これからの未来に向けて、ただのポーズ取りではなく、人類が本気で取り組まなければならないSDGs(持続可能な開発目標)。本連載では、国内における起業家やスタートアップを中心にビジネスの話に加え、今後の企業における事業展開にも重要性が帯びてくるSDGsに関する考え方を紹介します。→「SDGsビジネスに挑む起業家たち」の過去回はこちらを参照。
食品ロス問題で「おから」に着目
食品ロス問題が社会課題の1つとして認識されるようになって久しい。農林水産省では「まだ食べられる食品が廃棄されること」を“食品ロス”と定義している。
食品ロスは農林水産省及び環境省「令和2年度推計」によると522万トンにも及ぶ。この廃棄量は世界各地で飢餓に苦しむ人々に向けた、グローバル全体での食料支援量(2020年で年間約420万トン)の1.2倍に相当する。
廃棄される食材はさまざまだが、その中でも「おから」に着目した起業家がいる。オカラテクノロジズ代表取締役の山内康平さんだ。オカラテクノロジズ創業までの道のりや目指す世界観、製造してきたプロダクトなどについて山内さんに聞いた。
食用になるおからはわずか1%
おからは豆腐製造時、豆乳を絞った後に残る副産物(食品製造副産物)で、食物繊維やたんぱく質など栄養を豊富に含んだもの。定番料理の1つには「卯の花」(おからの煮物)があり、学校給食や家庭料理で馴染みのある人もいるだろう。
おからは料理の材料として利用できる食品であり、スーパーでも豆腐売り場に並んでいるが、発生するおからの総量に対し、ほとんど食用利用されていないのが実情だ。
日本豆腐協会の資料「食品リサイクル法に係る発生抑制」によると、おからの年間発生量は66万トンあり、利用割合は飼料用が65%、肥料用が25%、そのほかが10%でうち5~9%が産業廃棄物となり、食用は1%以下に過ぎない。
おからの7~8割は水分でできているため傷みやすい。乳酸菌発酵させたり、乾燥パウダー化したりする活用法もあるが、前者は酸味が強くなりすぎたり、後者は初期導入費用で5,000万円以上かかったりとハードルが高いのが現状だ。
「食品ロス削減に貢献すると同時に、低糖質・高たんぱく質・高食物繊維なスーパーフードであるおからを生まれ変わらせて、良質な栄養を簡単に補ってもらうことを目指しています」(山内さん、以下同)
トレーナーの経験から食品業界へ
山内さんがおからに着目し、起業に至るまでには「人々の健康に寄与したい」との一貫した思いがある。さかのぼること大学生時代、スポーツジムでアルバイトをし、(スポーツ)トレーナーとして会員への運動指導を行っていた。
途中からはボディビル競技に挑戦するため、自身の肉体改造に向き合い始めた。そのころから健康、ひいては健康な食への興味関心がより高まっていったという。
就職を考え始める時期になってからは、生涯トレーナーとして活動する場合、約8,000人もの人々の健康に寄与できるといった試算を見て、山内さんは限界を突きつけられた気がしたという。そこで、進路を食品業界へ切り替えることにした。
「8,000人なんて言わず、世界中の億単位の人々を健康にしたい。そのためには人々の健康をサポートする食品の製造・販売・流通などに関わる仕事に携わりたいと考えました」と山内さん。
2019年に食品商社に入社し、およそ2年半、生協事業の法人営業を担当。その過程で、真に良い原料を使って、本質的な意味で健康に良い食品を作りたいと考えるようになっていた。
同時にフードロス問題も自分事として捉えるようになった。新卒1年目のとき、部署内で最も多くフードロスを出したことがあったのだ。
食品流通の仕組み上、在庫を多めに抱えることが必要ではあったが、いかにフードロスを減らす生産体制を構築するかを、起業前に考えるきっかけにもなった。
栄養価の高いおからで価値ある商品を作る
社会人2年目を迎えるころ、起業の意思を固めてからは、100人を超える実業家を中心とする大人たちに会いに行き、壁打ちをしてもらう日々が続いた。その中でつながった人物に堀江貴文さんがいて、キーパーソンの1人となった。
堀江さんやその友人である三原豆腐店の店主から「行き場を失っているおからを使い、新たな商品価値を生み出したい」とのアイデアを聞いたことが転機となる。
栄養価の高いおからを用いた食品を作れば、山内さんが食の最前線で見てきたフードロス問題解決に寄与でき、人々の健康や環境をより良くしていけると考え、堀江さんの支援の下、オカラテクノロジズを2021年6月に創業。
2021年7月には「OKARAピザ」のクラウドファンディングを実施し、目標金額の5倍となる資金を獲得した。山内さんは当時のことを「お客さまが私たちの事業に意味を感じてくれた。自分の人生を賭けても取り組む意味があると自信を持った瞬間でした」と振り返る。
最初のプロジェクトはうまくいったが、同12月から2~3カ月は低空飛行の日々が続いた。ピザ業界が繁忙期となり、工場でOKARAピザを生産することができなくなったのだ。その間、山内さんはおからを使ったドーナツを自作して販売する。これが後の新商品「ベジドーナツ」へとつながっていく。
関西電力とのコラボでベジドーナツを発売
OKARAピザ以降、2022年2月にカレーとチキンを発売開始し、同7月にはグラノーラを発売開始した。ECでの購入が9割近くを占めるのはEC中心に商品設計した狙い通りだ。一方、見込み顧客との接点を作る目的で、TSUTAYAや北野エースなどの店舗やシティホテルに商品を置いてもらっている。
2023年3月には野菜の栄養と食物繊維がたっぷり含まれたベジドーナツのクラウドファンディングを開始して目標額を達成し、5月から発送を開始している(一般販売は夏ごろを予定)。およそ1年前に製作・販売していたドーナツをブラッシュアップしたものだ。
小麦粉の代わりにおからを使用しているため、糖質量は約45%オフ、油で揚げずに焼くことでカロリーは約24%オフと、一般的なドーナツと比較すると圧倒的に低糖質、低カロリーになっている。
さらに、廃棄農産物問題の解消を目指し、野菜粉末を製造・販売するグリーンエースの特殊技術を用いて、粉末にした野菜を生地に練り込み、野菜の栄養素もたっぷり摂れるようにした。
また、以前(2022年冬のお試し販売時)は冷凍での販売だったが、水分量を調整し常温でも販売できるよう準備中だ。
なお、この取り組みには関西電力が関わっており、今後も協業していく見込みだ。関西電力から新規事業(新ブランド)立ち上げを委託されたオカラデクノロジズがコンサルタントとして入ったという。大企業は新規事業を立ち上げるのに慣れていないのに対し、スタートアップにはその知見やスピード感がある。
一方で、大企業は潤沢な資金力や多くの販売先を抱えているが、スタートアップにはそれらがない。互いの強みを生かしながらコラボするこのような動きは、今後も積極的に進めていきたいと山内さんは語る。
新商品のパン発売に海外展開も
5月末ごろには新商品のパンを発売開始予定だという。小麦の代わりにおからを用いたベジドーナツと同様にグルテンフリーの製品で、食物繊維の多さや栄養価の高さ、糖質の低さが特徴となる。
新商品発売に伴い、生産体制も効率化・仕組み化し、生活者がより手ごろに感じられる価格に近づけていくことも目指している。「おからは1回食べただけでは変化がわかりづらく、定期的に食べ続けていただくことで気づくことがあります」と山内さんは話す。
だからこそ、顧客にとって継続購入しやすい価格帯を目指すと同時に、将来的にはより多くの店頭に商品を展開し、買ってもらいやすい環境を作ることも意識している。
「フードロスの観点でいうと、アップサイクル食品協会(UFA、米国)のような団体やSAVE A CRUST(シンガポール)のような企業が世界では続々と出てきています。日本でもアップサイクル=おしゃれ、のように価値を感じてもらえる空気ができれば、そのような団体や企業も増えていき、私たちの商品もより普及していくのではないかと考えています」
2023年夏ごろには海外展開も考えている。日本の伝統食を含む食は世界的に注目されている。おからも豆腐と同様に、健康的な食品としてグローバルで受け入れられる存在だろう。そのため、海外の方が国内で商品を普及させるよりもしやすいのではと想像している。すでにオカラテクノロジズは世界に照準を合わせている。