えているが、GWのやり方次第ではユニークな強さになる可能性がある。

  • 各国の複数の老舗企業の買収によって成長したので、クリスタルとウェハの製造拠点が世界中に存在している。特に価格主導型のコモディティ製品であるシリコンウェハ市場ではこれらの拠点をどう効率よく回すかが重要な課題となってくる。その過程において拠点の統合も必要となるであろうが、非常にアナログなオペレーションで成り立つシリコン製造現場の効率的統合は非常に難しい。
  • 同じシリコンビジネスにあると言えども日本、米国、欧州で長年ビジネスをやってきた歴史を持っている各企業はそれぞれが独特の企業文化を持っている。開発、製造、販売の各部門に配置された人的リソースを最も効率よく動かすのは大変な困難を伴うと思われが、企業人材の多様性という点ではGWの強みともなる。
  • 大きな優位性はSiltronicのFZウェハに代表されるように、各社が長年培った技術ノウハウをすべて包含する大きな武器を持っている点である。これらをうまく結集させれば今後成長が期待されるパワー、IoT、AIなどの新たな市場で市場をリードするポテンシャルを秘めている。
  • ウェハ

    Am486プロセッサの回路が作りこまれた8インチウェハ

私は上述ではシリコンウェハを「コモディティビジネス」と呼んだが、各顧客によって仕様が微妙に異なるシリコンウェハは実態は非常にカスタム性の強いビジネスである。GWが技術的な強みと、効率的な製造による価格低減を生かせれば大きな成長が期待される。