出口の見えない、ロシアとウクライナの戦争――。私たちは今、世界的なエネルギー危機に直面しています。ガソリンの高騰、それに紐付く材料費の高騰、生活必需品や食材の値上がり。「エネルギー」について考えざるを得ない日々ですが、一方で「CO2削減や再エネルギー化においての議論もトーンダウンしているのでは?」と感じている方もいるかもしれません。答えはNO。世界のエネルギー問題の潮流は「化石燃料に頼らない社会の実現を」という議論であり、それは当然、日本企業にも求められています。
→連載「あつみ先生が教える SDGs×ビジネス入門」の過去回はこちらを参照。
製造業だけではない。IT企業にも課されるCO2削減
SDGsの中で今、最も外圧が高まっているのは「目標13:気候変動に具体的な対策を」です。プライム市場で気候変動に関するアジェンダの開示が義務化されていることに端を発し、日本企業、特に大企業では対応が急務となっています。
しかし、ESG(Environment、Social、Governance)関連の業務を行っている一部の人を除いて、多くのビジネスパーソンは「日常業務と関連性はない」「工場などを持つメーカー系企業だとそろそろ取り組まないといけないのかな」というように、当事者意識が強くありません。さらにIT企業やIT系商材を扱うビジネスパーソンにとっては優先順位が低く、「IT業界には関係ない」「SDGsってエコのことですよね」というような会話も実際に聞いています。
そこで今回は、IT企業のメインストリームであるGAFAMを中心に、IT企業含めて全てのビジネスパーソンにとって他人事ではない「気候変動」問題におけるトピックをご紹介します。
Amazon
Amazonでは、「再生可能エネルギーの100%利用を目指す」という目標を掲げています。自社のオフィスや物流倉庫、アマゾンウェブサービス(AWS)などの事業で使用する電力はもちろんのこと、同社が提供するデバイスにも広げることを表明しています。
また物流の面でも、2030年までに全配送の50%を脱炭素化する目標「シップメント・ゼロ」を掲げ、スタートアップの電気自動車メーカーである米Rivian Automotiveに投資。同社の電気自動車を10万台導入する計画を発表しました。
世界的にさまざまな取り組みが進行している中、日本でも三菱商事などと「コーポレートPPA(電力購入契約)」を締結。大規模な再生可能エネルギーの購入を行うなど、取り組みを加速させています。
Apple
メーカー的な側面の強いAppleは、日本語で展開されているホームページにおいて、以下の内容をうたっています。
Appleは、100パーセント再生可能電力で事業を行うなど、主要な製造パートナーのApple関連事業を脱炭素化する取り組みを評価し、年ごとの進捗状況を追跡します。Appleは2020年以降、カーボンニュートラルなグローバルな企業であり、グローバルサプライチェーンとすべての製品のライフサイクル全体でカーボンニュートラルを達成するという野心的な目標に向けて注力しています。
出典:Apple公式サイト「Apple、グローバルサプライチェーンに対して2030年までに脱炭素化することを要請」
その上で、次の5つの取組みについて言及されています。
①より多くの再生素材と再生可能素材を使う
昨年出荷された製品のうち、再生素材が占める割合は全ての素材の20%でした。
②クリーンエネルギーで作る
250社以上のサプライヤーが、Apple製品の製造に100%再生可能電力を使うことを確約しています。これは、Appleの直接製造費支出先の85%以上に相当します。
③炭素の排出量の少ない方法で輸送する
Appleの新しい輸送計画により、HomePod(第2世代)の輸送時の炭素排出量は80%削減されました。
④エネルギー効率に優れた製品にする
2008年以降、製品による平均エネルギー消費量は70%以上減少しました。
⑤使用済み製品をリサイクルする
2022年には、40,000トンを超える電子廃棄物をリサイクルしました。
やはり再生可能エネルギーは“1丁目1番地”の対策。リユース/リサイクルの観点も盛り込まれています。さらに、Appleは今後に向けたステートメントとして、顧客の充電分の電力量にも着目していること、最終的には全て再生可能エネルギーで賄える状態を目指すことを宣言しています。
実は、Googleの対策からは、企業が再生可能エネルギーと向き合っていくためのプロセスを学ぶことができます。
同社はホームページで「エネルギー消費における化石燃料への依存から脱却し、2030年までに全世界で24時間365日カーボンフリーエネルギーを基盤に事業を運営することを目指しています」と表明しています。具体的な対策としては、まず創業以来、自らが排出してきた二酸化炭素に相当する量をカーボンクレジット※購入によりオフセット(相殺)しました。
再生可能エネルギーへの対策としては第一歩と言えますが、これを「創業以来」というところまでさかのぼって実行している点は、さすがと言えます。
ただ、地球規模で考えた場合、このオフセットは新たなクリーンエネルギーを生み出しているわけではありません。そのため、「次の段階として再生可能エネルギーを作り出す活動に移行していかないと本質的ではないのでは?」という指摘もあります。
ホームページには、「自社の主要拠点で風力発電や太陽光発電などのクリーンエネルギー開発を行っている」との記述もあります。しかも、2030年までに5ギガワットを新たに増設するという目標を立てています。これは1ギガワットが原子力発電所1基分に相当するため、5基分を再生可能エネルギーで増強するという目標となります。 さらには二酸化炭素排出量削減に取り組む都市への支援、同社のカーボンフリー計画によってグリーンジョブと言われる雇用を生み出していくことも目標に掲げています。 これらは多くの企業がたどるべきロードマップを示しているような大作のラインナップと言えるでしょう。
※ カーボンクレジットとは、二酸化炭素の排出量を相殺するために取引される「環境の証明書」のこと。企業や個人が持つ排出削減量に対してカーボンクレジットを購入し、排出してしまった分を相殺する。
「目標13」は企業の生存戦略において重要なテーマ
いかがでしょうか。「自社にはSDGsは関係ない」という意識があったとしても「目標13:気候変動に具体的な対策を」とは無関係ではないことはお判りいただけたのではないでしょうか。「しかし、それは海外だからでは?」と思っている方。そんなことはないのです。
日本に展開しているグローバル企業は何社あるでしょうか? 2022年に日本貿易振興機構が実施した「2022年度海外進出日系企業実態調査」によると6607社あることが分かります。一方、日系グローバル企業(海外進出をしている企業)は1万9千社以上にも上るとされています。
つまり、グローバル企業や日系グローバル企業と連携してビジネスを加速させたいと考えたときはもちろん、既存取引があるなら、むしろ対策を怠れば取引停止になるリスクも潜んでいると言えるのです。逆に、いち早くこの分野に取り組み、競合他社に先駆けて発信することはアドバンテージとなり、新たな顧客開拓にもつながります。
再生可能エネルギー、二酸化炭素の排出削減の取り組みは「地球にやさしい、エコな活動をしよう」という慈善事業的なものではありません。自社の生存戦略において重要なテーマと捉え、全社員のリテラシーを上げ、急務として取り組むべきでしょう。